Amecaは会議用に作られているわけではない。Boston Dynamicsのロボットのように走ったり跳んだりもしない。今すぐ予約注文できる家事ロボットでもない。Roe氏は、Amecaのようなロボットが人間の役に立つ存在として人間社会に溶け込むまでには、あと10年はかかると言う。「ロボットが人間社会に溶け込むまで」というと、人類の衰退を記録したドキュメンタリー映画の題名のようだが、あと10年は心配ないというわけだ。
Amecaの肌は、Mesmerの頭部のようなリアルな肌色ではない。Mesmerの頭部には本物そっくりの髪の毛もついていたが、Amecaの頭部は結合部や部品が透けて見える、半透明のプラスチックだ。Amecaは今も明らかに「異質」だが、それは開発チームの意図でもある。
「Mesmerシリーズの経験から、ロボットをあまりにも人間に似せてしまうと、『不気味の谷』現象が起こり、ロボットが悪意のある存在のように見えることが分かった」とRoe氏は言う。「そこでAmecaの開発では、『不気味の谷』から脱することを目指した」
こうした話をしている間も、AmecaはRoe氏の言葉に反応する。通り過ぎる人たちに向かって、眉をつり上げてみせる。自分を創造した人物の言葉を真似ようとしているかのように、唇(正確に言えば、口を模した開口部に埋め込まれたアクチュエータ)がかすかに震える。
「Amecaは人間には見えない」とRoe氏が言えば、Amecaは泳ぐような目で微笑む。
「身体はプラスチックと金属」とRoe氏が続けると、今度は曖昧な笑みを浮かべて、彼を一瞥する。
「しかも肌は灰色だ。その結果――」と言いながら、Roe氏がAmecaの顔の近くで手を振ると、Amecaははっとして身体を引く。
「やあ」とRoe氏が声をかけ、目を合わせると、Amecaは驚いた表情で少しのけぞる。一瞬、Roe氏は言葉を失うが、すぐに思い出したようにこう続けた。
「その結果、怖さ、不気味さがやわらいだ」
私は、ある質問をRoe氏に投げかけたくなった。Amecaの動画を見て以来、ずっと聞いてみたかったことだ。この動画では、Amecaは研究室の中にいる。その背後ではエンジニアかプログラマーとおぼしき人物が背中を丸めてノートPCに向かい、さらに奥ではもう1台のAmecaがゆっくりと動いている。
「夜中にオフィスでコードを書いているとき、背後のロボットがひそかにウィンクをしていないか、振り返って確認したくなることはないか」と、私はたずねた。
「そういう感覚はない」とRoe氏は言う。「毎日あちこちをいじっていると、ロボットにしか見えなくなる。それに研究室では、エンジニアたちが全身ではなく、頭部だけを持ち歩いているところを見ることも多い。重要なのは、感情移入しないこと。人間として見てしまうと、とたんに気味が悪くなる」
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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