料金引き下げはひと段落、5G整備競争が本格化--携帯4社の決算を読み解く - (page 2)

 現状の5Gエリア整備で先行しているのは、4Gの周波数帯の転用を積極的に進めているKDDIとソフトバンクだ。ソフトバンクは2022年2月4日に5G基地局が2.3万局、人口カバー率85%を達成したと発表しており、同社の代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は「(2022年)春に人口カバー率90%まで立ち上げることを急加速でやっている」と順調さをアピールする。

ソフトバンクの宮川氏は5Gの人口カバー率が85%を達成したと決算説明会でも明らかにしており、2022年春の人口カバー率90%達成に自身を示していた
ソフトバンクの宮川氏は5Gの人口カバー率が85%を達成したと決算説明会でも明らかにしており、2022年春の人口カバー率90%達成に自身を示していた

 一方でKDDIの高橋氏は、半導体不足やコロナ禍などが影響して2021年度末の人口カバー率達成からは「若干遅れている」と説明、2022年度の早い時期の達成を目指すとしている。ソフトバンクと整備スピードにやや差が出ている可能性はあるものの、発言内容から見る限り極端に大きな差が出ている訳ではないと見ることができそうだ。

 ドコモは、現状5G向けに割り当てられた周波数帯のみを用いてエリアカバーを進めている。この帯域は高速通信には適した帯域幅を持つが周波数が高く広範囲をカバーする上では不利なことから、2021年度末時点での整備目標は人口カバー率55%と、他社に比べればペースは遅い。

 そうしたこともあってか澤田氏は、4Gと5Gを一体で運用し、5Gの一部機能だけを実現するノンスタンドアローン(NSA)運用と、5Gの全ての機能が利用できるスタンドアローン(SA)運用の違いに理解が必要だと説明。他社の5GはNSA主体の整備を打ち出しているのに対し、ドコモのネットワークはSA主体で計画を打ち出していると質の違いをアピールし、整備スピードの違いに理解を求めていた。

 同様に、5Gの質を重視する発言をしていたのが三木谷氏だ。楽天モバイルも5G向けに割り当てられた周波数帯だけを用いて整備を進めており、大阪府の大阪駅前に整備したという自社の5Gネットワークの通信速度について「驚愕すると思う」と自信を見せている。一方で4Gの帯域を転用した5Gのネットワークについては「フェイク的な、5G的なもの」と発言する場面も見られるなど、他社の動きをけん制している印象も受けた。

 もっとも楽天モバイルに関して言えば、新規参入であるためそもそも周波数帯の割り当てが少なく、4G向けの帯域は現在メインで使用している1.7GHz帯のみなので5Gへの転用は困難だ。5Gエリア整備に自信を見せる三木谷氏の発言からは、逆に周波数帯の活用に苦心している様子も見て取ることができる。

 しかも楽天モバイルはエリア整備にある程度目途が立ち、加入者獲得を加速していくと考えられることから、今後都市部を主体としたトラフィックの増加によるネットワークの混雑が大きな問題となってくる可能性が高い。いまその対処に活用できるのは5G向けの周波数のみであることから、楽天モバイルも5Gの整備に本腰を入れざるを得なくなったのだろう。

5G投資にも水を差す料金引き下げ--業績改善の鍵は

 しかしながら、これまで5Gのエリア整備にあまり力を入れてこなかった楽天モバイルまでもが5Gのエリア整備に力を入れる姿勢を示したことは大きな変化でもある。同社では現在約4000の5G基地局を設置しているというが、今後はそれを1万局にまで増やす方針だとしている。

 ただその5Gを巡り、気になる発言をしていたのがソフトバンクの宮川氏である。宮川氏は今後の5G整備のあり方について、5Gへ移行するタイミングで料金引き下げがなされ、収益が大幅に落ちたことから「5Gを新たなインフラとして作ろうとするとキャリア側の負担が今まで以上に多くなり、各社の戦略に違いが出てくる」と話す。

 その上でソフトバンクの5Gネットワーク整備のあり方について、宮川氏はアイデアレベルとしながらも、「インドアの莫大なトラフィックを5Gに寄せるのか、Wi-Fiに寄せるのかは色々な戦略があると思う」としている。この発言からは、主にコンシューマー向け用途で発生している動画などのトラフィックは可能な限りWi-Fiで処理し、5Gは低遅延などの性能をフルに生かせる、企業向けの活用を主にして整備コストを下げようとしている様子がうかがえる。

 ソフトバンクはかつて宮川氏がCTOを務めていた頃、多数のWi-Fiスポットを設置してモバイルでのWi-Fi活用を積極化していたことがある。それだけに、再びWi-Fiの活用を打ち出すというのは意味宮川氏らしいものだともいえるのだが、これから積極投資をして5Gを全国に整備することが求められている時期に、いかに投資コストを抑えるかという議論が携帯電話会社の側から出たことは、今後の日本のインフラ整備に一抹の不安を抱かせる。

 それだけ政府主導による携帯料金の引き下げが各社に与えたダメージは大きいだけに、政府が5G整備を重視するのであれば、携帯各社に金銭面での明確な補助をすることが求められる。ただあえていうならば、5G時代になったにもかかわらず消費者が小容量のサービスで満足してしまっており、モバイル回線での大容量コンテンツ利用が進まない日本の現状にも、5Gの整備と普及を阻む課題があると筆者は見る。

ソフトバンクのスマートフォン累計契約数。大きな伸びを見せているのは低価格のワイモバイルブランドで、使い放題プランを重視するソフトバンクの契約数を浸食してきている様子がうかがえる
ソフトバンクのスマートフォン累計契約数。大きな伸びを見せているのは低価格のワイモバイルブランドで、使い放題プランを重視するソフトバンクの契約数を浸食してきている様子がうかがえる

 そこには固定ブロードバンドのインフラが非常に充実しているといった日本特有の事情も影響しているのだが、携帯各社が収益改善する上ではやはりモバイル回線を利用するシーンでのトラフィックを増やし、高額な使い放題プランを消費者が求める環境を作り出すかが重要になってくるだろう。

 その具体的な策に踏み出したのがKDDIで、同社は1月26日にスポーツ動画配信サービスの「DAZN」とのセットプラン「使い放題MAX 5G/4G DAZNパック」を投入している。高橋氏は「今下がっている通信ARPUを、もう一度右肩上がりにしないといけない」としており、OTTと連携してのセットプラン提供に再び力を注いで使い放題プランに消費者の目を向けさせる動きを強めている。

KDDIは5Gでの使い放題プラン利用拡大に向け、大幅値上げを打ち出した「DAZN」との連携を強化するなど、再びセットプランの強化に動きつつある
KDDIは5Gでの使い放題プラン利用拡大に向け、大幅値上げを打ち出した「DAZN」との連携を強化するなど、再びセットプランの強化に動きつつある

 今後の各社の業績改善、そして5Gの充実したネットワーク整備のためにも、小容量、低価格プランに目が向いてしまっている消費者の関心を、再び使い放題プランに向かせる取り組みが各社に強く求められるのは確かだ。2022年は各社がこの問題にどう取り組み、収益改善させていくのかが注目される。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]