数年前まで、世界のスタートアップの中心地は米国のシリコンバレーだった。しかし、今やスタートアップの盛り上がりは世界各国に波及し、我こそはと、かつてのシリコンバレーのようなスタートアップの盛り上がりを見せる国や地域が増えてきている。その中でも、最も勢いのある国の一つがエストニアだろう。
エストニアは、スタートアップそのものをこの国の第一産業のように盛り上げ、世界中から注目されている。人口約132万人という小国にもかかわらず、すでにユニコーン企業を4社も輩出している。そんな中、新たなユニコーン企業がエストニアから誕生しようとしている。
5年前から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業した筆者(27歳)が、エストニアで今最も注目を浴びているスタートアップ企業「Pipedrive(パイプドライブ)」についてご紹介する。
Pipedriveは2010年に誕生したエストニアスタートアップ企業である。営業の観点から開発されたセールスCRM(顧客管理システム)を売りにしており、販売プロセスを視覚化して営業現場で直感的に使えるシンプルさと、付加価値の高い分析機能の提供により、世界170カ国8万5000社以上に導入されている。また、Forbesも「世界で最も革新的なクラウドサービス企業100社」に同社を選出しており、Forbes Cloud 100 listでは、第77位につけた。
創業者のティモ・ライン氏とウルマス・プルデ氏は、元々セールスマンだった。新聞広告から保険まで何でも販売し、コカ・コーラや日産自動車といった企業の何万人もの営業担当の教育を経験した後、2人はCRM市場の隙間を発見した。40年にわたる豊富な経験の中で、実際の営業担当のニーズに対応する販売管理ツールがないことに気づき、自分たちで作ることを決意し、Pipedriveを創業することになる。
2人は、共同創設者となる仲間のマーティン・ヘンク氏、ラグナー・サス氏およびマーティン・タユル氏と協力し、営業担当のニーズを最優先するCRMソフトウェアの構築に動いた。長年にわたるセールスの経験があったが故に、誕生したサービスと言えよう。
顧客管理システムは世界中にたくさん存在するが、Pipedriveの顧客管理システムは他社とどう違うのだろうか。これから紹介していこう。
利用者(営業)が、データ登録・参照・修正する対象となる「組織(企業)」「取引(商談)」「人(名刺情報)」を1つの設計画面、1つのプラットフォームで管理できるため、ストレスが少ない。他者製品の場合、データ入力する対象ごとに異なるデザインでの入力画面やポップアップウィンドウが画面を埋め尽くすようなことが、Pipedriveにはないようだ。つまり、営業マンを第一に考えた仕様になっているってことである。
営業に必要となるメール、チャット、業務管理において、Pipedriveのプラットフォームに統合していくのではなく、Gmail、GoogleCalender、Slackなどと連携して、異なるシステムを組み込むことができる。それぞれが孤立した異なるシステムを使うことでの生産性の低下を、 Pipedriveなら防げそうだ。
開発の知識がなくてもシステムを簡単に作成できる汎用的なデータベースアプリケーションではなく、PipedriveはSFAに特化したデータモデルを採用している。だからこそ営業目線で、使いやすく、営業担当者が重要な仕事に集中するための環境を提供することができる。
元来の顧客関係管理ツールは営業マン目線でデザインされておらず、それを使う営業マンにとって使いづらいという問題を彼らは感じていた。そこに目をつけたのがPipedriveだった。
Pipedriveの特徴は、視覚的なパイプライン。ホワイトボードに付箋を貼るように簡単に各取引の状況を視覚化している。Pipedriveは創業以来、社員がどんどん増えているようだが、全員が1つの目標に向かっている。どこにいてもチームのセールスの成功の可能性を上げ、成功への道を、確実に一歩ずづ進めている。
エストニアからは、Skype、PlayTech、Transferwise、そしてBoltとすでに4つのユニコーン企業が誕生している。人口わずが約132万人にもかかわらず、数多くの勢いのあるスタートアップが生まれていることは輝かしいが、ここにPipedriveも仲間入りすることになる。
Pipedriveは、テキサス州オースティンに本拠を置くVC企業であるVista Equity Partnersから過半数の投資を受ける契約に署名をしたようだ。これにより同社の評価額は約15億ドル(約1567億円)になり、ユニコーン企業として地位を築くことになる。Pipedriveは現在、エストニアの最新のSaaSユニコーンである。同社がSkypeのような新たなグローバルリーダーとなることを期待したい。
齊藤大将
Estify Consultants OÜ 代表
テニスコーチを辞め、エストニアのタリン工科大学へ入学。在学中に現地案内・コンサルで起業。エストニアでのハッカソンでの受賞歴や、登壇多数。大学院での研究テーマは文学の数値解析と小型人工衛星研究開発。現在、エンジニアやデータサイエンティストとしてオリジナル・受託開発をしつつ、地方でインキュベーションを生むクリエータ集団SUNABACOに関わり、Co-Growing空間の創作もしている。またVR学校(私立VRC学園)の運営なども行っている。
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