エストニアはいかにして1都市の人口に匹敵する「電子国民」を集めたか - (page 2)

Kalev Aasmae (ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2022年03月08日 07時30分

デジタルビジネスとの親和性

 電子国民制度は、EU域外の起業家にとって都合のいい制度のように思えるが、Haav氏によれば申請者の約50%はEU域内の起業家だという。電子国民はロシア人が最も多く、次いでフィンランド人、ドイツ人が続く。

 起業家がエストニアに魅力を感じるのは、起業しやすい環境が整っているからだとHaav氏は考えている。「起業はリスクが高い、100万ドル程度の元手がなければ起業すべきではないという考えは、今も多くの国に残っている」とHaav氏は言う。

 「しかしエストニアは違う。会社は簡単に設立できるし、経営にかかるコストも少ない。他の多くのEU諸国では、起業のハードルははるかに高い。官僚主義がはびこり、多くの資金、時間、その他の資源を投入しなければならない」

 2017年にオランダのデルフト工科大学で応用物理学の博士号を取得したナノマテリアル科学者のSantiago Cartamil-Bueno氏は、科学と工学の知識をビジネスに活かす方法を考えていた。

 最初はドイツで起業しようとしたが、言葉の壁と官僚主義に阻まれた。その後、LinkedInの投稿でエストニアの電子国民制度を知り、申請することにした。「必要なのは携帯端末と、あとは妻の許可だけだった」と、Cartamil-Bueno氏は言う。

 その後、Cartamil-Bueno氏はコンサルティングと研究開発を柱とするSCALE Nanotechを立ち上げた。この会社はエストニアで登記されているが、事業活動は主にドイツで行われている。会社は順調に成長中だ。利益を再投資すれば非課税になるエストニアの税制にも大いに助けられている。「エストニアのキャッシュフロー税制では、再投資した利益には法人税がかからない。おかげで起業直後の難しい時期を乗り越え、会社を成長させることができた」と、Cartamil-Bueno氏は言う。

 2014年に電子国民制度が始まった時、2025年には電子国民の数は1000万人程度になると推定されていた。この数字は、2019年発行の白書「電子国民制度2.0」で見直され、現在はサービスの質とそれを取り巻くエコシステムの改善に重点が置かれている。

 電子国民と企業の数は千単位で増え続けているが、同時に安全性を強化する必要性も生じた。この問題に対応するために、エストニアは審査プロセスの強化に乗り出す。申請に必要な情報が変更され、政府機関とのデータ共有も見直された。現在では、エストニア警察国境警備局や税務関税局、金融情報局も関与するようになっている。

 安全保障上の理由から、申請者は現在も当局に出向いて指紋を提出しなければならない。現時点ではまだ、これをリモートで完了する技術はないとHaav氏は言う。「もちろん商用グレードのソリューションならたくさんあるが、例えばエストニア警察国境警備局の要件を満たすような、政府グレードのソリューションはまだない」

 しかし、申請プロセスはあと数年ですべてデジタル化されるというのがHaav氏の見立てだ。あらゆる指標が、電子国民制度は今後も成長し続けることを示している。「電子国民が増えるにつれて、新しい企業が生まれ、既存の企業は成長し、エコシステム全体が進化していく」

 Brock氏は将来についても楽観的だ。Vistalworksでは、2人の創業メンバーがエストニアに移住して正式に同国の居住者となった。2021年には首都タリンにオフィスも構えた。

 「これまでの道のりは驚くほどスムーズだった。エストニアの活気あふれるテクノロジー系スタートアップのエコシステムに、これほど早く参加できるとは思わなかった」と、Brock氏は言う。

 「今は毎日1時間、エストニア語の勉強を楽しんでいる。自分でも意外だが、これもエストニアの一員だと感じているからだ。これからもこの国にとどまり、ビジネスを育てていきたい」

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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