パイオニアの業績が好調だ。2022年度3月期で3期連続の営業黒字を達成。3月に発売した音声で操作する新たなナビ「NP1(エヌピーワン)」は、「上半期BEST BUY」(家電批評)や「用品大賞グランプリ」(日刊自動車新聞)を受賞するなど大きな注目を集めている。
2020年に代表取締役社長に就任し、約3年間パイオニアを率いてきた矢原史朗氏に、新経営体制や売り切りに留まらない新たなビジネスモデル、さらに再上場を目指す今後の取り組みなどについて聞いた。
パイオニアは、1938年創業の老舗音響メーカー。日本を代表するオーディオブランドの1つとして知られる一方、早くからカーナビゲーション、カーオーディオに取り組み、車載ブランド「Carrozzeria(カロッツェリア)」は業界をリードする存在だ。しかし、2010年代中頃から業績が悪化。2014年にはオーディオ事業を手放し、車載事業に集中していく方針を打ち出した。2018年には、投資ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)の完全子会社化となり、2019年に上場を廃止した。
「2021年の夏ごろから再生ステージを成長投資ステージへと進めた。2022年3月期は半導体不足や原材料の高騰、物流の遅れなどもあり、環境はかなり厳しかったが、3期連続営業黒字を達成できたのは、ガバナンスをきかせ、使うべきところ、使わないところのメリハリを持って取り組んだから。頭脳から手の先、足の先までがきちんとつながっていないと、こうした意思決定をするのは難しいが、全員が納得して取り組めるシステムを採用できたと思っている」と黒字化の要因を明かす。
使うべきところと定めたのは新商品の開発や、コアテクノロジーと位置づける「Piomatix(パイオマティクス)」など。一方で以前からやっているから、去年も使ったからとなれ合いになってしまっている部分は、「当たり前を見直すようにした」とメスを入れた。
こうした「刷新」は、組織体制にも及ぶ。7月には、元セレンスCEOのサンジェイ・ダワン氏を取締役会長に迎えた。「パイオニアには会長職がなく、ダワン氏を迎えるために新設したポスト。今まで提携先としてお付き合いがあったが、今後はアドバイスだけでなく、内部からサポートしてもらいたい」と思いを話す。
さらに「ダワン氏が持つ知見、人脈、リーダーシップは今のパイオニアに必要なもの。会社を上場した経験も持ち、再上場を目指す私たちにとって、彼が経たプロセスはプラスに働くはず」とする。ダワン氏を含む経営陣も社外取締役を増やすなど、再上場を視野に入れる。
7月1日付で発表した組織変更では、「品質保証グループ」を「品質保証本部」に昇格させたほか、技術開発本部 技術統括グループ統括部長の岡崎(漢字は立つ崎)靖氏を執行役員に、執行役員CTO SaaSテクノロジーセンター長の岩田和宏氏を常務執行役員に引き上げ、テクノロジー分野を強化する。
「岩田が管轄するSaaSテクノロジーセンターには現在約300人の人材がいるが、ここを増強していく。開発だけでなく、事業部と一体となり、お客様の声を直接聞き、開発にいかせるようにスコープを広げていく。こうした動きだけ見てもパイオニアがテクノロジーにかける思いが反映されていると思う」と意気込む。
狙うのはハードだけでなく、ソフトとの両輪だ。「私たちが開発、販売するカーナゲーション、カーオーディオ、ドライブレコーダーなどはテクノロジーの塊。今までは機構や電気など、ハード寄りのテクノロジーだったが、これからはソフトのテクノロジーにも注力していく。今までのカーナビは、数年経つと地図のアップデートが必要になり、メモリーカードなどを通してそれを行っていたが、NP1のように常時接続している環境があれば、日々のアップデートが可能になる。今あるハードもソフトのテクノロジーによって、サービスレベルを上げられる」とソフト面の強化によりハードのあり方も変えていく。
品質保証本部の設立もハードの変化を促す施策の1つ。「今まではハードの売り切りビジネスが中心だったため、使い方の疑問に答えたり、修理したりといったことがメインの役割だったが、今後はサービスを中心に据え、お客様と長くつながるビジネスを作り出していく。具体例を挙げるとすると、コンテンツ配信サービスやSaaS型の課金モデルなどのような形。今あるカスタマーセンターをシステムやプロセスを含めてグレードアップさせていく。これに関しては外部のエキスパートの意見もいただきながら強化していこうとしている」と設立意図を明かす。
あわせて、開発体制も強化する。「NP1の海外展開を検討しているほか、第2、3弾を開発中。発表会の時に話した二輪向け商品にも取り組んでいる。遅くとも2023年度中には発売したい。モノづくりについては、コロナ禍であることに加え、半導体不足や部品の高騰など課題は多い。少しずつ良くなっているが、2022年内に解消できるかというとそうでもないだろう。経営的には本当に大変な時期だが、幸いにも最初の2年間(2020〜2021年)で実施した経営体制の強化があるので、そこをベースに市場を見ながら経営していこうと考えている。今期について見通しは今のところ前年並み」とスピードアップを強調する。
開発のベースとなるのは、モビリティAIプラットフォームのPiomatix。音声インターフェース、サービス、コアエンジン、データの4つのレイヤーで構成され、取得した情報を基に、「ワークロード推定エンジン」「走行推定エンジン」「インサイト推定エンジン」の3つが状況を把握、推定し、ドライバーに最適な情報を提供する。
6月には、カーナビゲーション搭載車両から収集する速度や移動距離などのプローブデータ、それを基に生成された渋滞履歴情報を分析して開発したガソリン車の燃費、EV車の電費を推定する特許技術とPiomatixを組み合わせた独自のプラットフォーム「Piomatix for Green」を発表。カーボンニュートラルの実現に向けても取り組む。
「ベースになっているのは、10年くらい前に開発された技術。前面にうちだすことはしていなかったが、今回これが使えた」と時代に左右されない技術開発力を培う。2021年には、社内に点在していた音響関連の部署を統括し、「サウンド事業統括グループ」を新設。「組織として集めることで、もっとうまくできることがあると思うし、うまくいかなかったこともうまくいくような形にした」と今まで積み重ねてきた技術開発を最大限にいかす環境も整える。
目指すのは再上場だ。矢原氏は「ダワン氏に会長になってもらった理由の1つは再上場。来年にも(再上場する)といった状況ではないが、それほど先の話しでもないと考えている」と話した。
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