象印マホービンの坂本氏が発表したのは、サッカーを中心としたスポーツ選手の「水分補給」に的を絞ったソリューション。これによって「日本のサッカーを強くする」というのが同氏の願いだ。
サッカープレーヤーとして23年の経験をもつ坂本氏によると、近年、サッカー界ではテクノロジーの活用が進み、体組成計による体型などの分析はもちろんのこと、GPS内蔵のウェアによる走行距離や心拍数の収集・分析、スマートフォンアプリによる食事・睡眠の管理と分析も行うようになってきているという。
しかし、水分補給という部分についてはまだテクノロジーが入り込めておらず、欲しいと思ったら飲むだけの「自由飲水」状態。これは、「選手ごとの適切な補給量がわからない」「水分補給のタイミングが限られている」「補給量を管理できていない」といった理由があるが、十分な水分補給がなければ脱水し、脱水率が上がるにつれて持久力、瞬発力が低下するとも言われている。単に肉体的なパフォーマンス低下を引き起こすだけでなく、「筋肉系の怪我や熱中症リスク増にもつながる」可能性もあると指摘する。
Jリーグなどで活躍するプロサッカー選手20名にヒアリングしたところでも、水分補給が適切に行われていないことが明らかになり、練習前後で2%以上の体重減少があった選手は30%にも上ることがわかった。「どれくらい水分をとればいいのかわからない」「(水分補給によって何がどう変化するかの)客観的データが不足している」「トップレベルの選手でも適切に補給できていない人もいる」といった意見も集まった。
あるJリーガーの話では、「一度に飲み過ぎても吸収されず身体が重くなる」とし、だからといって少ない補給量だと不足気味になり「顕著に走れなくなる」こともわかった。そこで坂本氏が考案したのが、普段のトレーニングから脱水状態を管理し、適量の水分補給を促す仕組みだ。
具体的には、既存の体組成計やGPSウェアで練習前後の体重、走行距離と心拍数を計測。それに当日の水分補給量や気温・湿度という情報も加えて分析し、適切な水分補給タイミングを可視化する「脱水予測アプリ」を提供する。水分補給量については、新たに開発する重量センサー付き真空ステンレス二重構造のIoT水筒・カバーを利用する。必要量を適温で飲めるようにするこのデバイスは、水分補給量を常時計測してデータを蓄積していくこともできる。
これにより、選手はパフォーマンスを高く維持できるように、適切なタイミングで必要十分な水分補給ができるようになる。選手を管理するチーム側も、飲料水補充のための手間を軽減したうえで、選手のコンディション管理も効率化。サッカー選手だけでなく、他のスポーツ選手にも応用でき、子供や高齢者の熱中症予防にもつなげられるとしている。
アプリは月額1,000円、IoT水筒・カバーは8000円といった料金設定で、2026年度に黒字化を目指している。日本のスポーツ人口の5%への普及で400万人、480億円、世界のスポーツ人口1%への普及でも7800万人、9300億円に達するほどの市場規模があると期待している。
牛乳石鹸共進社の江越氏は、大地震などにより被災し、断水で水が利用できなくなったときなどでも、まるでお風呂上がりのような爽快な気分が得られる温水ミストブラシ「YUAGARI」を提案した。
江越氏によると、東日本大震災や阪神淡路大震災を経験した人たちのヒアリングから、被災後は飲料水だけでなく、身体や設備を洗ったりするための生活用水が極端に不足することになり、特に洗髪ができないことのストレスが大きいことがわかったという。身体はウェットシートや濡れタオル、エタノール消毒などである程度きれいにできるが、髪や頭皮はドライシャンプーや濡れタオルを使っても3日以上それが続くと不快感に耐えられなくなるとのこと。
生活用水の確保が難しいなかで、それでも爽快感のある洗髪をするにはどうしたらいいか。そこで江越氏が考案したのが、180ミリリットル、おおよそコップ一杯程度の水で髪や頭皮をすっきり洗い流せる「YUAGARI」だ。牛乳石鹸が開発する洗浄剤と水をブラシに装填することで、それらを温水化し、ミスト状に噴出して水量を節約しながら髪をとかすことができる、という仕組みだ。
現在は研究所における検証段階にあるが、課題となっているのは爽快感につながる最適な「温かさをどうやって実現するか」というところで、そのための事業共創パートナーを募集している。
被災時した人だけでなく、お風呂に入れない被介護者にも応用できるとし、2022年には事業を本格的に立ち上げ、2025年度に単月黒字、2025年度に売上2.8億円を目指す。自社ECサイトなどを活用してまずは5000円程度で販売し、「水が限られた状態でも清潔を提供する」というミッションを掲げてプロジェクトを進めていきたいとした。
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