2014年、エストニアは電子国民制度を立ち上げ、欧州連合(EU)圏の会社をオンラインで設立したいと考えている世界中の人々に、政府がデジタルIDを発行する世界初の国となった。
以来7年間、この電子国民制度は主に起業家や経営者、フリーランサー、デジタルノマドたちに活用されてきた。2022年2月中旬時点で、177カ国の約9万人がエストニアの電子国民となり、2万社を超える企業が設立された。このうちの4700社は2021年生まれだ。
「先日、エストニア第2の都市タルトゥの議会関係者と話をした。数字の話になったとき、電子国民の数が話題になったのだが、年内にはタルトゥの人口を電子国民が超えることになりそうだ」と、電子国民制度を統括するLauri Haav氏は言う。
Haav氏によると、エストニアの電子国民制度はビジネスの世界で言うところの「ホッケースティック型成長」のフェーズに入った。電子国民が立ち上げた企業の多くが一定度の成長を成し遂げ、従業員を増やし、事業を黒字化できるようになった。その結果、2021年は電子国民制度からの税収が前年比2倍の3250万ユーロ(約42億円)に跳ね上がったという。
2021年の記録的な成長には複数の要因があるが、その筆頭はロックダウンによって世界中の人々が新しい生き方や働き方を模索するようになったことだ。エストニアの電子国民制度は、こうした人々に1つの選択肢をもたらした。
電子国民制度を利用できる国も増えた。2021年4月までは、電子国民になるための手続きは時間も手間もかかるものだった。必要な書類が多く、エストニア警察国境警備局による厳しい身元確認も行われる。エストニア大使館に出向いて、指紋も提出しなければならない。このすべてを完了した後にようやく、電子国民「キット」とIDカードが手に入った。
現在、このプロセスは簡素化されている。エストニアはすべての国に大使館を置いているわけではないため、国際的なビザ申請サービス業者と提携することでビザ関連の作業を円滑化した。「その結果、ブラジルや南アフリカ、シンガポール、タイでもサービスを開始できるようになった」とHaav氏は言う。
電子国民が起業する分野として、最も多いのはIT、オンラインマーケティング、電子商取引だ。こうしたビジネスは場所を問わない。「家とオフィスはバリ島に、ビジネスパートナーはウクライナに、顧客はドイツに、株主は米国にいる可能性もある」とHaav氏は言う。
「これはたとえ話ではなく、実際の例だ。電子国民制度は国際的でバーチャルな制度であり、国境にとらわれない」
この柔軟性こそ、起業家のVicky Brock氏が2019年にエストニアの電子国民になることを決意した理由だった。Brock氏はその前年に、違法なオンライン取引に対抗するためのツール、データ、情報を提供する会社、Vistalworksを仲間と立ち上げていた。
「顧客の中心は欧州各地の政府機関や法執行機関なので、EUと取引できなくなるリスクは絶対に避けたい。そこで会社を立ち上げた当初から、欧州に拠点が必要だと考えていた」と、Brock氏は米ZDNetに説明する。
Brock氏らは、他の欧州諸国に拠点を置くことも検討したが、最終的にはエストニアを選んだ。決め手となったのは、電子国民制度の柔軟性、公正で透明な税法と会社所有権環境、政府が推進する汚職対策だ。エストニアは小さな国で、人口はわずか130万人、英国の首都ロンドンの人口の14%にも満たない。それにもかかわらず、この国には活気にあふれたスタートアップのエコシステムがある。
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