コロナ禍でNTT西日本が示した本気--国内最大級の事業共創拠点「QUINTBRIDGE」が誕生

 2月21日から3月4日にかけて、CNET Japan Live 2022「社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション」がオンラインで開催された。本稿では、3月1日のNTT西日本 イノベーション戦略室 担当部長 浦川秀明氏のセッション「大阪から関西、そして世界へ。~オープンイノベーションによる事業創出に向けて、リアルとデジタルの”場”を創る~」の様子をお伝えする。モデレーターは、CNET Japan編集長の藤井涼が務めた。

右からCNET Japan 編集長 藤井涼、NTT西日本 イノベーション戦略室 担当部長 浦川秀明氏
右からCNET Japan 編集長 藤井涼、NTT西日本 イノベーション戦略室 担当部長 浦川秀明氏

 同セッションは、NTT西日本が大阪京橋の新本社施設内に開設した日本最大級のオープンイノベーションセンター「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」から配信された。QUINTBRIDGEは3階建てで、1階が共創や交流のためのコワーキングスペース、2階がNTTグループのICT技術をもとに実際に共創を進める際のプロジェクトルーム、3階が法人会員向けのスペースという造りになっている。

QUINTBRIDGE概要
QUINTBRIDGE概要

これまでのオープンイノベーションの取り組みからの気付き

 コロナ禍のいま、何故NTT西日本はリアルな交流の場を用意してスタートアップ、大学、企業とのオープンイノベーションに取り組むのか。設立にあたっては、この時期にオープンイノベーション施設を運営している企業が得ているメリット、または撤退してしまった施設の課題感を学んだ上で開設の判断に至ったというが、それとは別に過去の気付きが大きな動機になっているという。

 「NTT西日本も2014年頃からアイデアソン、ハッカソンなどに取組んでいたが、同様にオープンイノベーションに取組む他社の方々とお話すると、事業化の壁や一部組織の出島化しているとの共通の課題をもっていることがわかった。これからオープンイノベーションを促進するため、我々は社内のリソースやアセットなどを提供できるようにしていきたい」(浦川氏)

 つまりQUINTBRIDGEを開設することで、NTT西日本が本気の事業共創をおこなうという姿勢と根拠を内外に対して示したのである。それに加えてのもう1つの理由が、パンデミック下だからこそ繋がりの確保が必要だという想い、言い換えると「WellBeingを連鎖するような社会の実現」という同社のコンセプトを実現するということである。

 世の中の状況を見ると、リモートワークが中心になって同僚との距離が離れ、人々の心の中にはつながりを大事にしたいという思いがある。そこで、オンラインでは実現できない解像度の高い出会いを生む必要性があると浦川氏は説く。

 一方NTT西日本としても、ICT企業として先端の技術を研究開発し、検証するテストベッド環境を用意し技術をショーケース化していくことで、技術アイデアを社会実装していく必要性を感じているという。そこで、「出会いの場と技術を提供し、もっとトルクフルなビジネスオポチュニティーを創り出す必要があると考えている」と浦川氏は説明する。

 またロケーションとしては、6000人が働く本社の敷地内にオープンイノベーション施設を作ることで、社外からのビジネスアイデアの受け手を大量に確保できるという考えもある。その結果、「社会実装を通じて、WellBeingの連鎖社会の実現に資する事業共創を通じて、NTT西日本グループの社員一人ひとりが変わっていくことを目指す」(浦川氏)としている。

1社では解決できない社会課題を共に解決する

 NTT西日本との事業共創で、具体的に何ができるのか。同社は社会課題に対してICTの力で解決を図る「ソーシャルICTパイオニア」というビジョンを掲げ、西日本エリア30府県で事業をおこなっている。その際に「ICT×○○」の形で取り組みを進めているが、浦川氏は“カーボンニュートラル”や、自然に配慮する“ネイチャー・ポジティブ”などの昨今のトレンドに触れながら、「1社では解決が難しいインパクトのある社会課題が増えてきている」状況で、共創パートナーの存在は不可欠と説明した。

 また本社を置く大阪では、2025年の大阪万博開催に向けて街が動き始めている。万博にはNTTグループもパビリオンを出展する予定で、ほかにも万博開催に向けて、開催地である舞洲に渡る橋やコンテナターミナルでローカル5Gの通信環境を使った渋滞予測や業務効率化の実証実験をおこなっている。それらの1社では解決できない課題や新しい技術を使った取り組みが始まるという部分で、共創による事業展開が見込める。

 QUINTBRIDGEでの事業の作り方については、事業のアイデアだけではなかなか事業化や事業共創に辿り着かなかったという反省から、「アイデアを構想してプロトタイプを開発し、そのプロトタイプを社会実装フィールドで展開していく。このサイクルを回すことによってサービス化、事業化を目指す」(浦川氏)形をとる。その際には、「30府県にまたがる自治体、商工会議所などとの約50件の協定を踏まえた社会実装フィールドを活用しながら、社外の皆様とのアイデアを展開して事業化を目指していきたい」(浦川氏)としている。

QUINTBRIDGEの事業構想
QUINTBRIDGEの事業構想

NTT西日本のチームが事業化の出口まで伴走

 QUINTBRIDGE内には、ICTの実験場としてさまざまな先端技術やツールが用意されている。「色々な技術を展示し、体験してもらい、計測したデータなどを活用してもらうことで皆様との事業共創に貢献していきたい。NTT研究所の先端技術にアレンジを加えたツールなどが置いてあるので、ぜひこれらを現場で体験して欲しい」と浦川氏は話す。

てさまざまな先端技術やツールを用意
てさまざまな先端技術やツールを用意

 QUINTBRIDGEにおけるオープンイノベーションが目指す領域として浦川氏は、「業界課題」「地域課題」「未来社会」という3つのテーマを示す。同施設を入り口として、それらのテーマをアイディエーションし、プロトタイプを作って社会実装していくという流れになる。出口戦略は、業界課題と地域課題についてはNTT西日本のソリューションチームや30府県の課題を解決する専門メンバーと一緒に戦略を検討していく。未来社会の課題については、大阪万博やNTTグループが構想する次世代光技術である「IOWN」を組み合わせながら、同社イノベーション戦略室のメンバーが一緒になって出口戦略を検討していく。

オープンイノベーションが目指す3つの領域
オープンイノベーションが目指す3つの領域

2022年度はQUINTBRIDGEの法人会費が無料に

 セッションの後半では、浦川氏が主催者と視聴者からの質問に回答した。抜粋すると、まず同社が想定している共創パートナーは、地域課題、業界課題、未来社会という課題を解決することに対して共感してくれる人や組織。QUINTBRIDGEの会員には個人と法人があり、会費は個人会員と自治体、従業員数10人未満の法人会員は無料。営利法人で10人以上の企業は年間20万円だが、2022年度は1年間無料となる。

 参加条件としては大阪や関西圏の組織に限定せず、首都圏を中心に事業展開しているスタートアップが西日本に展開していきたい場合や、販路を広げていくためにコラボレーションしたいという動機でも構わないとのこと。また共創するにあたっては、必ずしも参加企業とNTT西日本という形でなくとも、参加企業同士でのマッチングも支援するとしている。

 社内外からの反応については、まず外部からは現時点で自治体から高い関心を得られており、「課題と思っていることをQUINTBRIDGEという場を使って発信したいなど、ポジティブな反応を得られている」(浦川氏)とのこと。

 またNTT西日本社内に対しては、「このような施設を作ることで社内のオープンイノベーションという取り組みは『出島』ではなく、本来NTT西日本のボリュームゾーンがおこなうべき、という意識付けをしたい。それによって外部からの参加者に最大限の支援がおこなえるようになり、ビジネスオポチュニティーを提供できるようになる」とメッセージを送る。

 最後に、カンファレンス共通の質問である「NTT西日本にとって共創の価値とは」との質問に対して浦川氏は、「今は1社で解決できる課題はどんどんなくなっている。一緒に取り組んでいかないと、グローバルな観点や地球規模の課題解決をおこなうにあたり、スピード感が間に合わない。我々自身はギブファーストであり、一緒に取り組むことに価値を見出していきたい。QUINTBRIDGEを通じてそれらの問題を解決していければ」と述べた。

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