パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社は、企業変革の重要な柱の1つに、DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)に取り組んでいる。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務CFO兼経理センター所長、DEI推進担当の西川岳志氏は、「パナソニック CNS社には、健全な経営は、健全なカルチャーがあって初めて成り立つという基本姿勢がある。健全なカルチャーの一丁目一番地がDEIの活動になる」と前置きし、「これにより、新たな発想を持ち、過去の成功に縛られない多様な人材が集い、その能力を最大限発揮し、活躍する会社を目指している」と語る。
パナソニック CNS社は、ソリューション事業が大きな比重を占めるのが、ほかのカンパニーとは異なる特徴だ。
日本マイクロソフトや日本ヒューレット・パッカードの社長などを歴任した樋口泰行氏が、2017年4月にパナソニックCNS社の社長に就任して、企業変革に着手。その取り組みのベースに、DEIを含む「風土改革」を置き、その上で、ビジネスを改革し、事業立地を改革してきた経緯がある。
「松下電器時代から製造業として成長してきたパナソニックだが、CNS社は、単なる製造業ではなく、ソフトウェアやサービスを組み合わせて、社会に貢献していくのが事業の特徴である。製造業で培ってきたカルチャーだけでは、自らを変えていくことができない。自ら考え、自ら行動し、お客様とのコラボレーションを行うことが大切になる。その取り組みの原点にDEI活動があった」(西川常務)とする。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 CMO兼エンタープライズマーケティング本部長デザイン担当、DEI推進担当兼カルチャー&マインド推進室長の山口有希子氏も、「パナソニックCNS社は、過去5年間、本気になってDEIの推進を行ってきた。人権を尊重し、とくにマイノリティの人を尊重すること、そして、企業戦略として競争力を強化するためにはなくなはならない取り組みがDEIだと位置づけている。まだチャレンジ中ではあるが、その成果は着実に生まれている」と自信をみせる。
パナソニック CNS社でのDEIの取り組みは、「マインドセット改革」、「ジェンダーギャップ解消」、「LGBTQ」、「事業場自走」の4つで構成されている。
1つめの「マインドセット改革」は、DEIの土壌を作る活動と位置づけ、社員に向けて働きかけを行う「DEIフォーラム」を2017年度から社内で開催。さらに、国際女性デーのイベント参加、女性の健康課題の啓蒙、マジョリティ層への勉強会、社外向けウェブサイトの開設などを行ってきた。
2つめの「ジェンダーギャップ解消」では、無意識のうちに思い込んでいるアンコンシャス・バイアスについて考えたり、それを自分で気づき、解消していくための啓蒙活動を行っているほか、男性育休の100%所得宣言やこれに関するハンドブックの作成、女性基幹職の比率を2035年に30%にするための取り組みを開始。女性の次期リーダー層向けメンター活動、ロールモデル対話機会の提供、キャリアストレッチセミナーなどを実施しているという。
パナソニックは、「30% Club Japan」にも参加している。これは、企業の役員に占める女性割合の向上を目的に、2010年に英国でスタートしたキャンペーンの日本版だ。取締役会などの意思決定機関に占める女性の比率を30%に到達させることで、多様性がもたらすビジネスメリットの恩恵を受ける可能性が高くなるという考え方が背景にある。
西川常務は、「女性に対するジェンダーギャップは、日本の企業が持っている共通の課題であり、CNS社では、これを最も重要な活動であると捉えて、最も多くの取り組みを行っている」とする。
また、山口常務は、「5年前には、ジェンダーギャップに関する活動はまだ少なかったが、やればやるほどさまざまな活動が必要であることが発見できる。やりたいことが増えると、やりたい人も増えてくる。その結果、現在では、数多くのプログラムを走らせている」とする。
現在、CNS社の女性社員比率は15%、基幹職では5%、部長職では3%となっており、基幹職の女性比率は、同業他社とほぼ同等の水準ではあるものの、DEI先進企業に比べると遅れが目立つという。
CNS社では、現在5%の女性基幹職の比率を2025年度に13.6%、2030年度に23.9%、2035年に30%を目指す目標を設定している。
西川常務は、「経営の意思決定の質を高めるためにも、クリティカルマスを意識する必要があると考え、女性基幹職の目標数値を設定した」としながら、「製造業であるパナソニックには理系人材が多い。しかし、理系女子大学生が少ないことも背景にあり、結果として男性比率が高い傾向になる。現在、男性社員比率は85%を占めている。女性の採用ペースや、女性の昇格ペースが、現状のままで、何も施策を打たなければ、女性基幹職比率30%は永遠に達成不可能である。シミュレーションでは、いまの状況では、2100年になっても到達しないという結果が出ている。2030年に30%、2035年に30%、2040年に30%という3つの案をつくり、経営会議で激論を繰り返し、実現可能な数字として2035年に30%という数字を掲げた」とする。
しかし、この目標はかなり高いハードルだという。山口常務は、「パナソニックグループ内では、CNS社がDEIを強力に推進している立場にあるが、他社と比較するとまだ十分ではない」と前置きしながら、「基幹職での女性比率30%という目標は、かなりチャレンジングな数字である。だが、ストレッチゴールを設定しないと到達しないという姿勢のもとにゴールを設定した。これまでとは異なる女性採用プログラムの実施のほか、昇格に向けての教育プログラムや啓蒙プログラムを進めていく必要がある」(山口常務)とする。
たとえば、こんなことにも配慮している。「女性社員にヒアリングすると、昇格すると私生活がなくなってしまうのではないかといった懸念や、出産後に職場に復帰した際に、重要な仕事は大変だろうと周りが自然に配慮してしまう『マミートラック』が起きている実態がある。また、モデルケースになるような女性が周りにいないために、将来の姿がイメージできないという声もある。こうした課題をひとつひとつ解決していかなくてはならない」(山口常務)とする。
こうした課題は数々のトライ&エラーを繰り返しながら、解決をしていく姿勢をみせる。
一方、2018年度には13.9%だった男性社員の育休取得率は、2019年度には57.8%に増加。さらに2020年度は96.6%にまで上昇。平均取得日数は17.6日に達しているという成果があがっているという。なかでも子会社であるパナソニック システムソリューションズ ジャパン(PSSJ)では、開始日から1カ月間を有給休暇としたり、子供が1歳の誕生日までに2週間以上連続での男性育児休業取得を義務化したりといった取り組みを開始。2020年度の男性育休取得率は100%、平均取得日数は24.8日、2週間以上の取得者の割合は93%に達したという。
「男性育休の取得が増えると、女性にとっても育休が特別なものでなくなったり、復帰後の課題が減ったりし、キャリアプランにもプラスになる。DEIの意識を高める施策のひとつにもなる。子供が生まれるという話が出たら、『いつ休暇を取るの』という会話が自然に生まれるようにしたい」(山口常務)と述べた。
3つめの「LGBTQ」への取り組みでは、LGBTの人たちの活動を支援する「アライ」や、ACCJやFamieeへの賛同、東京レインボープライドへの協賛などを行ってきたほか、4つめの「事業場自走」の取り組みでは、事業部長や事業部メンバーとの対話を行うDEIキャラバン、事業場へのDEI Champ(推進リーダー)の設置、DEI ChampによるコミュニティであるChamp Caféの設置などを行っているという。
「トップダウンの取り組みだけでなく、DEI Champによるボトムアップの活動を行っている。それぞれの現場に適した取り組みが必要であり、これがDEIを浸透させるための原動力になる。Champ Caféでは、事業場を超えた情報交換を行い、良い取り組みは横展開したり、ベストプラクティスを選び、年間表彰をしたりといったことも行っている」(西川常務)という。
パナソニック CNS社では、こうした取り組みの結果、「国籍や年齢、性別などに関わらず、すべての人が公平に扱われている」と回答した社員が、2019年度には72%であったものが、2021年度には78%に上昇。「一個人として尊重されている」との回答は、2019年度の71%から、2021年度には78%に上昇しているという。
DEIの取り組みは、経営面でも大きな影響を及ぼしているという。パナソニック CNS社は、米Blue Yonderを2021年9月に買収完了したが、西川常務は、「CNS社でのDEIへの取り組みがなければ、Blue Yonderの買収はできなかったともいえる。双方の経営トップが、お互いがオープンなカルチャーを持ち、入り交じることができると判断した点が大きかった。実際、いまも、現場レベルでのコラボレーションがスムーズに進んでいる」と述べる。
そして、「Blue Yonderは、ダイバーシティの活動をグローバルで強化し、実践している会社であり、相手を尊重する文化がある。学ぶことが多く、CNS社の今後のDEIの活動に反映させたい」(山口常務)とする。
Blue Yonderでは、経営の枠組みのなかにDEIが組み込まれており、組織ごとにDEIに関する目標が設定されていたり、3カ月ごとに社員を対象にした調査を実施し、それが経営にフィードバックされたりする仕組みができているという。
一方、パナソニック CNS社が、2020年9月に発売したライブ映像制作システム「KAIROS(ケイロス)」の商品化においてもDEIが生かされたという。日本で研究開発し、商品企画を行うというこれまでの仕組みではなく、ドイツのシステムエンジニアリング部門がアイデアを出し、そこに日本の事業部門が参加するというプロセスを取り、それを日本で売り出し、海外に展開したという。「これまでの標準プロセスとは異なるモノづくりを行っている。これもダイバーシティの成果のひとつである」(西川常務)と位置づけた。
また、西川常務は、「企業の競争力の源泉になるのが、人の入り交じりである。違う考え方を持った人が集まり、ぶつかることでイノベーションが生まれ、企業の業績が向上することになる。DEIが進んだ会社は、学生にとっても魅力的な会社であり、いい人材が集まる。キャリア採用にも効果がある。これも業績向上につながり、経営にも大きな影響を及ぼす要素になる」とした。
パナソニックは、2022年4月から持ち株会社制移行するのに伴い、パナソニック CNS社は、パナソニック コネクト株式会社に変更する。
山口常務は、「パナソニックコネクトは、DEI活動をベースに改革を推進し、サステナブルな、より良い社会を実現していく。この成果は、パナソニックのほかの事業会社に対する発信だけでなく、パナソニックの外にも発信し、DEIに取り組む企業のネットワークを作りたい。こうした活動を通じてDEIの先進企業になれるように努力する」と語る。
また、西川常務は、「DEIの先進企業は、すでにDEIを空気のように捉えている。DEIにがんばって取り組んでいるという発言自体が遅れていることを示している。まだ時間がかかるかもしれないが、新生パナソニック コネクトは、SEIに地道に取り組みたい。この取り組みが、パナソニックコネクトの魅力を高め、事業競争力を高める活動につながると確信している」とした。
パナソニック コネクトの今後の成長戦略において、DEIは重要な役割を果たすことになりそうだ。
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