Appleは2021年のホリデーシーズンも、最強とも言える決算を記録した。iPhoneを核としたユーザーベースの拡大と、ウェアラブルデバイスやサービスを通じたiPhoneユーザーからの更なる売上高の獲得、Apple Siliconへ移行したMacの好調な推移など、良い材料が揃った。
その影で、割を食っていた企業があった。それがMeta(旧Facebook)である。
Metaの最高財務責任者(CFO)、David Wehner氏は決算の電話会議で、2022年にAppleのプライバシー対策によって被る損失は、100億ドル(1兆1500億円)に上るとの見通しを示した。
Appleは2021年4月にリリースしたiOS 14.5で、ATT(App Tracking Transparency)と呼ばれる機能を導入した。アプリ開発者は、ユーザーの行動追跡を行うために、ユーザーの明示的な許可を得なければならなくなった。行動追跡は、広告やeコマースの分野でより効果的な広告を表示するために用いられてきた。
Appleはアプリにおけるプライバシーを強化することを志向した取り組みであり、多くのユーザーが追跡を拒否する選択をする。こうしてMetaの広告システムは拒否される傾向がある。Appleの狙い通りの行動をユーザーが選択しているのだ。
その一方で、アプリとは異なってブラウザは対象外となっている。アプリ内に垂直統合を進めてきたMetaへの影響が大きくなり、ブラウザでの広告で覇権を握るGoogleの影響が少ないのはそのためだ。
ちなみにAppleは、IPアドレスの非公開や位置情報の不鮮明化など、ブラウザやメールも含めたプライバシー施策を実施している。しかしAppleは標準ブラウザのSafari内でのGoogle検索から莫大な収益を上げている。Metaからすれば、Googleの優遇は構造的な問題として継続するとみている。
AppleはMetaから何を言われようが、プライバシーのポリシーを後退させるつもりはないだろう。その理由は2つある。
1つ目は、既存のテクノロジー業界における「安全なブランド」の確立だ。
Appleは世界のスマートフォンのシェアは15%にとどまるが、米国や英国、日本といった先進国市場においては40%近いシェアを維持している。このシェアを維持することが重要だ。新しいテクノロジートレンドが登場しても、このシェアを維持していくことで、売上を維持・拡大できる。
今後技術がコモデティ化していくにつれて、差別化要因を高めることが必要となっており、ハードウェアからサービスまで一気通貫で取り組む必要があるプライバシー対策は、Appleが保持しうる数少ない優位性の一つだからだ。
ヘルスケア、自動運転自動車など、展開しうる領域は、より厳しいプライバシー対策が求められる可能性が高い。プライバシーに強いブランドは、テクノロジーの領域が生活の中に広がれば拡がるほど、重要な要素となり得る。
2つ目はプラットホーム戦略の強化だ。プライバシーに共感する顧客を増やすことが、Appleのプラットホームに対する開発者の呼び込みを加速していくことになる。
前述のような先進国の顧客が集まるApp Storeは、良質なコンテンツやアプリを消費する顧客が集まるマーケットを形成する。プライバシーに共感するこうした顧客をつかむことで、より新しい発想を発揮する開発者をエコシステムの中に留めておくことができる。
Appleはスマートフォンの基礎的なハードウェアとソフトウェア環境は提供するが、その使い方まで関与するわけではない。Twitter・InstagramなどのSNSや、Uber・AirBnBといったシェアリングエコノミーは、iPhoneの上で生まれたが、Appleが作り出したわけではないのだ。
ハードウェア主体のビジネスを展開するAppleが、インターネット企業に先んじて1兆円、2兆円、3兆円と最高の時価総額の大台を達成してきた理由は、サービス部門の成長戦略を明確に押し出してきたからだ。
こうした状況からして、Appleは引き続き、プライバシー対策を強化していくことになり、その標的は引き続きMetaに向けられる構造も変化なさそうだ。
Metaはソーシャルネットワークと広告という2つの柱からの転換を求めて、Facebookから現社名へと名称を変更した。新しい世界で、新しいビジネスモデルが作れるかに注目が集まるが、Appleとの対立から逃れることができるのか。
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現在も成長を続けており、米国成人の5人に1人はスマートウォッチやフィットネスバンドを装着し、成長率も47%と高い状態を維持している。
現在、Fitbitも代表メーカーとして残っているが、加えてXiaomiやOura、Whoopといった企業が新たなトレンドを作り出そうとしている。心電図や睡眠モニターなどの新機能に加え、新型コロナ対策で注目された血中酸素飽和度の測定も備えるようになった。
OuraやFitbitは、装着している人へのパーソナライズに注目している。トレーニングと休息、どちらを優先すべきかを判断するスコアの提供など、独自の価値の提供に取り組んだり、血糖値や血圧を計測データに加えて、より医療に直接的に役立てるアプローチも考えられている。
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