Appleの「ヘルスケア」アプリの進化がとまらない。目指すのは、健康関連の個人データを集め、蓄積したデータを医療機関と共有し、大量のデータから有用な情報を引き出すことのできる健康管理ツールだ。しかし、この野心的な目標はまだ完全には実現していない。間もなく登場する「iOS 16」と「watchOS 9」には、新たに服薬管理と睡眠ステージの追跡機能が加わる。では、次の一手は何か。ヘルスケアアプリは医師と話すためのツールとして広く活用されるようになるのだろうか。
Appleは先ごろ、健康に関するレポート(PDF)を発表し、同社が進めるヘルスケア関連の取り組みが今後、iPhoneやApple Watchにどのように反映されるかを説明した。このレポートでは、Appleのヘルスケアアプリや研究活動、医療機関との連携についてまとめられている。
一方、Googleは間もなく、初の独自開発スマートウォッチ「Pixel Watch」を発売する。このスマートウォッチは、「Fitbit」の機能やサービスを活用したものになる予定だ。これに対して、Appleはスマートウォッチの枠にとどまらない、多彩なヘルスケアサービスを提供することで、現在の市場でのポジションをさらに強化しようとしている。例えば、Appleのヘルスケアアプリと「Fitness+」はすでに、Apple Watchがなくても機能するように進化しつつある。
ヘルスケアアプリが医師とのやり取りで活用される日は来るのか。睡眠トラッキングから健康に関する新たな知見は得られるのか。Appleはなぜ、Fitbitの「エナジースコア」やOuraの「コンディションスコア」に相当するものを用意しないのか。
ヘルスケアアプリの現在の目標と長期的な目標について、Appleのヘルスケア担当バイスプレジデントSumbul Desai氏に話を聞いた。Desai氏は、ユーザーのライフスタイルを臨床データや投薬データ、増え続けるヘルスケア指標と融合させ、1カ所で確認できるようにすることが、将来、他の測定値から健康に関する有益な情報を引き出す助けになると言う。
「ただし、データ間の関係は意味のある方法で、慎重に分析する必要がある」とDesai氏は指摘する。人間は複数のデータの間に「誤った相関関係を見出してしまう」ことがあるからだ。重要なのは、ユーザーにとって意味のある関係性を、科学的根拠に基づいて正しく見つけ出すことだとDesai氏は言う。
個人的な話で恐縮だが、筆者はこの数カ月間、何度か手術を受け、病院に通った。その経験から分かったのは、病院で受ける医療と、筆者が使っているウェアラブル端末やスマートフォンのアプリの間には必ずしも接点がないということだ。Appleはヘルスケアアプリを医療の現場でもっと活用してもらおうとしているが、デジタルヘルスケアプラットフォームの枠組みはまだ確立されていない。Appleが唱えてきたメリットの多くは、蓄積されたデータから長期的なパターンを見出し、そこから有益な情報を引き出すことにある。
watchOS 9では、心房細動のパターンの変化を経時的に追跡できるようになる。Desai氏は、「データ間の相互作用は間違いなく重要だ」と指摘する。「心房細動が起きている時間を記録し、そのデータと生活習慣との関係を探る。睡眠時間や運動量によって、心房細動に変化が生じるか。Mindful Minutesアプリを使っているなら、その影響はあるか、といったことだ」
Appleはヘルスケアアプリのデータを医師と共有しやすくする方法も探ってきたが、まだ決定的な方法は見つかっていない。例えば、筆者がかかっている医療機関には、ヘルスケアアプリで収集したデータを患者用ポータル経由で医師と簡単に共有する機能はない。
間もなく登場するwatchOS 9には、睡眠ステージに基づく睡眠トラッキング機能が追加される。この機能は、AppleがFitbitやサムスン、Ouraなどのフィットネストラッカーに追いつく助けとなるだろう。Appleは心臓に関する研究を独自に進めており、その成果をApple Watchに反映してきた。次の進化は「睡眠」の分野で起きるかもしれない。
「科学的観点から特に知りたいのは、特定のステージでの睡眠量、例えばコア睡眠の量(補充睡眠)は、実際に日中の活動に貢献するのかだ」と、Desai氏は言う。「他の人と比べて、メリットを得やすいタイプの人がいるのかなど、研究の観点から取り組むべきことは多い。何らかの科学的根拠が得られない限り、製品に機能として取り入れることはない。因果関係を正しく捉えることが重要だが、これはとても難しい」
Desai氏は、睡眠ステージに関するデータとAppleがすでに収集している心臓や運動に関するデータを組み合わせることで、さらに有用な情報が得られる可能性があると言う。しかし同氏によれば、それは「まだまだ先の話」だ。
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