澄み切った空が好きなら、火星旅行は考えない方がいい。米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーサビアランス」は、この赤い惑星を覆うかすみの正体を追う科学者たちを独自の機器によって支援している。火星のかすみはなぜ生まれるのか――犯人は、突風やダストデビル(じん旋風)であるようだ。
Aeolis Researchの大気科学者Claire Newman氏は、パーサビアランスを支える科学チームの一員だ。米国時間5月25日、「Science Advances」誌にNewman氏を筆頭著者とする論文が掲載された。この論文は、パーサビアランスが火星のジェゼロクレーターで発見した物質を分析し、突風やつむじ風が火星表面のちりや砂を舞い上がらせる仕組みに迫っている。
研究チームは、パーサビアランスのカメラが捉えたダストデビルの画像に加えて、探査車のマイクが捉えた音や、天候やちりの状態を監視する火星環境動力学分析器(MEDA)のデータも活用している。MEDAは湿度や放射線量、ちり、風、気温などを測定する装置で、ジェゼロの天候や、ダストデビルが探査車の近くを通過した場合の影響を把握する助けとなっている。
パーサビアランスのデータが示しているように、ジェゼロは火星の中でも、空気の「渦」が頻繁に発生する未知の地域の一つだ。地表に積もったちりを大気中に舞い上がらせるのはダストデビルだけではない。パーサビアランスのカメラは、強烈な突風によって砂じんが巻き上げられる様子も捉えている。「ある時は、最大級のダストデビルの10倍という広いエリアでちりが舞い上がった。これは静穏時には、ダストデビルと突風は同等量のちりを巻き上げる可能性があることを示している」と論文は指摘する。
火星のちりや風については、まだ分かっていないことが多い。NASAはパーサビアランスとは別の場所に着陸探査機「インサイト」も送り込んでいる。インサイトはソーラーパネルが大量のちりで覆われ、十分な電力を生み出せなくなったため、年内に任務を終える見込みだ。インサイトが活動している地域では、ジェゼロで頻繁に発生しているダストデビルは観察されてない。NASAは、インサイトの太陽電池パネルに積もったちりをつむじ風が払ってくれることを期待していたが、かなわなかった。
火星を覆うちりは、太陽電池パネルを動力源とするロボット探査機を悩ませてきた。NASAの探査車「オポチュニティ」は、惑星規模で発生した巨大な砂嵐によって任務の終了を余儀なくされ、中国の探査車「祝融号」も、ちりの影響で任務の継続が困難になり、5月に休眠状態に入っている。
パーサビアランスの観測データは、火星の風やちりの上昇条件の解明に寄与している。ジェゼロで砂嵐が頻繁に発生する理由を明らかにするためには、さらなる観測と調査が必要だと研究チームは言う。火星を覆うかすみにジェゼロが相当の役割を果たしていることは間違いなさそうだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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