ワーケーションの本質的な「メリット」とは?--人生に変化が生まれるワケ

鈴木円香(一般社団法人みつめる旅・代表理事)2021年11月25日 11時25分

 「ワーケーションのメリット/デメリットを教えてください」ーーこれはよく受ける質問です。まずは「メリット」について先に書いていきたいと思います。個人レベルでワーケーションをする最大のメリットは、究極のところ「人生の主導権を取り戻すためのトレーニングができる」です。

 いきなり「人生の主導権」と言われても、ピンとこないと思いますので、詳しく説明していきましょう。

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 皆さんもご存じの通り、ワーケーションは、WORK (仕事)とVACATION(休暇)を掛け合わせた造語として、ここ数年徐々に日本でも定着してきました。海が見える執務スペースでPCを開いていたり、仕事の合間に緑に囲まれた森林を散策しながら過ごしたり……。そうしたシーンと共に「ワーケーション」という言葉が流通しています。

 皆さんの中にもなんとなく、ワーケーションとは、「旅をしながら仕事をすることでしょう?」「自宅やオフィスから離れた自然の中でリフレッシュしながら働くことでしょう?」と理解してくださっている方が結構いるのではないでしょうか。

 そのイメージで、50%くらいは合っています。でも、本当に皆さんに理解していただきたい「ワーケーションの本質」は、そうしたイメージからは読み取れない残りの50%にあります。実はワーケーションの本質は、「自宅やオフィスから離れて旅をすること」でも、「自然の中でリフレッシュすること」でもないのです。では、何なのでしょうか?

 それは、「自分で決めること」です。

 オフィスや自宅以外の自分の好きな場所を選び、WORK(仕事)とVACATION(休暇)のバランスも自分の好きなように決めて過ごす。これが、私たちの考えるワーケーションの定義です。海の近くで過ごすか、森の中で過ごすか、はたまた温泉宿や都心のラグジュアリーホテルで過ごすか。滞在期間は3〜4日にするか、1週間から10日にするか、もっと思いきって1カ月にしてしまうか。家族と一緒に行くか、一人で行くか、友人や同僚と行くか。仕事をする以外の時間は、何をして過ごすか。

 ワーケーションという体験をしようとすると、このように自分で決めなくてはいけないことが無数にあります。そして、この「自分で決めること」にこそ、自分の人生の主導権を取り戻すためのきっかけが豊富に詰まっているのです。

自分の中の「Want」と向き合う時間が大事

 どんなに小さなことであっても、「自分で決める」というアクションには、今の自分の心にある本当のWantを知り、それを実現させ、その結果を引き受けるという一連の流れが含まれています。

 たとえば、「次のワーケーションは海辺の町でやろう」と決めたとします。そのとき、まず「海の近くで過ごしたい」という自分の内なる欲求に気づき、掬すくい上げる必要があります。山でもなく、温泉でもなく、海に行きたい気分だ。そしてどんな海がいいかと言えば、エメラルドグリーンのリゾートの海というよりも、ひなびた漁師町にあるような静かな海がいい……。そんなふうに、自分の心と対話をしながら、今の自分が心の底から望んでいること(Want)を掴んでいくのです。

 そんなこと、わざわざ言われなくても誰でもできるでしょ?とおっしゃる方もいるかもしれません。ところが、実際に自分のWantを正しく把握している人は、驚くほど少ないのではないかというのが私たちの実感です。

 特に都市部で働くビジネスパーソンほど、自分のWantを脇に置いたまま、周囲から求められる役割に没頭する生活を何年も続けているうちに、他者のWantを自分のWantであるかのように錯覚してしまっている方が多いようです。「忙しいから」という理由で、本当は仕事よりも何よりも重要な「自分はどう生きたいかを考える時間」をないがしろにせざるをえない状況に追い込まれているのかもしれません。

 自分のWantを正しく発見したら、次はそれを行動に移します。

 イメージに合うような海のある場所を探し、目的地を決め、移動手段を選んで手配します。Wantの実現のために、自ら能動的に行動することもまた、私たちは日常において忘れがちです。普段の自分の行動を振り返ってみると、純粋に「したいからする」というよりも、「しなくてはいけないからする」「するべきだからする」「しないと損をするからする」という動機からとっている行動が、意外にたくさんあることに気づきませんか。自分の内なるWantを叶えるために素直に行動する。この「能動性の再起動」も、「自分で決める」を構成する大切な要素です。

ワーケーションで人生に変化が生まれるワケ

 そして、最後に重要なのが、行動した「結果を自分で引き受ける」こと。

 たとえば、ワーケーションで海辺の町に1週間ほど滞在した最終日、海に沈んでいく夕日を見ながら、「ああ、本当にいい1週間だった」としみじみと実感する。ただそれだけのことでも、十分意味があります。自ら決断して行動した結果、何を得たか。漠然とした気持ちでも、確固とした決意でも、はたまた「もっとこうすればよかった」というほろ苦い後悔でもいいのです。大切なのは、どんな「結果」であれ、それを自分の心と体でしっかりと感じ取り、受け止めることです。

 そして、その結果を踏まえて、次は「また来たい」「帰ってからもたまには近場の海に出かけたい」「海のある場所に引っ越したい」など、新たなwantの発見に繋がり、「自分で決める」のサイクルが回り続けます。「wantの発見」→「能動性の再起動」→「結果の引き受け」。この一連の流れが、「自分で決める」には埋め込まれているからこそ、ワーケーションを通じて、その後の人生に変化が生まれるわけです。

 ワーケーションにおいて小さなことから大きなことまで無数の「自分で決める」を繰り返す中で、「Wantの発見」→「能動性の再起動」→「結果の引き受け」のサイクルが何回転もして、日常生活に戻る頃には、それがすっかり定着し、自分の人生の主導権を取り戻せた状態になっているのです。

 逆に言えば、そういうワーケーションこそ理想のワーケーションであり、「自分で決める」の要素がないワーケーションではやる意味がないとさえ私たちは考えています。

1つのポイントを押さえれば「デメリット」は氷解する

 とても本質的な話なので、ボリュームを割いて丁寧に説明させていただきましたが、以上が個人レベルでのワーケーションのメリットです。ではデメリットは何なのか?結論から言えば、デメリットは特にありません。

 詳しくは、次回の「会社にとってのメリット/デメリット」で書きますが、個人レベルでも同じです。デメリットとしてよく挙げられる「時間の管理がしづらい」「余暇との線引きが難しい」「セキュリティが不安」「仕事と余暇の両方だと疲れる」といった点に関しては、勤める職場でしっかりとテレワーク(リモートワーク)の体制が整備されていれば、大きな問題にはなりません。実際、企業がワーケーションを制度として取り入れる場合、テレワークの枠組み内で認めている場合がほとんどです。

 今後の記事でも触れますが、ワーケーションでは「今、自分が心底やりたいと思うこと」にフォーカスして、時間やエネルギーを正しく投下していくことが何より重要です。そしてそのポイントをしっかり押さえてワーケーションを実践していけば、「余暇との線引きが難しい」「時間管理がしづらい」といった問題は自然と解消していきます。

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(書籍「どこでもオフィスの時代」に関する情報はこちら

鈴木円香(すずき・まどか)

一般社団法人みつめる旅・代表理事

1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。旅行で訪れた五島に魅せられ、2018年に五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、2019年にはBusiness Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画・運営を務め、今年2020年には第2回五島市主催ワーケーション・チャレンジ「島ぐらしワーケーションin GOTO」も手がける。

「観光閑散期に平均6泊の長期滞在」「申込者の約4割が組織の意思決定層」「宣伝広告費ゼロで1.9倍の集客」などの成果が、ワーケーション領域で注目される。その他、廃校を活用したクリエイターインレジデンスの企画も設計、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく東京と五島を行き来しながら活動中。本業では、ニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーターなども務める。

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