「調理ロボット」と「業務ロボット」を世界中に--TechMagicが語る「食産業の3つの課題」とロボット活用事例

 「フードテックで変わる食のエコシステム~生産から消費まで~」と題して10月25日から29日までオンラインで開催された「CNET Japan FoodTech Festival 2021」では、食産業の課題をロボットで解決するTechMagicの代表取締役 兼 CEO 白木裕士氏が登壇。食産業におけるロボットの役割や貢献の可能性などを紹介した。モデレーターは本誌CNET Japan編集長 藤井涼。

キャプション

調理ロボットと業務ロボットを、世界中に浸透させたい

 TechMagicは、2018年の2月に創業し、食産業向けの「調理ロボット」と「業務ロボット」を開発するスタートアップだ。ビジョンは、「テクノロジーによる持続可能な食インフラ社会を実現する」。ミッションは、調理ロボットと業務ロボットを世界中に浸透させることだ。

 CEOの白木氏は、もともとボストンコンサルティンググループで通信・製造業を担当。CTOの但馬氏は、トヨタグループで二足歩行ロボットなどの開発に携わっていた経歴を持つ。従業員のエンジニア比率は80%で、ロボット、AI、機械設計のメンバーが50%以上を占める、エンジニアドリブンの企業だ。

 食産業のなかでも外食と中食向けにサービスを展開しており、創業3年、現在4期目という若い企業ながら、大手企業との協業も数多く手がけている。白木氏は、同社の歩みと概観を、このように紹介した。

 「創業して半年後に、サントリーさん、プロントさんとのパスタの調理ロボットの案件が始まり、その約半年後には、厨房機器大手のフジマックさんとの洗浄ロボットの案件が始まりました。この2つの案件にしっかり取り組みながら、今年に入ってからはキューピーさん、味の素さん、日清食品さんをはじめとする企業さんとの協業で、さまざまなロボットを開発しているところです。資金調達は3回実施、合計で約23億円調達しています。1回目のシードラウンドは、ベンチャーキャピタルのジャフコさん、シリーズAでは、事業会社のフジマックさん、シリーズBでは、SBIさん、既存投資家のジャフコさんに加えて、今後リース展開をしていきたいというところで、JA三井リースさん、日清食品さん、ソフトバンクグループ傘下のディープコアさん、牛角創業者でダイニングイノベーションの西山さんに参画いただきました」(白木氏)

会社概要
会社概要

食産業を取り巻く3つの課題

 同社が解決を目指す課題は、大きく3つある。「人手不足」と「コスト構造」というB2Bの課題が2つ、それから「生活習慣病」というB2Cの課題だ。

 食産業のなかでも特に外食では、80%を超える企業が、人手不足感を感じているという。また、三井住友銀行の調査によると、食産業の利益率は2%と推定されている。さらに、開業率が高い一方で、廃業率も高い。白木氏は、「AIやロボットを活用して、コスト構造をガラッと変えられるようなインフラを作っていくことができれば、大きなイノベーションを起こせるのではないか」と話した。

 他方、消費者側には生活習慣病という課題があり、その数は人口の10%以上ともいわれている。白木氏は、「調理ロボットが一人ひとりに合わせた食事を提供することができれば、生活習慣病の解決にもつながる」と話したうえで、主にB2Bの2つの課題を取り巻く状況について、多角的に解説した。

食産業の3つの課題
食産業の3つの課題

 まず参照したのが、2019年から2021 年までの非正社員における人手不足感だ。「飲食店の人手不足感は、2019年は80%、2020年はコロナで若干下がったものの40%、2021年になってからは約60%弱の企業がまだ人手不足感を感じている」(白木氏)

人手不足感
人手不足感

 次に、一人当たりの生産性の成長率。G7のなかで、日本だけが成長していないという。白木氏は、「人手の減少スピードより、一人当たりの生産性の成長スピードの方が早くなれば、人手不足感を解消できる。現在は約4万ドルの一人当たりGDPを、米国の約6万ドル超まで引き上げることができれば、企業としてもより潤い、課題も解決できるのでは」と話した。

G7のGDP
G7のGDP

 そして、高齢化社会だ。2017年の時点で、日本はすでにトップ。2050年には高齢化率がさらに上がり、労働者が減っていく。人手不足にどう立ち向かうかの重要度は年々増しているという。

世界的に高齢化が進む
世界的に高齢化が進む

 つまり、人件費を上げなければ、労働力を確保できないという課題にぶち当たるわけだが、「最近、飲食企業の経営者さんから話を聞くと、1300円くらい出してもなかなか人が集まらないとのことで、いますでに人件費を上げなければ事業が成り立たなくなるという事象が存在している」(白木氏)とのことで、これを打破する打ち手が求められている。

人件費も上昇
人件費も上昇

 このような背景のなか、飲食店のコスト構造を見ると、原価と人件費で約70%を占めている。利益率は2%だ。白木氏は、「少し間違えれば、すぐ赤字になってしまう。原価と人件費の抑制が、コスト構造の改革の鍵になる」と指摘したうえで、このように説明した。

 「調理ロボットで飲食店の厨房を自動化していくことで人件費を抑制し、業務ロボットでセントラルキッチンを自動化して原価に乗っかった人件費を抑えていく。このようなソリューションを提供することで、コスト構造を改革していきたいと考えています」(白木氏)

 さらに白木氏は、「全産業においてデジタルを活用した革新と創造が進み、そうでない既存事業は成長が鈍化している。たとえば、平成元年には世界の時価総額ランキングを牛耳っていた日本企業が、いまやほぼ上位にいないという話はよく出るが、これはデジタルを活用し切ったビジネスモデルを構築できているかどうかが大きい」と話し、外食産業、中食産業においてもテクノロジーの活用が不可欠であることを説明した。

 「人工知能、AI、ロボティクスなどの技術は、どんどん進化しています。こうした技術をうまく取り入れている、いわゆるGAFAなどのテクノロジー企業が、さまざまな産業に入りつつある。これこそ、DXの象徴であると考えています。外食産業、中食産業においても、デジタル中心のビジネスモデルに変えていく、事業運営体制に変えていくことが極めて重要です。我々は、テクノロジーパートナーとして、食産業の企業のみなさまの課題解決にお役に立ちたいと考えています」(白木氏)

テクノロジーの活用が必要
テクノロジーの活用が必要

調理ロボットと業務ロボット、それぞれの特徴と活用事例

 最後に白木氏は、TechMagicが開発、展開する、調理ロボットと業務ロボットについて紹介した。「調理ロボットは、ハードウェアとソフトウェアを融合したソリューション。0.5人分の省人化では採算が合わないので、一連の調理工程を自動化することを重要視して開発している。業務ロボットは、洗浄や盛付けを行うロボットを開発している。調理に付随する単純作業の自動化し、生産性向上につなげたい」(白木氏)

手がける事業
手がける事業

 調理ロボットの特徴は、「注文との連携」「一連の調理工程の自動化」「レシピのデータベース化」「モジュール化」の4つだ。注文を受けたらシームレスに調理を開始して、たとえばパスタロボットであれば、麺を供給して、麺を茹で、その間に具材やソースを自動的に供給して、自動的に加熱調理する。適切な温度になったタイミングで、盛り付け台に持っていき、使ったフライパンを洗浄する、といった具合でさまざまな工程が完全自動化されているという。また、熟練のシェフの味を「ロボットでも読める言語」に変換してデータベースにする、業態や厨房サイズに合わせて組み合わせて導入できるようモジュール化することも進めているという。業務ロボットの特徴は、機械学習を活用したロボットの自律制御や、さまざまな食材に対応できるハンドの開発などがある。

 続いて白木氏は、具体的な活用事例を紹介した。プロントではパスタ調理ロボットが活躍しているという。左手に冷凍庫、その横に茹で麺昇降機、茹で麺機、フライパンのIHなどのモジュールがあって、その下で4軸のロボットが左右に動いて働く。その隣には洗浄機があるという。全てTechMagicが設計開発している。

ヌードルロボットの事例
ヌードルロボットの事例

 CRISP SALADA WORKSとはじめたサラダロボットは、約30通りの野菜を、グラム単位で冷蔵庫から自動的に供給をして、出来立てのサラダをご提供しており、287万通りのサラダができるという。

サラダロボットの事例
サラダロボットの事例

 フジマックと一緒に取り組む洗浄ロボットでは、フジマックの洗浄機の後ろ側にTechMagicのロボットがあり、洗浄機から出てくる食器を自律的に仕分けする。ANAの羽田工場では、機内食の仕分けを行い、右上のカメラで3次元の位置と3次元の姿勢を感知し、6次元の情報をもとに自律的に仕分けをする。

洗浄ロボットの事例
洗浄ロボットの事例

 そのうえで白木氏は、「大企業との協業は、戦略上重要視している」と話して、キューピーとの盛付けロボット、味の素との炒め調理のプロジェクト、日清とのスマートキッチンなど、企業との協業事例も紹介した。

 「今後も、引き続き調理ロボット、業務ロボットを中心とした事業を展開していく予定です。麺系、炒める、揚げる、焼くなどの調理ロボットを積極的に開発して、お客様にご提供していきたいと考えています」。白木氏はこのように話して、講演を締めくくった。

 モデレーター藤井とのトークセッションでは、コロナの影響について質問されると、白木氏は「2020年の前半は非常に厳しい状況だったが、コロナで浮き彫りになった食産業の課題に対してこのままではいけないと動かれる企業さんからの問い合わせが増え、いまの感覚としては5年ほど未来が早く来たように感じる」と回答した。

 また、実際に人が調理した料理との比較については、「調理ロボットは、品質の安定性が高い。もともと調理ロボットは省人化対策としてはじめたが、いまでは熟練の味を再現することこそ、調理ロボットの価値だという認識に変わってきた。また、お客さんを笑顔にできるような付加価値の高い作業と、そうではない低い作業をしっかり棲み分けて、後者を中心に自動化しているところだ」と話して、外食産業におけるDXが着実に進みつつあることを印象付けた。

 今後の協業パートナーについて問われると、「これからも食品メーカーさんや、外食の企業さんなどと、新たなプロジェクト開発に取り組んでいきたい。一方で、TechMagicはファブレスなので、製造に強みを持ったものづくり企業さんとの協業は、引き続き模索しつつ、調理ロボットや業務ロボットと連携できる機能やソリューションを保有する企業さんとの連携も強化していきたい」と答えた。そして、積極採用中であることも言い添えた。「いま、対応しきれないプロジェクトに対応できるよう組織を倍増中で、全職種で募集している。調理ロボットや業務ロボットを世界中に展開したいというミッションに共感いただける方、未来を一緒に創りたい方は、ぜひTechMagicに応募いただきたい」(白木氏)

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