前編に引き続き、音楽業界における人工知能(AI)の活用例と、それらがもたらす問題点を紹介していく。
何年も前から、アーティストは古い楽曲のフックを再利用してきた。Flo Ridaの「Right Round」はDead or Aliveの楽曲をサンプリングしたものだし、Fatboy Slimは1990年の「Dub Be Good to Me」を皮切りに、サンプリングでキャリアを築いた。ずっと前に解散した人気バンドの新曲がリリースされることもある。1995年、The Beatlesの26年ぶりの新曲「Free As A Bird」がリリースされた。Free As A Birdは、John Lennonが1977年にカセットに録音した音源を使用しており、当時健在だったメンバーが楽曲を完成させた。「ザ・ビートルズ:Get Back」の人気が示しているように、一般の人々は未だにThe Beatlesの新しいコンテンツを求めているのだ。
2015年、ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)の科学者たちは、自らの手で独自のThe Beatles風の楽曲を作り出すことに挑戦した。「Daddy's Car」は、John LennonとPaul McCartneyが作った多数の楽曲から学習した人工知能(AI)によって、「The Beatlesのスタイルで」作曲された。歌詞はThe Beatlesの曲名からヒントを得ており、曲調はThe Beatlesのサイケデリック時代のぼんやりとしたサウンドに仕上がっている。ポップソングの標準的な形式であるヴァース-コーラスの構造はないかもしれないが、この楽曲は今後の可能性を示唆している。
2021年、音楽業界のメンタルヘルスの問題に取り組むOver The Bridgeという非営利団体が、いわゆる「27クラブ」(NirvanaのKurt Cobain、The DoorsのJim Morrison、Jimi Hendrixなど、27歳で亡くなったミュージシャンたち)のスタイルで新しい楽曲を作った。現在のところ、これらの楽曲を歌っているのはものまねミュージシャンたちだが、将来的には、AIが実際のアーティストの歌声を合成できるようになるだろう。
この取り組みの前にも、別の非営利研究団体OpenAIが2020年に「Jukebox」プロジェクトで、Katy PerryとElvis Presleyによる「新しい」楽曲を作っている。しかし、米CNETのAmanda Kooser記者は当時、「Jukeboxはフックの技巧を使いこなせていない」と述べている。
AIが作ったこれらの音楽作品は、かつては信じがたいものに思えたかもしれないが、Whitney HoustonやAmy Winehouseのホログラムがパフォーマンスを披露するコンサートとそれほどかけ離れたものではなくなっている。
故Stephen Hawking氏もElon Musk氏も、人工知能について、「文明として人間が直面する最大のリスク」だと警告してきた。NetflixのSFドラマ「ブラック・ミラー」のようなテレビ番組のせいで、ロボットが不当に非難を浴びているのは事実だが、当のMusk氏のTeslaを含めて、多くの企業がAIを使用している。GoogleとAmazonは、危険なものという印象を薄めるため、「機械学習」という用語を使っている。だが、他の新しいテクノロジーと同様、AIの「一般への普及」には別の一面もある。良くも悪くも、現状を一変させる傾向だ。
レコード会社はAIを低コストで使用できることをおそらく歓迎しており、レコード店は引き続きレコード盤の復興を享受しているが、最も危険にさらされているのはレコーディングスタジオだ。The Beatlesがその名を冠したアルバムを録音したAbbey Road Studiosは、ほぼ間違いなく世界で最も有名なスタジオだろう。パンデミックなど、何度も脅威にさらされてきたにもかかわらず、Abbey Road Studiosはこれまで存続してきたが、AIの時代を生き延びることが同スタジオの最大の課題となるかもしれない。
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