前編に引き続き、医療業界におけるVRエクササイズ(エクサゲーム)の活用例と、今後の展望を紹介していく。
技術的な進歩はあったが、軽度認知障害(MCI)を患う高齢者の多くがVRエクサゲームを利用できるようになるまでには、しばらく時間がかかるかもしれない。さらなる研究が必要だからだ。
一部のテクノロジーには家庭環境向けに進化を遂げたものもあるが(パンデミック下でその利便性を発揮した)、エクサゲーミングの治療的価値はまだ保険会社に認められていないため、簡単には利用できない。
Pacific Health Centerの記憶クリニックでは、没入型と非没入型の両方のVRエクサゲームが使用されている。両者の主な違いは以下の通りだ。
没入型VRは、ヘッドセットやゴーグルを使用して、インタラクティブな3D仮想環境へとユーザーを誘うエクサゲームだ。
VRゴーグルを装着したまま、エアロバイクに乗る患者もいるかもしれない。David A. Merrill医師は、記憶クリニックで提供されているあるゲームに言及した。自転車で仮想空間を走行しながら、右手と左手で色のついた宝石を集めていくゲームだという。
「サイクリングが体のエクササイズになるのは当然だが、宝石を手に入れて、ハイスコアを獲得し、勝利しようとするから、脳のエクササイズにもなる」とMerrill医師。「高齢者の方々にすごく気に入ってもらえているようだ。何度もやりたくなるような楽しいゲームとなっている」
非没入型VRは、インタラクティブな2D画面を使用するエクサゲームだ。一例を挙げると、2D仮想環境が表示されたタブレットを持ったまま、エアロバイクのペダルを漕ぐ、といったものだ。Anderson-Hanley氏の「iPACES」のペダルと同じように、ユーザーはタブレットを傾けて、行きたい方向に進む。
非没入型のトレッドミルやクロストレーナーには、スマートスクリーンを搭載しているものもあり、タッチに反応するゲームを表示して、反応時間や言語能力、場合によっては数学的能力までも競ったりすることができる。
VRヘッドセットが高齢者にとって常に最良の選択肢であるとは限らず、2Dの方が安全で利用しやすい場合もある、とMerrill医師は考えている。
「ヘッドセットを渡されて困惑する高齢者もいるので、現場ではタブレットを持つ方が受け入れやすいのかもしれない」
VRエクサゲーミングの潜在的な治療効果は非常に有望だ。そのため、多くの臨床エクサゲームが登場し始めている。
VRエクサゲーミングプラットフォームの開発元には、以下のような企業がある。
RendeverFit(1月に提供開始したVRエクサゲーミングプラットフォーム)の共同創設者で最高経営責任者(CEO)を務めるKyle Rand氏は、高齢者向けVRエクサゲーミングの原動力として、「自発的に体を動かすこと」という概念を挙げた。
「高齢層について考えたとき、年齢が上がるほど体を動かすことやエクササイズを嫌がることが多い」とRand氏。「VRの世界では、彼らはもっと自発的に体を動かしており、それがより多くの身体的関与につながっている」
RendeverFitの製品は、ウェルネスプログラムの一環としてテクノロジーに投資してきた多くの高齢者生活施設で導入されている。
Rand氏は、RendeverFitが高齢者コミュニティーに新しいシステムをセットアップするたびに、純粋な喜びがこみ上げてくる、と語った。「みんながあまりにも大きな声で笑うので、スタッフがやって来て、『一体何が起きているのか』と尋ねるほどだ」(同氏)
Rand氏によると、RendeverFitは、老化に対する一般の人々の理解を改めたいと考えているという。「老化のプロセスは、健康を中心として構築することはもちろんだが、楽しむことを中心に構築することも可能だ」(同氏)
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