日本はメタバースを国家戦略として取り組むべき--クラスター加藤代表が語る展望 - (page 2)

若年層に「セカンドライフ」のイメージはないので、気にしなくていい

――バーチャル空間で生活するように活動を行う、そしてお金の流通があるというような話題となると、かつての「セカンドライフ」と、それがうまくいかなかったイメージは、未だ残るところがあります。

「セカンドライフ」
「セカンドライフ」より (C)2022 Linden Research, Inc.

 セカンドライフが話題になったことを覚えているのは、おそらく30~40代だと思いますけど、そのイメージは気にしなくていいかなと思います。

 僕自身、メタバースという単語を使っていくことに躊躇していていた時期があって、clusterとしての単語を探していたんです。「VR」だと、どうしてもVRヘッドセットがイメージされてしまいます。それよりも、もう少し抽象度の高い概念が必要だし、業界としても名前をつけたほうがいいのではと思ってました。そのなかで、メタバースの言葉も候補に考えていましたが、はるか以前から使われていた言葉でもあるし、古いとも感じてたんです。

 でも考えが変わったのは、今の10~20代が、セカンドライフがうまくいかなかったということを知らず、あのときの二番煎じという感覚がないんです。若年層からすると、メタバースという言葉に先入観がない。スマホネイティブの人たちからすると、新しい言葉なんです。

 結局、セカンドライフとネガティブに考えているのは年齢層が高いところ。でもインターネットのムーブメントや、カルチャーを作るのは10~20代です。その人たちに定着すればいいと思えば、メタバースという単語に集約されていってるのは、ポジティブにとらえてます。

 Robloxに投資をしていたアンドリーセン・ホロウィッツが、そうした名前を付けようとブログで呼びかけていたこともあったんです。いわゆるネクストソーシャルサービスとしての言葉ですね。でもゲームはゲームですし、ソーシャルもメディアは一巡していて、結局は定着しなかった。そのなかでもなにか単語が必要というなかで、メタバースという単語を使っていこうと業界全体になっているのはいいことだ感じています。

――もうメタバースという言葉自体、ネットを中心に受け入れられているように感じます。

 大きいのは、clusterのヘビーユーザーや、VRのSNSに長くいる人たちがメタバースという言葉に嫌悪感を示してないんです。わりと面白がってますし、「メタバースの住人です」と自称するような方もいる。それぐらいのとらえ方になっていて、若年層から見てそんなに嫌悪感はなく、新しく再定義されるべき単語という感覚があります。

 VRだと、ヘッドセットを装着して体験するイメージが強いですが、それだけじゃない世界観をみんな描いてます。メタバースはもっと抽象的に、3DCGコンテンツが身近にあふれるぐらいのものととらえている感じですね。

メタバース発展の鍵は、3DCGコンテンツを作るクリエーターのエコシステム構築

――メタバースの発展において、重要だと思うのはどういったことでしょうか。

 3DCGのコンテンツを作るクリエーターのエコシステムが構築されること。そして、それが大きくなっていくことが、メタバースの発展において何よりも重要なところと考えています。

 ある意味では、VRデバイスの普及や発展よりも、3DCGのコンテンツを作って提供すること自体に、ハードルが高さがあったと思います。かつては「Blender」などのツールを習得することも大変でしたから。今はだいぶ扱いやすくなってますし、「Vroid」のような、自由自在にアバターを生み出す仕組みもあります。clusterとしてもオリジナルアバターを作ることができる「AvatarMaker」を搭載したのですけど、3Dコンテンツを作るのがより楽な状況になってきてます。

「AvatarMaker」
「AvatarMaker」

 今、clusterで遊んでいるメインユーザーは、ライブやイベント参加もそうですけど、もう住みついているような状態のユーザーです。そういう人たちは、自分たちでカフェの外観作ったり、現実では作れないような見た目やギミックを施した場を作って、そこに集まって喋ったりして過ごしてます。その場を作るのが3DCGの技術で、どんどん楽になってきているし、CGのアセットも流通も増えてきてます。クリエーターが、より楽にコンテンツを作ることができて、仮想空間における場も手軽に作ることができる。これが、クリエイターの参入障壁が高かったセカンドライフの15年前とは違う状況です。

 そして稼げる仕組みや手段も増えてきているのも大きいです。15年前だと個人のクリエーターが稼ぐ手段は乏しかった。今だとプラットフォームを活用してのアバター売買や、ファンクラブのようなクリエーター向けの月額制支援サービス、投げ銭と呼ばれるギフトのようなものも充実して、定着もしています。

――実際、clusterで生活するように過ごす方々を見て、何か感じることはありますか。

 clusterで遊んでいる人たちを見ていると、カルチャーを作っていく人たちは、今の10代だと実感してます。彼らが作っているものは、3DCGの見てくれも大事ではあるのですけど、それよりも大事にしているのは場でありコミュニティであると。

 そのコミュニティで10代同士が集まって楽しむ感覚、しいては物づくりにおいて、30~40代では理解できなものが生み出されていますし、そこから次世代のヒットするバーチャルのコンテンツや場となるものが生まれてくるでしょう。そのカルチャーというのが、メタバースにおける重要な要素だと感じていて。SNSやVR、NFTがどうとかよりは、こちらのほうが大事だというのが、最近の考え方ですね。

 あと、その場に集まって楽しむというリアルタイムでの価値についても、見逃せないポイントなのかなと。かつてはリアルタイムで集まることのコストが高いので、疑似的な同期のほうが楽といわれた時代もありました。例えば、配信映像にコメントが足されていって、一体感を感じられやすいニコニコ動画がイメージしやすいと思います。でも今はスマートフォンで手軽にネットへ接続できる環境となって、常時接続性が一般に広がっていることもあると思いますけど、単純に真正同期のほうが体験がいいしユーザーに喜ばれますね。

――例えばMMORPGやオンラインでのマルチプレイは、同じ時間にみんな一緒となって遊ぶものですし、テレビ番組やネット配信をリアルタイムで見てコメントをうったりTwitterでつぶやくという、同じ時間を一緒に共有して楽しむような、ライブ感を楽しむことに通じるように感じます。

 ネット配信でさまざまなコンテンツがありますけど、多くの方はアーカイブよりも生配信をリアルタイムで見ると思うんです。それはコンテンツがあふれてしまったがゆえのところもあると思っていて。アーカイブがあるというのは便利ですけど、たくさん見たいものがあって、あとから消化するかのように見るのは大変じゃないですか。

 昨今、VTuberのライブ配信も盛り上がってますけど、いろんなVTuberさんに興味を持ったり、いわゆる“箱推し”のような状態になると、見るものが多く時間もかかって、アーカイブは見てられないぐらいです。そうなると、リアルタイムの気持ちよさに寄っていきます。しっかり作られたアーカイブコンテンツよりも、ライブ体験やイベント体験の楽しさに近いもののほうが勝る状態です。

 リアルタイムでの配信は、その場での体験が感じられるエキサイティングなものですし、みんなライブ配信のほうに集まって、投げ銭などのお金も動いています。そのように、「リアルタイムに」「友だちと一緒に」ということにコンテンツが寄っていってるように思うんです。ゲームにしたって、今はDiscordに繋ぎつつ、ボイスチャットでだらだら喋りながら「フォートナイト」や「Apex Legends」を遊んでいますから。

 こういう流れがあるなかで、バーチャル空間のなかで友だちとだらだら遊ぶという、そのひとときを楽しみたい人たちがいる。これは、SNSで人との繋がりに疲れていることの揺り戻しにもなっているのではないかなと思うことがあります。フォロワーをたくさん集めるよりも、小さいコミュニティで好きな人たちだけで遊べばいいじゃん、という考え方ですね。clusterやVRChatで集まっている人たちを見ていると、そういう傾向を感じます。そういったなかで、ライブ配信を見ながら盛り上がるというような楽しみ方に変わってきている。

 疑似同期からリアルタイム同期が強い時代に、パブリックなSNSからクローズドなSNSに、という揺り戻しがきているというのが、メタバースの盛り上がりに対して感じる側面ですね。

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