2016年に創業したデンマークの「Kaffe Bueno」は、コーヒーの“かす”からオイルなどの有効成分を抽出する独自技術を持つ。化粧品や食品に利用できるその成分は、スイスに本社を置く世界最大の香料メーカー・ジボダンにも採用され、2020年から世界中に流通しているという。
「進化する北欧イノベーションの今」を届ける本連載。今回は、廃棄物を使用したアップサイクルが盛んな北欧においてユニークなビジネスモデルを展開するKaffe Buenoを取り上げる。そのほか、コーヒーかすを利用して雑貨等を展開する日本企業の取り組みにも触れたい。
Kaffe Buenoは、コーヒーにバイオテクノロジーをかけ合わせ、より健康的なライフスタイルを目指している。社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度「B Corp」をデンマークで初めて取得。現地で期待されているスタートアップの1つだ。
同社では、コーヒーかすを化粧品、栄養補助食品、および機能性食品において機能的な成分を生成する技術を持つ。
例えば、化粧品向けには低アレルギーで機能的なコーヒーオイルや天然角質除去剤を販売している。同社のホームページはアンチエイジングや保湿、ヘアケア等の効能を明記しており、ベーシックな化粧品からハンドクリーム、シャンプーやコンディショナーなどに幅広く利用できるそうだ。同成分は、オーガニックコスメの品質を認証する国際的な制度「コスモス認証」を得ている。
食品向けとして、パン、製菓、ピザ、パスタ、ヘルシースナックバーなどに広く利用できるリサイクル繊維も。コーヒーかすから脂質を抽出し、殺菌した後、標準的な小麦粉の粒子径に合わせて製粉している。そのため、グルテンフリー、高繊維、高タンパクの製品をつくるのに適しているそうだ。ナッツやチョコレートのような風味があり、コーヒーフレーバーはほとんどないという。
一方で、コーヒーフレーバーを活かしたい食品や飲料製品に適したオイルも販売する。ポリフェノール、トコフェロール、必須脂肪酸を多く含み、保存期間の延長、微生物による腐敗の遅延、食感の改善を実現するという。
Kaffe Buenoを創業したのはコロンビア出身の3人の起業家だ。同社では、コーヒーを「非常に過小評価された奇跡的な植物」と位置づけ、2016年の創業時からコーヒーを分解して構成分子にするプロセスを研究し、健康増進成分を開発している。
Kaffe Buenoを創業したコロンビア出身の起業家たち(出典:B Corp DanmarkのYouTube)
同社によれば、世界では毎年90億キロ以上のコーヒーが消費されているが、そのうち約60〜70%が埋め立て地で廃棄され、それ以外の大部分がエネルギー生産のために焼却されている。そして、ごく一部のみが練炭やペレット(粒状の形をした合成樹脂)、きのこ栽培、または肥料にリサイクルされている。廃棄された場合は、環境への負荷が避けられない。
同社で使用しているのは、責任を持って持続可能な方法で調達されたアラビカ種の特製コーヒーのみとのこと。以下の図1のとおり、コペンハーゲン内のホテルやカフェ、オフィスなどで出たコーヒーかすを自社に集め、有効成分を生成。BtoBのビジネスモデルで、化粧品や食品企業などへ有効成分を販売することで、コーヒーかすのアップサイクルを実現している。
Kaffe Buenoはデンマーク国内や欧州でさまざまな賞を受賞しており、2021年10月には欧州イノベーション評議会から250万ユーロ(約3億4000万円)の助成金を授与された。これは、EICアクセラレータプログラムと呼ばれるもので、4000社を超える応募者の中から65社のディープテック企業のみが選ばれ、Kaffe Buenoがその1社となった。
同社はこの助成金を使用して、デンマークにヨーロッパ初のコーヒーバイオ精製工場を建設すると発表。これにより、Kaffe Buenoはコーヒー豆のバイオマスを100%利用する世界初の企業となる予定だ。
コーヒーかすの再利用は、欧州内のみならず、世界的に研究開発されている。サステナブル・ビューティー・アワードを3度受賞した台湾企業のオーライトは2020年、独自の超音波技術によりコーヒーかすから抽出したカフェインエキスを使い、ヘアケア製品を発売。このカフェインエキスは髪と頭皮に潤いを与え、フケを抑える効果が見込めるそうだ。同社の製品は、日本でも代理店を通じて販売されている。
コーヒーかすを積極的に採用する日本企業も出てきている。オリジナルグッズを製作するアイグッズでは、コーヒーかすから生まれたサステナブル雑貨ブランド「SUS coffee(サスコーヒー)」を立ち上げ、オリジナルグッズを多数展開。
ミニポット、ドリッパー、クリップ、タンブラー、プレート、カトラリーなど、商品は多岐にわたり、各製品の15%程度にコーヒーかすが使われているそうだ。乾燥させたコーヒーかすに樹脂を配合し、ペレットに加工。それを成形加工して商品を仕上げている。
同社は、「コーヒーかすを配合することにより、その分のプラスチックの使用を抑え、さらに廃棄物の削減にもつながる」と話す。
大阪のGROUNDSは、コーヒーかすと牛乳パックでつくる再生紙ブランド「Caffe Latte」を立ち上げ、クラウドファンディングサイトの「Makuake」を通じて、名刺、ブックカバー、ポーチを受注生産した。
同社では、関東、関西、九州の全14カ所のカフェで飲まれたコーヒーのカスを回収し、製紙会社でコーヒーカスと牛乳パックの再生紙、クラフト紙の再生紙を混ぜ合わせCaffe Latteの原紙を製造。その後、縫製会社や印刷会社で、ポーチやブックカバー、名刺を仕上げたそうだ。
同企業を立ち上げたのは、現役のバリスタでもある20代の起業家で、コーヒーかすを再利用するためだけに創業したという。「コーヒーゴミを活かして減らして無くしてく」をミッションに、コーヒーゴミ廃棄の当事者として、コーヒーゴミの課題に立ち向かう。
このように、コーヒーかすの再利用は世界各国で広がっている印象だ。デンマークにヨーロッパ初のコーヒーバイオ精製工場が完成すれば、大規模な開発が実現し、Kaffe Buenoの世界展開が加速するかもしれない。コーヒーを多く消費するひとりとして、コーヒーかすのアップサイクルが世界的に広がり、環境負荷を抑えるソリューションになることを願う。
小林香織
フリーライター/北欧イノベーション研究家
「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ。【イノベーション、キャリア、海外文化】などの記事を執筆。2020年に拠点を北欧に移し、デンマークに6ヵ月、フィンランド・ヘルシンキに約1年長期滞在。現地スタートアップやカンファレンスを多数取材する。2022年3月より東京拠点に戻しつつ、北欧イノベーションの研究を継続する。
公式HP:https://love-trip-kaori.com
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