スタンフォード大学の「人間中心のAI」研究所(Stanford HAI)でプライバシー・データ・ポリシー・フェローを務めるJen King氏によれば、問題はAirTagや類似のBluetoothトラッカーがどのくらいの頻度でストーカー行為や窃盗に悪用されているのか、その全体像が分かっていないことだと指摘する。
「現時点では、裏付けのある情報は何もない」とKing氏は言う。
Heinrich氏らも、この問題に取り組んでいる。現在、ダルムシュタット工科大学はAirGuardアプリを使って、AirTagがストーカー行為に悪用される頻度を明らかにするための調査を進めている。
AirGuardをインストールしたユーザーは、この研究に参加するかどうかを選択できる。Heinrich氏らは参加に同意したユーザーの端末から、個人を特定できないように匿名化したデータを収集している。収集される情報は発見されたAirTagの信号の強さ、ユーザーに送られた通知の数、アラートの日時などだ。
しかし、Bluetooth信号の強さや通知頻度といったデータを使って、AirTagがどれくらいの頻度でストーカー行為に悪用されているかを正しく推測することは難しい。AirGuardがいつ通知を送ったかは確認できても、その背景情報は分からないからだ。例えば、多くのユーザーはAirGuardがAirTagを正しく検出できるかを試しているだけかもしれない。そこでチームは第2弾の調査を実施し、より詳細な情報を得るためのアンケートを行う計画を立てている。それまではBluetoothの信号強度のようなデータが、AirTagとユーザーの距離を把握する助けとなるだろう。
「この情報を使って、本当に追跡が試みられているのか等を判断していきたい」とHeinrich氏は言う。「実際に追跡が行われている場合、バスで隣に座った人のAirTagを誤検知してアラームが発信された場合よりも、ユーザーとAirTagの距離は近くなるはずだ」
現在は、AndroidユーザーもAppleのTracker DetectやAirGuardなどのアプリをダウンロードすることで、不審なAirTagの存在を確認できる。iPhoneユーザーなら、別途アプリをダウンロードしなくても、「AirTagがあなたと一緒に移動している」旨のアラートがiPhoneに表示されるはずだ。AirTag以外の「探す(Find My)」対応製品の場合は、その製品の名称が表示された類似のアラートが表示される。
ポケットの中や車のクッションの下など、AirTagが仕込まれていそうな場所を自分で探すのも良い方法だ。Appleは、不要なAirTagの追跡を防ぐ方法について、専用のサポートページを用意している。
AirTag問題に限らず、新しいテクノロジー製品が生み出す脅威は見逃されやすい。セキュリティソフトメーカーの研究部門NortonLifeLock Research Groupのグローバル責任者Petros Efstathopoulos氏は、「現実世界と比べて、仮想世界では危険な状況を回避する本能が働きにくい」と指摘する。
「自宅の居間でくつろいでいる時に、窓から室内を見ている人がいれば、普通は本能的に反応するはずだ」と同氏は言う。「誰だ?なぜ私を見ている?、と。この何が安全で、何が信頼できるかという感覚が、デジタル世界ではうまく機能しない」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
「程よく明るい」照明がオフィスにもたらす
業務生産性の向上への意外な効果
住環境に求められる「安心、安全、快適」
を可視化するための“ものさし”とは?
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス