2021年によく耳にした言葉のひとつとして「メタバース」がある。「超越した」などの意味を持つ「メタ」と、「宇宙」などの意味を持つ「ユニバース」が組み合わさった造語とされており、これまでも仮想世界を示す言葉として使われていたことはあったが、近年になってこの言葉が急浮上。Facebookが社名を「Meta」に変更し、メタバースの構築に注力する方針を示したのを始め、「フォートナイト」の開発元であるEpic Gamesも取り組むことを表明。国内でも既存事業や新規事業としてメタバース領域に取り組むことを打ち出す企業も相次いだ。
バーチャルSNSとして展開している「cluster」も“メタバースプラットフォーム”を打ち出し、この領域に参入しているサービスのひとつ。バーチャル空間内で手軽にルームを作ることができるサービスとして、2017年から正式サービスを開始。現在ではワールドを自ら作ったり、アバターをまとった姿で過ごすことができたり、音楽ライブやイベントが行われるなど、自由度の高い空間を構築でき、そこで生活するかのように人が集まるサービスとなっている。
そんなclusterを運営するクラスター 代表取締役CEOの加藤直人氏に、メタバースの今と、この先について聞いた。
――加藤さんには、2018年6月に一度インタビューを行いました。そのときはバーチャルYouTuber(VTuber)と呼ばれるバーチャルタレントの盛り上がりがあって、今後のバーチャルタレントの発展には“歌”が鍵になるということ、そしてclusterでは仮想空間内でイベントを行ったり、ライブが行われる会場を目指すということを当時お話されていました。
VTuber発展のカギは“歌”、VR音楽ライブの時代は来る--クラスター加藤CEOが描く未来(2018年6月27日掲載)
そうでした。あれから3年ぐらいが経過して、バーチャルタレントはかなり人数も増えてきて、市場も成熟してきました。バーチャルタレントのライブも珍しくなくなってますし、バーチャル空間での音楽ライブもフォーマットが洗練されてきて、数も増えていることを実感しています。
clusterとしてもさまざまな取り組みをしてきましたが、今は事業としてメインになっているのは、バーチャルイベントですね。きっかけは、新型コロナの流行によるものです。
2020年3月に大型のアップデートを実施して、スマートフォンにも対応するなど、バーチャルSNSとして生活できる場にしたんです。そして法人向けのイベントもやっていこうとしたところで、新型コロナの流行が始まって。
2017年にclusterが正式版としてリリースしたとき「バーチャルイベント」といっても「何それ?」ぐらいのとらえられ方だったんです。バーチャルでイベントをやるということというイメージがわきにくかった。2018年にバーチャルタレントの盛り上がりが出てきたときも、バーチャル上でのライブというもののイメージもしにくかった。それが一般に広がるようになって、イメージされるようになったことが大きいです。
――新型コロナの流行で、あらゆることが「オンラインで」という状況になったのは記憶に新しいですし、そこで一気に流れがきたと。
バーチャルという空間自体を、ビジネスやマーケティングの場として使えないかと、それを考えるきっかけになりましたね。そして実際にバーチャルでイベントを行うと「こういうものか」というイメージもできます。もちろんリアルだからできることもありますが、バーチャルだからこそできることがあって、得られるものもある。それをビジネス側もユーザー側も体験して認識してもらったことが大きいです。
clusterとしても、「ポケットモンスター」とのコラボによるバーチャル遊園地「ポケモンバーチャルフェスト」や、「ディズニー ツイステッドワンダーランド」とのコラボによる「バーチャル ハロウィーンイベント2021」といった取り組みもできましたし、渋谷区公認の「バーチャル渋谷」でのイベントも定期的に開催できるようになってます。
――バーチャル空間を実感しやすくなるVRデバイスについても、Oculus Quest 2が順調に販売されていて、普及に繋がっているように思います。
VRデバイスは、PC接続タイプよりもスタンドアローン型に寄ってきていて、やはりOculus Quest 2の存在が大きく、市場をけん引してます。Metaは1000万台の販売を目指すことを公言してましたし、出荷台数がそれに到達した可能性を示唆する話題も出てきました。実際に1000万台は超えているであろうという感覚があります。
そしてVRのソーシャルサービスも活況になってきました。世界的に見えれば「Rec Room」、国内でいえば「VRChat」が人気で、ソーシャルVRが発達してきてます。Steamにおける「SteamVR」のアクティブユーザーは指数関数的に増えてますし、VRゲームにおいても販売100万本超えが6本ほど出てきていて、目指せばミリオンタイトルが出る状況になりつつあります。それが今の市況感覚ですね。
市場として、アクティブユーザーが1000万人を超えるかどうかは大事だと考えていますし、VR市場はそこに到達する一歩手前の状況まできてます。そして、新型コロナの状況が落ち着きそうというタイミングで、メタバースブームのようなものも起きつつあると。
――2021年では、バズワードっぽい感じにも広がったメタバースですけど、なぜこう一斉にうたいだしたのでしょうか。
2点あると思ってます。ひとつは、主にメタバースをうたうようになったのは、ゲームやSNSの分野、業界的にはゲーム、SNS、ARとVRの業界で、それぞれの目指す先がそろってきたからです。
ゲームは、国内こそ頭打ちの感覚もありますが、全世界的に見ればまだまだ市場拡大傾向にあります。ゲームデバイスであるスマホも発展途上国に普及しています。ゲームをきっかけとして「Roblox」も上場を果たしました。 UGC(User Generated Content)のように、ユーザーが作ったゲームをプレイしたりできるプラットフォームで、マンスリーでのアクティブユーザーが2億人程度とされています。また「フォートナイト」も成熟している状況ですが、まだまだ人気があります。そういったところが、コミュニケーションの場としてメタバースをうたいだしていることがあります。
SNSは、ユーザーの滞在時間を伸ばすことに限界がきています。滞在時間をいかにのばしていくかとなると、必然的にゲーム空間をプラットフォームにすることに行きつきます。特にMetaは、Facebookにおいて若年層を取り込めてない状況があります。GAFAと呼ばれていた4社のなかで、SNSと広告への依存度が強いので、厳しい状況にあるかもしれませんし、メタバース構想で一気に勝負に出たものと推察しています。
あとVRやARは、デバイスを通じて楽しめるのがバーチャル空間ということでメタバースになりえると。これらを総じて、それぞれの先の発展としてメタバースという、イメージしやすい言葉が出てきたというところだと思います。
――もうひとつについてはいかがでしょうか。
ここにきて、NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)が盛り上がってきたことですね。一昔前はICO(Initial Coin Offering:新規暗号資産(仮想通貨))で盛り上がっていましたけど、今はNFTが話題になってますね。
よく言われていることとして、NFTはそれ自体持ってても、意味がないという指摘があります。リアルなアート作品は飾っておけますけど、デジタルアート作品は持ってても意味がない、使いどころがないと。でもそれをメタバースで使おうと考えられるようになり、NFTファーストなメタバースが脚光を浴びるようになりました。「The Sandbox」などのサンドボックスゲームでNFTが用いられて、仮想通貨の流通が行われています。実際、その空間内でアイテムやアバターの売買が行われていたり、土地の売買で数億円規模のものもあったりして、注目も集まってます。ちなみに僕は、バーチャル上の土地に高値がつくのは流石にバブルだと考えてますね。
――そういう状況のなかで、clusterもメタバースプラットフォームをうたっていますが、目指しているものはありますか。
clusterがこの領域で展開するなかで、目指している世界観は変わらないです。バーチャルの世界観のなかでコンテンツが盛り上がって、いろんなライブが行われたりゲームが遊べたり、友だちと生活するように滞在するという世界観ですね。VRをアクティブに親しんでいる人たちは、みんな目指している世界観だと思います。
これは、かつてSFで描かれた世界観ともいえます。1980~90年代に描かれた世界観が、メタバースの社会として目指していたところで、メタバースという言葉が統一されてバズワードとなって、業界としての注目が集まったと。そこで人とお金の流れができることが重要になってくると感じています。
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