「日本のものづくり」にテック企業のスピード感を--MOON-X長谷川氏に聞く創業から2年の成果と課題 - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2021年11月03日 09時00分
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問い合わせフォームからパートナーを探す地道な営業活動も

——クラフトビールやスキンケアなど、自社で展開するブランドはそれぞれ分野が異なっています。それでも次々とヒット商品を生み出せているのは、何か秘訣みたいなものがあるのでしょうか。

 確かに畑違いのように見えますが、裏側には共通して使えるノウハウや、コアになるところがあると思うんです。どう消費者と向き合うか、どうマーケティングするか、プラットフォームのルールを理解したうえでどう売るか、クリエイティブをどう作ればいいのか。そういったカテゴリに関わらず大事なことはすごくたくさんあります。

 僕らのなかに、ある程度各業界の事情に通じているスタッフがいるのも事実ですが、実際にはその仕事に入り込んでから理解がより深まるものです。なので、僕らの強みはどちらかというと、カテゴリに関係なく8割方共通しているコア部分のスキルをもつ人材が揃っている、というのが大きいかもしれません。カテゴリごとの専門知識や経験だけに依存していると厳しいですが、僕らの場合はそういうモデルでやろうとしていないんです。

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——そうすると、自社で手がけるブランドのカテゴリはどうやって決めてきたのでしょう。

 今ある自社ブランドのカテゴリは、成功したときのスケール感と成功確率の高さから選んできました。デジタルとの親和性や、自分たちのノウハウ・経験・強みが生かせるか、という点を鑑みての確率です。あとは、始めるとやはり難しい局面にも遭遇するので、それでも熱意を持ち続けられるかというところ。そうした軸で検討して、選んだものが今の3つのブランドということになります。ただ、それは創業時に僕ともう1人のファウンダー2人で決めたことなので、今後の選び方はおそらく変わってくるとは思います。

——作り手であるパートナーを探すところでは何かコツはありますか。

 製造のパートナーさんであれば、それこそ日本のものづくりを体現するような、こだわりを持っていいものを作ってらっしゃるところに、僕からアプローチするケースが多かったですね。もしくは人づてで紹介していただいたこともあります。たとえば木内酒造さんは、知り合いがその社長と面識があったので紹介してもらって、茨城まで行ってそばを食べながら話をしました(笑)

 一方で、日向夏ビールを作った宮崎ひでじビールさんは、僕が休暇でサーフィンに行ったときに、たまたまそこで代表取締役の方に出会って、意気投合して話が進んだ。化粧品を今作っていただいてる日本コルマーさんは、日本一の化粧品OEM会社なんですが、そこはコーポレートサイトのお問い合わせ窓口から直接、普通に問い合わせましたね。

 偶然の出会いや地道な営業活動で結ばれた縁ですが、木内酒造さんにはゼロからレシピ作っていただきましたし、日本コルマーさんには最新の技術を提供していただいて、僕らとしても本当に胸を張れるものができました。こういうことって一般的な受発注の関係では起こらないことだと思うんですよね。だから僕らとしては、共創パートナーをコロコロ変えるのではなく、一度始めたら長くお付き合いして、一緒にイノベーションを起こしたいし、進化させていきたいと思っています。

——ちなみに、一緒に仕事をした作り手の方からはどういった感想が届いていますか。

 面白いと言っていただくことが多いですね。なんとなく、こだわりのある作り手だと、ユーザーからのフィードバックで製品を変えることに抵抗があるようにイメージするかもしれません。でも実際は逆なんです。今まで直接的にフィードバックをもらう機会がなかったので、リアルタイムでスピーディーにそれが得られるのが面白いと。ある意味、筋肉の動かし方が違う、みたいなところがあるので、そこも面白いみたいですね。

データから見える「シグナル」をもとに戦略を練る

——他社ブランドを支援するところで、運用ノウハウの注入をしたというお話がありました。そこではデータ分析が重要になってくるかと思いますが、MOON-Xではどのようにデータを活用されていますか。

 たとえば、ギフト特化のクラフトビールのプロジェクトは、データ活用が肝になっています。実際のところ、消費者の皆さんから「ギフト用のビールを作って」とダイレクトに言われているわけではないんです。ただ、僕らの製品の買われ方を見ていると、「のしあり・なし」のリクエストがあったり、売れ行きなどに季節変動があったりします。

 僕らはそれを「シグナル」と呼んでいるんですけど、そういった形で「フィードバック」をたくさんいただいているので、それも元にして製品を企画・開発しています。製品を拡張するときにも、ECモール内でニーズの規模感やトレンドなどを徹底的に見たうえで決めています。そんな風に、データから見える消費者のフィードバックやシグナル、もしくはAmazonや楽天などECモール内でのデータはかなり重視していますね。

——ちなみに、先ほど失敗もしたとお話されていましたが、たとえばどんな失敗を?

 ECモールって、他の製品も含めて何がいくらで売られているかが一覧ですぐ見える状態なので、価格設定がめちゃくちゃ大事なんです。でも最初の頃は「どの価格なら売れる・売れない」みたいなところの肌感覚が僕らにはなかったので全く売れなかった。それから価格のA/Bテストなどいろいろなことを試して、構造的にも価格的にもこれならいける、というポイントをなんとかつかんだんです。最初から戦略的にアプローチできていたわけではなかったんですよね。

 ページデザインも、そのタイトルの付け方も、自分たちのブランドのストーリーを語り切るうえでどういったアプローチがベストなのかやっぱりわからなかったので、最初はノリで作っていてうまくいきませんでした。最初はうまくいかなかったものを、どんどん細かくチューニングしていって、1つ1つアプローチの仕方を見つけていったんです。小さな失敗を積み上げながら、振れ幅をテストして、ようやく僕らなりの正解に近いと思うものに持っていったんですよね。

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——最近はFacebookなどのSNSでもMOON-Xの製品の広告を見かけることも増えました。

 SNSなどに向けた一般的なデジタル広告と、Amazonとか楽天のようなECモール内の広告ってまた違うんですよね。プラットフォームとしての違い以上に、消費者サイドがどのステージにあるかが全然違うと思うんですよ。FacebookとかInstagramって隙間時間に「何か情報がないかな」と思って見るものじゃないですか。

 でも、ECモールは何かを買いに来ている人たちが集まるプラットフォームなので、そもそも消費者のマインドが違う。だから消費者の購買行動を誘引するための要因も異なるわけで、そこでプラットフォームごとの特徴や、どういうユーザーに使われているのかを認識したうえでプロモーションを考えないとうまくいかないな、というのは大きな学びになりましたね。

——前職がフェイスブック ジャパンだったということで、SNSを巧みに使ったプロモーション手法も把握されていると思うのですが、そのあたりのノウハウも活かしているのでしょうか。

 活用はしていますが、僕としてはFacebookだけの経験にもとづいてMOON-Xをやっているわけではないんですよね。過去にさまざまな分野を経験してきた自分のいわば集大成としてMOON-Xを捉えています。

 良い製品・良いブランドがもたらす価値やものづくりについてはP&Gで、グローバルにオンラインで物を売るところの可能性や手法は楽天でそれぞれ学び、FacebookやInstagramでは国境を越えたコミュニケーションのあり方の変化、テクノロジーの行く末を見てきました。その上でのMOON-Xですので、狭い意味で「SNSを活用しなきゃ」とは1ミリも思っていないんです。

テック企業のようなスピード感を「日本のものづくり」にも

——ところで、長谷川さんはどのようなところに「ものづくりの面白さ」を感じていますか。

 以前P&Gに勤めていた時に、良い製品や良いブランドは世界中の消費者の生活を豊かにするパワーがある、ということを学んだんですが、MOON-Xを始めてからそれをもう一度思い出して、面白いというか、ワクワクを感じました。と同時に、「日本の」ものづくりというコンセプトに絞ることで、よりエッジの立った面白いことができそうだ、という期待感もありましたね。

 世界で最も厳しい消費者の眼鏡にかなうような、細部までこだわった良い製品を日本でまだもっと作れるだろうし、それをしっかりブランド化して、ECモールなどのプラットフォームを通じて提供することで世界中の人たちに喜んでもらえるだろうと。ちょっといいものに囲まれて生活が豊かになるみたいなことを、日本のこだわったものづくりで目指せる可能性を感じられるのが、一番ワクワクしているところですね。

 それはもしかしたら自社ブランドだけではないかもしれません。他にも素敵な製品がたくさんあると思うので、そういったブランドにジョインしていただいた方がより大きなインパクトを出せると思っています。そのあたりも楽しく、ワクワクしているところです。

——反対に、ものづくりで一番難しいと思うポイントはどこでしょう。

 やっぱり、リアルなものがあることですね。アプリやウェブサービスなら、何かを変えようと思ったらものの30分で修正できたりするじゃないですか。でもリアルな製品はそうはいかない。ビールだったら発酵過程が必要だし、化粧品も原材料や容器の確保の問題がある。いろいろなものが絡み合って1つのリアルな製品ができあがるので、そこのスピードをテック企業ほどは出せないもどかしさは正直感じています。

 ただ、それは一方でチャンスでもあると思っているんですよね。そういう分野だからこそ、多くの企業がスピード感を持った改良などを「できないもの」と決めつけている気もするんです。でもテック企業が一般的に行っている、ユーザーからフィードバックをもらいながら製品をどんどんアップデートしていくプロセスって、本来ならどんな業界のどんなサービスでもやった方がいいアプローチだと僕は思うんです。

 創意工夫すれば、ウェブページの内容を変えることほど簡単ではないにしても、ユーザーのフィードバックと向き合ってビールを3カ月ごとに改良していくこともできます。どんどん進化させていくテック企業のようなアプローチは可能なんです。ただ、そうしようと思うと自分たちでスピードというところに対してかなり意識しなければいけません。リアルならではのもどかしさ、大変さはありますが、逆にそこに面白さや勝機もありそうだ、というのが個人的に感じているところです。

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——事業領域が広がってくると人材がより多く必要になってくるかと思います。今後はリソースのバランスをどのようにしていこうと考えていますか。

 今のメンバーは全員で20人強。業務委託などで関わっていただいてる方も含めるともう少し多くなりますが、事業領域が広がる中でコアになってくるのは、自動化やシステム化で、そこは共同創業者がエンジニア出身で良かったなと思っている部分でもあります。僕ら自身、自社サイトがあり、販売先のECモールも複数あって、販売データや広告のパフォーマンス、在庫など、あらゆるデータがいろいろなところに散らばっています。ですが、それを全部自動的に、リアルタイムでダッシュボードに表示して、見える化しています。

 受発注管理においても、在庫が減ってきたらアラートで気付けるようにする、といったことは極めて大事なんですけど、それも全部システム化できている。事業領域がどんどん広がっていくにあたり、そういうテクノロジーの活用が一番肝になると思いますし、それによって生産性の向上やビジネスとしての結果にもつながるだろうと考えています。

——他社のブランド支援まで手がけていくとなると、現在はリアルのものづくりではあるものの、またソフトウェア的なサービスを作るところに戻る可能性もあるのでしょうか。

 製品やブランドを支援していくなかで、僕らが今手がけているものを研ぎ澄ませた形で外部に提供していったほうが、他社さんやそのブランドのためになるケースも出てくるかもしれません。ですので、結果的にそういうソフトウェア的なものを提供することは十分あり得るとは思います。ただ、今の根本の考え方はソフトウェアというより、ブランドの作り方、スケールのさせ方をDXさせていく、あるいは発射するプラットフォームを作りにいっている、そういう感覚が強いですね。

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