この数十年間に作られたSF映画のおかげで、ロボットを人間に取って代わるものとしてイメージする人は多い。金属製の腕や脚、電子的に制御された目。しかし、未来のロボットの大きな役割は人間に取って代わることではなく、むしろ人間の能力を拡張し、強化することなのかもしれない。これは決して新しい考え方ではないが、近年特に注目が高まっている。私は先日、カリフォルニア州ロスアルトスにあるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)を訪れ、ロボットの未来を垣間見てきた。TRIが目指すのは、人間の能力を増幅させるロボットだ。
「全員が、本当に役立つロボットの開発に全力で取り組んでいる」と語るのは、TRIのロボティクス担当バイスプレジデントで、以前はGoogleのロボティクス部門やBoston Dynamics、米航空宇宙局(NASA)の火星探査機チームでも働いていたMax Bajracharya氏だ。現在、同氏は家庭のキッチンや食料品店の通路を再現した環境でロボットの開発に取り組んでいる。「どうすれば人々の日常生活を楽にできるだろうか?」と同氏は言う。TRIの使命は、ロボットを市場に出すことではなく、それを妨げている問題を解決することだ。
例えばTRIでは、壊れやすいものを傷付けずにグリップできる触覚センサー付きのグリッパーを開発している。このグリッパーには対象物を認識し、最適な力加減を正確に計算できる機能が搭載されており、壊れやすい物も人間と同じように扱うことができる。
ソフトグリッパーはパッド付きのひづめのような形をしている。内側にはカメラが搭載され、目的の物をつかむために必要な力を正確に計算し、基本的には触覚によって対象を識別する。「人間の皮膚には無数のセンサーが、頭蓋骨には『知能』という優秀なプロセッサーが組み込まれていることを考えれば、人間の身体を再現することがいかに複雑な作業か分かるはずだ」とBajracharya氏は言う。
TRIは、対象物を壊さずにつかむことだけを目指しているわけではない。人工知能(AI)やスマートフォンの先駆者として知られるJeff Hawkins氏は、人間は形ある物に触れたり、自由や愛といった抽象的な概念に接したりすることで世界を認識し、「記憶のフレーム」を比較しながら世界を理解するという説を提唱している。この考え方は、TRIの研究と通じる部分が多い。
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