カリフォルニア州メンローパークにあるFacebook本社で、同社のシンボルともなった「いいね!」マークの看板が、無限を示す青いマークに取り替えられた。そこには、新しい社名「Meta」の文字もある。
この社名変更は、米国時間10月28日に同社の年次カンファレンス「Facebook Connect」で発表された。Facebookが全力を挙げてメタバースへと向かう取り組みの一環だ。メタバースとは、人々が働き、遊び、学び、互いに交流できる仮想環境のことで、現時点では大部分が仮説的な概念にすぎないが、最高経営責任者(CEO)のMark Zuckerberg氏はこれを、「モバイルインターネットに取って代わるもの」と呼んでいる。
しかし、メタバースを目指して突き進む中で、Facebookは、そもそも問題を引き起こしてきた慣行を繰り返すおそれがある。同社がかつて掲げていた、「素早く行動し破壊せよ」というモットーは、リスクを慎重に考慮することなく、新しいアイデアを報奨する文化を促すものだった。メタバースは全く新しい環境を作り出すが、Facebookが引きずっている問題を深く根付かせることになりそうだ。
Facebookで、データプライバシーやヘイトスピーチ、誤情報などをめぐって次々と不祥事が噴出してきたのは、その野心的な姿勢も一因だろう。民主主義への悪影響や、体型に関する蔑視の責を問われたこともある。ごく最近も、同社の製品マネージャーだったFrances Haugen氏が調査資料をリークして話題になったばかりで、そのダメージはことのほか大きかった。Haugen氏の申し立てによると、Facebookはヘイトスピーチや誤情報といった有害なコンテンツをまん延させる役割を担ってきたことについて、大衆と投資家を欺いてきたというのだ。
Facebookは、安全性とセキュリティに関して4万人以上の人員を動員しているとして、この告発を否定している。Facebookとそのサービスを利用しているユーザーの数は、毎月約35億8000万人に達する。
巧妙に社名を変更したところで、Facebookは多くの問題を遠ざけられるわけではない、と指摘するアナリストもいる。
「社名を変更しても、Facebookにはびこっている組織的な問題を一掃できるわけではない。Metaが、自衛や表面的な体裁を超えて問題に向き合わない限り、同じような問題は同社のいうメタバースにも広がるだろう」。Forresterのバイスプレジデントであり、リサーチディレクターを務めるMike Proulx氏は、声明でこう述べている。
Forresterが、米国、カナダ、英国の745人を対象にアンケートを実施したところ、社名が変わってもFacebookに対する信頼性が上がることはないという回答が75%にのぼった。
Facebookによると、今回の社名変更は、同社が優先事項に注力することの現れだという。2004年にハーバード大学の寮の一室で生まれて以来、Facebookはソーシャルネットワークというルーツを超えて成長してきた。今や、仮想現実(VR)ヘッドセット、スマートグラス、ビデオチャットデバイスなどまで展開するテクノロジー業界の巨人だ。はては、仮想通貨ウォレット「Novi」で金融にまで手を出すようになった。
Facebook Connectの基調講演でZuckerberg氏は、新たな分野への参入に伴うリスクは十分に承知していると述べた。ユーザーのプライバシーと安全性を保護するという点で、Facebookのこれまでの実績は褒められるものではなく、その問題はメタバースでも消えることはないだろう。
「章が進むごとに、新しい意見や新しいアイデアが生まれるが、新たな課題とリスクも生じ、既存の利害は破壊される。われわれはゼロから協力して、考えられる最高の未来を実現しなければならない」と、Zuckerberg氏は語っている。
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