「立ち上げの時期には、既存のコミュニティーの存在は役に立つ。既存のコミュニティーには、交流の場にたどり着くためには技術上のどんなレイヤーだろうと乗り越えようという、大きな動機があるからだ」(Jacobson氏)
Demos氏は、コミュニティー自体を通じて確立される規範こそ、進むべき道であると考えている。「全員がパーソナルバブル、つまり仮想空間上のパーソナルスペースを保っていればいい、ということではない。答えは対立の解消であり、全員と協力して、所属意識を感じられるようにすることだ。問題はメタバースではなく、そのシステムにある」
Demos氏とJacobson氏、そしてWirth氏も、目指しているゴールは同様だ。人々の共感を深め、障壁を取り除いて、信頼を確立することだ。荒らしやハラスメントに満ちた世界ではなおのこと、これは容易ではない。だが、小さいコミュニティーを通じて確立されていく今後の進路を考えると、筆者は楽観的になる。ときには、歓迎されると感じることもあったからだ。
2022年のBurning Manは、ネバダ州ブラックロック砂漠で対面式の開催を予定しており、BRCvrが主催する仮想形式でのBurning Manは後日、秋になって開かれるかもしれない。いわば、対面式イベントの追体験という形だ。しかし、Demos氏とJacobson氏は、メタバースと現実世界の橋渡しをする方法を考えている。アバターがBurning Manを見ることのできるポータルと、Burning Manにいる観客がアバターの様子をうかがえるポータルを利用するのである。その次の年には、両方の世界をさらに融合することも目指している。
「われわれは、この壮大なプロジェクトを『Within the Window』と読んでいる。メタバースは実際のところ、物理的な世界とデジタルの世界が接する場だ。単にデジタルなだけではない。その両者の間に存在している空間だ。アバター対アバター、意識対意識。われわれは、メタバースで出会うことができる」、とDemos氏は語っている。
VRは今でさえ奇妙な場所だが、これがオープンなソーシャルプラットフォームになれば、人々がそこで共有する体験に関して特定の行動規範に合意するのか、その点が明らかになるだろう。ここでまた思い出されるのが、即興の芝居のことだ。演者の間で作り出されるものについて合意がなく、またゲームや空間に存在するルールを尊重しなければ、拒絶の状態が生まれかねない。そうなったら、たちまちカオスが訪れるかもしれない。ゲームにおける荒らし行為は、そうした尊重が欠如した結果でもある。
哲学者のDavid Chalmers氏は、空間のリアリズムに関する合意が仮想社会における課題であると、近著「Reality+」で述べている。ゲームの世界や遊び場の空間には、一連のルールがあるものの、「ひとたび人が仮想世界を純粋な現実とみなすようになれば、仮想世界の倫理は、基本的に一般的な倫理と同じように重要なものになる」という。
そうなったときにこそ、既存のプラットフォームは、不正な行為に歯止めをかけ、無差別な荒らしやハラスメントを予防するために迅速な対応を求められるようになる。公共の場では特にそれが必要になるだろう。こうした場には、適切なモデレーションやコミュニティーによるサポートが存在しない場合もある。MicrosoftのAltspaceVRは、2022年に入ってから公共の空間の多くを閉鎖し、アバターのプライベートなパーソナルバブルを正式に定めた。Metaが「Horizon Worlds」に追加したのと同じ変更だ。
Wirth氏や、BRCvrのDemos氏とJacobson氏のようなVR関係者の多くは、パーソナルバブルが本当の長期的な答えになると、必ずしも考えているわけではない。保護を実現する一方、親しい交流を制限することにもなるからだ。
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