ワーケーションの「場所選び」で大切にしたい、たった1つのこと

鈴木円香(一般社団法人みつめる旅・代表理事)2021年12月04日 10時00分

 今回はワーケーションをするにあたり最大の決定事項である「場所選び」についてお話ししたいと思います。これさえ上手に決められれば、ワーケーションはほぼ成功したと言っていいでしょう。

 ワーケーションの旅先選びで何より大切なのは、「今、一番行きたい場所」に行くことです。

 それはなぜか。仕事をしやすい場所でも、アクセスがいい場所でも、観光コンテンツが充実した場所でもなく、「今、一番いきたい場所」に行くことがすべてに優先する理由。それは、行く人のモチベーションを最高の状態にし、結果的に効果を最大化するからです。詳しくは次回紹介しますが、モチベーションが最高の状態に保たれている時は、物事を捉えるアンテナの感度もまた最高の状態になるものです。

 皆さんも、「なんとなく行った場所」と「どうしても行きたくて行った場所」では、自分の中のアンテナの感度が全然違うと思いませんか?どうしても行きたくて行った場所であれば、事前にインプットをする熱意も違いますし、旅先に着いてからの好奇心も普段より何倍も増します。

 以前「個人のメリット」の記事でも詳しく書いたように、ワーケーションでは、「Wantの発見」→「能動性の再起動」→「結果の引き受け」の一連の流れを通じて、「自分で決める」サイクルを回し続けることに最大の意味があります。

 だからこそ、自分のモチベーションとアンテナの感度がベストの状態になるような「心底行きたい場所」にとことんこだわり抜いて欲しいのです。

「今、一番行きたい場所」を見つける

 「旅費が高いから無理」「有給休暇をたくさん取らないと行けない」「家族の合意が得られそうにない」「会社でテレワークが許される地域外だから無理」などなど、もろもろの事情をいったん全部取っ払った状態で考えてみてください。あなたが今、「行ける」と考えただけで心おどる場所はどこですか?死ぬまでに絶対に行きたい場所、ここに行かずには死ねないという場所はどこですか?

 具体的な地名まで思い浮かばなくて、ただ単に「村上春樹の小説に出てくる海辺の町みたいな場所」や「子どもの頃、夏休みを毎年過ごしていた母方の田舎みたいな場所」といったイメージでも大丈夫です。1つくらい、どうしても行きたい場所が見つかりましたか?

 たとえば、「屋久島に行きたい」という方がいるかもしれません。深い森の空気を胸いっぱいに吸い込みながらたくさんトレッキングをして、あの有名な樹齢数千年の屋久杉をこの目で見たい。苔むした地面に靴を脱いで座って、風で葉が揺れる音や鳥のさえずりに身を委ね何時間も森林浴をしていたい。

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 心密かに願っているのだけど、屋久島は遠そうだし(実は東京・羽田から飛行機で3時間ほどで行けます)、1人では心細いけど一緒に行ってくれる人を見つけられていないし……。そんなふうに、叶えられないまま十数年が過ぎてしまっているかもしれません。

 はたまた日本を飛び出して、サントリーニ島やスコペロス島など、映画「マンマ・ミーア!」の舞台とされるギリシャの島に行ってみたい!という方もいるかもしれません。静かな青い海に臨む断崖の、人口数千人の小さな町。白壁のこぢんまりとしたホテルに1週間くらい滞在して、テラスでゆっくり小説を読んだりして過ごしたい。夕方になったら町に繰り出して、「世界一の夕日」を眺めながらレストランでギリシャ料理を楽しみたい。

 でも、遠いし(東京から16時間!)、お金がかかるし(エクスペディアで10日間の滞在で検索すると、30万円くらい!)、ギリシャ語は喋れないし(観光地なので英語だけでOK)。いったい、いつ叶うのやら……。現実のハードルはいったん脇に置いて、どんどん妄想を膨らませてください。

 おい、それはただの旅行じゃないか。ワーケーションはどこにいったんだ?VACATIONだけで、WORKがないぞ?という声が聞こえてくるでしょうか。いいのです。最初はWORKのことは忘れて、「心底行きたい場所」を見つけることに集中してください。なぜなら、それこそが、人生の主導権を取り戻す最初にして最大のポイントだからです。

「その場所」に惹かれる本当の理由を知る

 屋久島か、ギリシャのサントリーニ島か、はたまた子ども時代に夏休みを過ごした山村か。そこにいる自分を思い描いただけで、心がホカホカしてくる、ワクワクしてくる、テンションが上がる場所が見つかりましたか?見つかったら、次は「なぜ、その場所に惹かれるのか?」を考えてみてください。

 たとえば、屋久島ならば、

  • 昔から「島」に惹かれるから
  • 森の中にいると、なぜだかとても落ち着くから
  • 太古からあるもの、悠久の時間が感じられるものが好きだから
  • 自然の中をトレッキングするのが好きだから
  • ジブリ映画「もののけ姫」の世界観を体感したいから

 などの要素に分解できるでしょう。皆さんも先ほど見つけた「心底行きたい場所」について、同じように要素に分解して一番惹かれるのはどれかを自分の気持ちに聞いてみてください。普段からメモをとるのが好きな人であれば、紙に書き出して整理しながら考えてもいいですし、「そういうのは苦手」という人であれば、目を閉じてぼーっとしながら「森林浴をしている自分」「トレッキングをしている自分」……と順番にイメージしてみてしっくりくる場面を探してください。

 自分のハートに深く突き刺さる「なぜ」が見えてきましたか?

 では、仮に「屋久島に惹かれる一番の理由は、深い森があるから。鬱蒼とした緑と湿った土の匂いをイメージするだけで、なんだか胸がいっぱいになる」ということがわかったとします。もし、そのことを生まれて初めて意識したのだとしたら、本当に素晴らしいことです。自分の中のとても根源的な欲求を掴んだということですから、この先、人生の主導権を取り戻す上で重要な鍵を手に入れたと言えます。

「行動のハードル」を下げることが最大のポイント

 「深い森の中で、鬱蒼とした緑と土の匂いに包まれていたい」。これが、「場所」を決める上での最優先事項になります。自分にとっての最優先事項さえ見えれば、今は「屋久島」でなくてもいいのです(もちろん次の休暇でいきなり屋久島に行けるに越したことはありませんが)。

 東京近郊であれば、秩父、奥多摩、那須、佐久、尾瀬でも、プチ森林浴は可能です。ちょっと予定がタイトになりますが、日帰りでも行けます。日帰りなら、お金もあまりかかりませんし、スケジュールの調整も劇的にラクになります。「屋久島」が「秩父」や「奥多摩」に置き換えられるのは、ずいぶんと近場になったと感じるかもしれません。

 それでも、いいのです。大切なのは、自分の根源的な欲求を満たすために、具体的な行動を自力で起こしてみた、ということです。人間は、小さなことでも、思いきって1つ行動を起こしてみると、次の行動のハードルが劇的に下がります。

 皆さんも人材育成などビジネスの現場で「スモールステップ」と呼ばれる手法を聞いたことがあると思います。アメリカの心理学者バラス・スキナー氏の理論に基づいたもので、目標を細分化してハードルの低いものから少しずつ成功体験を積むことで、最終目標に繋げていきます。

 小さなことでも「できた!」というポジティブな結果が得られると、人間はまた同じことをやりたい衝動が強化されていくという考え方です。まさにこれを、ワーケーションを通じて「場所選び」に関しても実践してみませんかという提案です。

「距離」は関係ない--近場でもOK

 ワーケーションは、言うまでもなく第一に「場所のフォーマット」から自由になる試みです。仕事をする場所を「いつものオフィス」や「いつもの書斎」から変え、海辺のバンガローや、鳥のさえずりが絶えず聞こえるような山荘、国内外のユニークな人たちが集うデザイナーズホテルなど、自分が今一番行きたい場所に思いきって飛び込んでみましょう。

 電車で1時間ほどで行ける近場でも、飛行機を乗り継いで数時間かかるような場所でもいいのです。「距離」に関係はありません。別に近場でもいいのです。そこに行けると考えただけで心がワクワクしてくる「場所」にまずはトコトンこだわって旅先を選んでみてください。

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(書籍「どこでもオフィスの時代」に関する情報はこちら

鈴木円香(すずき・まどか)

一般社団法人みつめる旅・代表理事

1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。旅行で訪れた五島に魅せられ、2018年に五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、2019年にはBusiness Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画・運営を務め、今年2020年には第2回五島市主催ワーケーション・チャレンジ「島ぐらしワーケーションin GOTO」も手がける。

「観光閑散期に平均6泊の長期滞在」「申込者の約4割が組織の意思決定層」「宣伝広告費ゼロで1.9倍の集客」などの成果が、ワーケーション領域で注目される。その他、廃校を活用したクリエイターインレジデンスの企画も設計、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく東京と五島を行き来しながら活動中。本業では、ニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーターなども務める。

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