10月25日から29日までオンラインで開催した「CNET Japan FoodTech Festival 2021」に、熊本市で養豚プラントの導入・コンサルティング事業を展開するコーンテックが登場。
同社はアナログな畜産業界の工業化を推進するなかで、独自のIoT・AI家畜監視サービス「PIGI(ピギ)」を開発。今回のセッションでCEOの吉角裕一朗氏が登場し、養豚業界が抱える課題と畜産DXの有効性、さらにPIGIの世界展開について語った。
畜産というと牧歌的なイメージが思い起こされるが、実際は工業化が進み、裏側では世界的に見過ごせない課題を抱えているという。例えば、畜産で排気されるCO2は、世界の乗り物全てが排出する量とほぼ同じであるとのこと。養豚に関しては、「世界で飼育されている豚は約8億頭。飼育するための環境負荷が高く、限られた資源をいかに有効活用するかが、サスティナブルな世界になっていくための課題の一つになっている」と吉角氏は説明する。
コーンテックが手掛ける国内養豚向けの餌の領域でも、日本はコメの国内生産量の約2倍の量を外国から輸入しており、サスティナブルな状況ではないという。「世界の耕作面積や資源が限られているなか、現在は経済的に有利な国々が餌を独占し、環境的に大きな負担をかけている。世界は資源を平等に分配し、一番環境負荷の低い方法を選ばなければならない。そのためにコーンテックのテクノロジーが必要」と吉角氏は自社事業の意義を説く。
そのような市場背景のなか、コーンテックは、「人と家畜の共存、世界の食糧問題を解決し、エネルギーと資源が循環する社会を作る」というビジョンを掲げ、二つの領域で事業を展開している。
まずは、創業以来の主力事業である、畜産の餌を作るプラントを設計する“直配合施設”という事業である。「畜産経営の60%が餌にかかるコストであるため、プラントの導入が約20%のコストダウンにつながる」(吉角氏)のだという。今まで累計100カ所以上の養豚場にプラントを導入しており、そこで生産される豚の頭数は250万頭を超える。餌の年間削減コストは200億円を超えているとのこと。
日本国内での養豚市場規模は年間約6000億円で、餌のコストは約3600億円。量的に見ると養豚場は約4300件あり、1日に消費される餌の重量はスカイツリー約1本分に匹敵するという。これだけの市場規模があるものの、実は餌の運用は正しく行われていない。1年を通じて一定の配合の餌を与えているため、資源が無駄に使われているのだという。
そこをプラントで正確な配合の餌を作り、給餌を最適化するというのがコーンテックのアプローチである。同社が提供する配合設計で餌を与えると、餌の質の適正化に加えて出荷にかかる期間を180日から160日に縮められ、出荷頭数も増やすことができる。またその際に、工場などから出たエコフィード(食品由来のごみを原料としたリサイクル飼料)を使うことができ、フードロス対策や地域の食品の循環が可能になるのである。
もう一つが、AIカメラのPIGI、およびIoT・AIシステムの「PIGI Pro」である。PIGIで動態を自動的に測り、今までの配合設計に加えて気温、湿度、動態のタイムリーなデータを取り込むことで、より簡単かつ高い精度で豚を管理できるようになる。手動または自動で豚を撮影、状態を把握することで、養豚場の業務効率化と品質や利益の向上につなげる。
PIGIの主要機能は、AIカメラによる体長・体重の自動計測機能である。豚は出荷時に体重を量るが、100~115kgに出荷体重をコントロールできれば、格付けが上級になって10%の売上増が見込めるのだという。現在は豚の体重を量る場合、3人がかりで体重計に載せ、1頭の豚を量って、それに近い大きさの豚を目測で選んでいるので、大変な重労働でありながら正確な測定ができていない。その際PIGIを使えば、スマホやタブレットを活用して豚を撮影するだけで、適正体重で豚を出荷できる。
製品としてもう一つ、天井に着けるタイプのPIGI Proを用意している。ワイヤーで養豚場を移動する事で、複数の豚の体重を量ることが可能だ。常時体重を量ることによって、状態と餌の関連性をスコア化し、給餌の効率を上げていくことができる。また、室温度センサーによって環境状態を把握し、その際の動態を管理することで個体ごとの成長の管理が可能となっている。
コーンテックがAIなどのテクノロジーを活用した畜産DX事業をおこなう背景として吉角氏は、畜産業界では大規模集約化が進んでいるのに人が対応できておらず、かつITの導入が劇的に遅れていて、強力なITプレイヤーもいないことを挙げる。
「この領域はブルーオーシャン。AIカメラを活用して3Dデータで体重を推定する取り組みは世界中を探してもまだ珍しく、この技術を確立すると世界的なゲームチェンジャーになる。畜産にまつわるビジネスは人間の目により成り立っており、AIカメラが入ることでほとんどが置き換えられると予想される。保険、バイオセキュリティ、リース、薬品、サプリメント、ゲノム、獣医など、畜産の世界が大きく変わっていく」(吉角氏)
一例として、猛威を振るう豚コレラ問題への活用を説明する。この数年で数億頭の豚が殺処分されたが、畜産では人が動き回って疫病を媒介すると考えられているので、カメラを設置して人が入らなくなれば、病気にかかる確率は数十分の一になる。東京のオフィスから複数の農場の管理も可能だ。また、AIで病気の豚を早期発見することで、パンデミックになる前に数頭単位でワクチンを打つ、なども可能になる。
そのほか、AIカメラの導入は労働環境の改善、人材不足の解消につながる。その際、人の勘と経験に頼っていた肉の品質管理がAIでできるようになり、畜産にとって一番大きなコストである餌の無駄を制限できる。さらにその上で、サスティナブルな畜産ビジネスの確立が見えてくる。
「これからの世界の資源を守っていくためにも、無駄をなくし効率化するためにPIGIが必要になる。大型な家畜は世界に50億頭いるといわれている。PIGIは体重を量るAIなので、他の動物でも応用が利く。世界の畜産をAI化し、限られた農業資源とフードロスの問題を解決するために一生懸命頑張りたい」(吉角氏)
また吉角氏は、視聴者からの質問に回答するなかで今後の畜産DXビジネスの事業展開を語った。まず、国内畜産業界でのIT導入やDXが進んでいない理由について、一般的には従事者の年齢層が高いことによるリテラシーの問題が挙げられるが、「それは代替わりで徐々に解決していっているのでクリティカルな問題ではない」と話す。それよりも、日本の養豚や畜産は大企業が参入するにはサイズが小さく、「豚、牛いずれにおいても、日本は肉食の最後進国なので、欧米とは歴史が違う。そのためにテクノロジーが遅れている」(吉角氏)のだという。
PIGIの今後の事業展開としては、ITベンダーのコーンテックとしてのグローバル展開を見据えているという。先述の通り日本は規模が小さく養豚数も1千万頭弱であるのに対し、世界では10億頭に達する勢いで、けた違いの市場がある。
「日本国内で我々がプラントを導入した養豚場では、コンピューターで自動計算して餌を作るという所までを考えている。ただ、世界を見たときにはそれではスケールしない。海外はソフトウェアだけで勝負したい」(吉角氏)
すでにPIGIの取り組みは国内のみならず世界からも注目され、ほとんどの国から問い合わせが来ているとのこと。ただし、コーンテック側からの情報発信はまだ抑え目にしているのだという。「行けるというタイミングで情報を発信する。テクノロジーのエッジが効いている間にブランディングしていきたい」と吉角氏は戦略を語る。
畜産DXの推進にあたりパートナーシップも検討中であり、現状ではVC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)と話をしつつ、「テクノロジー領域や、フード系でエコフィード、他にもサプリメント、ワクチンなど、関連しそうな企業と資本提携しながら一緒に取り組めればと思っている」(吉角氏)とのこと。また、世界展開にあたって養豚以外への展開も視野にある。豚よりも飼育頭数が多いヤギや、馬などの大型な家畜への対応を考えているという。
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