オーディオブックの配信サービス「audiobook.jp」を運営するオトバンクは、制作見学会を実施。オーディオブックの市場動向や制作過程について紹介した。
オトバンクは2004年に創業。創業者であり現在はオトバンク代表取締役会長を務める上田渉氏が、緑内障で失明し本が読めなくなった祖父の無念をくみ、耳でも読書を楽しめる世の中を作りたいという思いから、2007年にオーディオブックの配信サービスの提供を開始(当時の名称は「FeBe」)。
当時国内ではオーディオブックの言葉自体に馴染みがなく、制作のノウハウやビジネスモデルの構築も先行事例が無い状況のなかで、試行錯誤を続けながら国内のオーディオブック市場を開拓。それから約10年以上が経過し、出版業界内での認知も広がったことや、スマートフォンやワイヤレスイヤフォンの普及が追い風となって、オーディオブックの市場はここ数年で急速に拡大している。
audiobook.jpとしても、2018年から聴き放題で楽しめる月額制のサブスクリプションプランによって、利用者の裾野が広がり、2021年6月には累計会員数が200万人を突破。またラインアップの拡充も続け、ビジネス書、小説、エッセイ、新書、児童書など幅広いジャンルの作品をオーディオブックとして配信。日本マーケティングリサーチ機構による2021年11月の調査では、オーディオブック書籍ラインアップ数が日本一になったという。
利用者の声としても、主婦が子育て中だと目が離せない場面が多いため、書籍よりも耳で聴くオーディオブックが役だっているといったものから、農家の方が農作業をしているとき、手作業はしているが耳は長時間空いていることから、農家はオーディオブックやポッドキャストを聴く方が増えているという。
このほかにも、分厚い書籍は抵抗感があったが、オーディオブックでは耳で聴けるということで購入したうえ、結果的に紙の書籍も購入して併せて読むようになった方もいるという。オトバンク代表取締役社長の久保田裕也氏は「これまでは、書籍からオーディオブックという流れだったが、今はオーディオブックで聴いて良かったので、書籍も購入するという動きは強く出ている。なぞるように聴いて楽しむ方が増えている」という。
オーディオブックに関して、立ち上げ当初から制作を重要視し、自社でスタジオを構えてコンテンツを制作してきたという。創業時に制作チームを立ち上げ、これまでに数千作品を手掛けたというオトバンク 制作チーフを務める伊藤誠敏氏が、オーディオブックの制作過程やオトバンクとしてのポイントを語った。
社内で制作する作品の選定を行い、出版社への許諾を得てから制作が本格稼働をする。そのファーストステップとなるのが「作品を読み込むこと」。伊藤氏はここが特徴であり、ある意味では一番大事なところとも説明する。作品を理解するというだけではなく、作品をどのように音声で表現するかを考えるため“2度読み”を行うという。あわせて書籍の内容を考慮し、キャスティングも進めていく。
台本作りにあたっては、いわゆるアニメや吹き替えであれば基本的にセリフで構成されるが、文芸の書籍であれば文章もあることを留意。また、実在しないような架空の言葉なり固有名詞や、アクセントについても著者のこだわりがあるためできるだけ確認をしつつ進めていく。ビジネス書では図表やグラフがある場合にどのように説明するか、読み替えたほうがわかりやすい場合もあるため、そのあたりを考慮するという。
収録では、だいたい完成尺の2~3倍の時間がかかるという。タイトルによって異なるが、おおむね完成尺は7時間ぐらいになることが多いとし、収録時間も数十時間になるという。それゆえに数日に分けて収録することが多いという。実際の収録では読み間違いなどはもとより、文章を読むスピードについても考えながら収録しているという。
編集では、音の大きさやバランス、ノイズカットなどの整音作業を行う。文芸作品で複数人数が登場する場合、ひとりずつ収録しているため、それを一本にするために間を調整したり、作品によっては演出として音楽を入れることもある。そして、最終的な音源チェック行い完成する。
伊藤氏は、オーディオブックにあたってきちんと過程を踏んで制作していることを改めて説明。原作を重視することを大事にし、読み込みを行って勝手な解釈はしないように制作しているという。たとえば児童書は読み聞かせ風に、「君の膵臓をたべたい」といったエンタメ要素のある文芸作品は複数人数で効果音を入れるラジオドラマ風に制作。またある作品では、東京弁を表現するために落語家を起用したこともあるという。定型的にナレーターの方が読んで作られているのではなく、ひとつひとつの作品に最適な制作手法を探り作りこむのが特徴としている。また制作チームには声優業を経験しているメンバーも在籍しており、役者の側に立ったコミュニケーションも意識しているという。
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