電機大手の2021年度決算は、力強い成長を遂げた企業がある一方で、ウクライナ情勢や円安の影響をじわりと受けた内容になった。
過去最高の当期利益を達成した日立製作所は、中期経営計画の最終年度と重なり、「コスト構造の見直しや収益力強化、事業ポートフォリオ改革の断行により、安定した経営基盤を構築した1年であった」(日立製作所 執行役副社長兼CFOの河村芳彦氏)と、業績に強い手応えを示したほか、売上高および営業利益で過去最高を更新したソニーグループは、国内電機では初の営業利益1兆円突破。2023年度を最終年度とする中期経営計画に対しても、「より高い成長カーブの上にある」(ソニー 副社長兼CFOの十時裕樹氏)として、一部経営指標を上方修正してみせた。
また、空調大手のダイキン工業も、期中に3回の上方修正を行いながら、売上高が初めて3兆円を突破するとともに、過去最高益を達成してみせた。
経営体制の行方が揺れる東芝も、「全事業セグメントで増収、半導体やエネルギー事業を中心に増益になった」(東芝 代表執行役専務 CFOの平田政善氏)と、増収増益の結果となっている。
だが、新型コロナウイルスの拡大によるロックダウンやそれに伴うサプライチェーンの混乱、原材料価格の高騰、部品不足の影響などが、各社を直撃している。
パナソニックホールディングスでは、原材料費高騰の影響が年間でマイナス1500億円、物流費の高騰でマイナス100億円の合計でマイナス1600億円の影響があったと見ており、「価格の見直しや代替材料への置き換え、日中合同での部材の合理化などの対策を継続的に進めていく」(パナソニックホールディングス 取締役副社長執行役員 グループCFOの梅田博和氏)とする。
富士通では、部材供給遅延により、売上収益でマイナス780億円、営業損益でマイナス310億円の影響があったとコメント。「半導体を起因とする部材供給遅延の影響は第4四半期も継続した。調達ルートの変更、別部品への切り替え、価格転嫁といった対策を進めたが、十分なリカバリーには至らなかった」(富士通 取締役執行役員SEVP/CFOの磯部武司氏)と説明した。
また、NECでは、「部材不足はマイナス80億円の影響となったが、これは、290億円の直接影響に対して、210億円の対策効果によるもの。代替部材への設計変更、代替品への切り替え、販売価格の適正化を行ったことに加えて、不要不急な費用の抑制や効率化を図った」(NEC 代表取締役執行役員社長兼CEOの森田隆之氏)と、リカバリー策によって影響を最小化した成果を強調した。
一方、ウクライナ、ロシア情勢は、ロシア向けビジネスという観点では、電機大手の業績への影響は限定的だが、長期化していることで、今後、業績への影響を懸念する声があがっており、「動向を注視していかなくてはならない」というのが、各社に共通した姿勢だ。
シャープでは、「中国でのロックダウンやウクライナ情勢などの影響により、2月から3月にかけて、サプライチェーンが想定以上に混乱したことから、売上高、営業利益は公表値を下回った」(シャープ 代表取締役社長兼COO の野村勝明氏)と説明。「影響は当面続くだろう」と予測している。
また、ダイキン工業でも、「ウクライナ問題の長期化やそれに伴う欧州経済の停滞、資源高によるグローバルの景気減速、物流およびサプライチェーンへのリスク、中国のゼロコロナ政策の影響など、2022年度は昨年度以上に不透明であり、資源価格の高騰や、物流コストおよび人件費の高騰などがさらに進み、過去に経験したことがないほどの厳しいコストアップが続くと見込んでいる」(ダイキン工業の十河政則社長)と危機感を募らせる。
さらに、円安の影響も業績を左右している。ソニーでは、1円の円安によって、営業利益に対する為替感応度が、ドルではプラス10億円、ユーロではプラス70億円とポジティブに働いているが、シャープでは、「ドルに対してはネガティブ、ユーロに対してはプラス。デバイス事業はプラスになるが、ブランド事業にとってはネガティブに働く」(シャープ 常務執行役員管理統轄本部長の小坂祥夫氏)と、影響はまだら模様だ。
国内でのビジネスが中心となるバルミューダは、「円安はバルミューダにとっては悪化方向に進む」(バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏)とし、「為替はどう動くかわからない。円安が継続するのであれば、頑張り抜くしかない」と気を引き締める。
家電事業は、各社ともに売上げは増加しているものの、収益では明暗が分かれている。また、原材料価格の高騰が直撃している分野でもある。
ソニーグループのエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野(2022年度からはエンタテインメント・テクノロジー&サービスに名称変更)の売上高は前年比13.1%増の2兆3392億円、営業利益は66.5%増の2129億円となった。コロナ禍による生産、物流の混乱や、半導体を中心とした部材不足など、供給側でさまざまな制約を受けたものの、製品ミックスが改善したテレビや、デジタルカメラの増収が貢献。9%を超える営業利益率を達成している。2022年度も、テレビの販売台数減はあるが、為替の影響により増収を見込んでいるという。
パナソニックホールディングスでは、くらし事業の売上高は前年比3%増の3兆6476億円、営業利益が32%減の1136億円と、大幅な減益になった。また、くらし事業の分社として、白物家電を担当するくらしアプライアンス社の売上高は前年比4%増の9482億円、調整後営業利益は155億円減の639億円、営業利益が150億円減の645億円となった。
日本でのルームエアコンや冷蔵庫、洗濯機などは、巣ごもり需要の反動があり、それがマイナスになったものの、欧州の空調事業、中国での洗濯機や冷蔵庫などの家電事業が堅調に推移したという。だが、原材料費や物流費の高騰が影響しており、「エアコンで使っていた銅をアルミニウムに代替したが、いまではアルミニウムも最高値をつけている。代替の効果が薄れている」といったように新たな対策を模索する段階にきている。
シャープは、家電事業を行うスマートライフの売上高が前年比2.1%増の4461億円、営業利益は18.0%減の482億円。欧米の調理家電やアジアの洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどは増収となったが、白物家電事業全体では減収となった。とくに、日本では、前年度にコロナ禍で大きく成長したプラズマクラスター関連製品の反動で減収になったという。原材料価格の高騰の影響も大きくなり、「現時点では白物家電への価格転嫁は行っていないが、この状況が続けば、新製品への切り替えにあわせてさまざまな対応を検討していくことになる」(シャープの野村社長)と述べた。
三菱電機は、家庭電器の売上高が前年比10.2%増の1兆1447億円、営業利益は6.3%減の709億円。半導体部品の需給逼迫の影響はあったが、欧米を中心にしてテレワークの定着などにより家庭用空調機器の需要が増加して増収となり、家庭電器の売上高は過去最高を更新。だが、売上高の増加や円安の影響はあったが、素材価格や物流費の上昇などにより減益になった。
日立製作所は、家電事業を含むライフセクターにおいて、半導体不足とウクライナ情勢の影響は軽微とするものの、部材価格の高騰が家電事業のコスト増加、ロックダウンなどの活動制限の影響により一部部品の調達遅延が発生。日立グローバルライフソリューションズの売上収益は13%減の3966億円、調整後営業利益は25.4%減の250億円となった。海外家電事業の売却が大きく影響している。
複数の要因が重なり合った外部環境の悪化により、経営のかじ取りはさらに難しくなっている。2022年度もこの影響が続くと見られるなかで、その波をどう乗り切るかが2022年度業績の明暗を分けることになりそうだ。
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