コロナ禍で対面でのビジネスが難しくなり、デジタライゼーションやDXの重要性が増している中、多くの企業のDXを支援してきたKaizen Platformが2020年12月にマザーズに上場した。公開時の株価1150円は、2021年4月の時点で2500円に迫り、DXを手がける同社への期待の高さをうかがわせる。
新型コロナウィルスの蔓延による緊急事態宣言が東京などで初めて発出されてから1年余り。Kaizen Platform代表取締役である須藤憲司氏に、コロナ禍を経て、企業の抱える課題やDXをとりまく状況はどう変わったのか、それにともない同社の事業にどのような変化が起きたのか聞いた。
——数多くの企業のDXを支援してきたKaizen Platformですが、コロナ禍のこの1年を振り返ってみていかがですか。
ちょうど1年前は緊急事態宣言が発出された頃でした。まだ2020年に東京オリンピック・パラリンピックを開催するのかどうかがわからなかった段階でしたね。
われわれの当時のビジネスは、ウェブサイトの改善をはじめとするUX事業(「KAIZEN ENGINE」「KAIZEN TEAM」など)と、動画事業(「KAIZEN Ad」「KAIZEN VIDEO」「KAIZEN TV」)の2つがメインで、どちらの事業もクライアントの15~20%をトラベル系のお客様が占めていました。ホテル・旅館の予約サイトや航空会社、もしくはライブ・スポーツイベントのチケット販売を手がける会社が多く、オリンピックに向けたさまざまなキャンペーンを実施しようとしていました。けれど、3月からはピタッとそれらのビジネスがストップしました。
われわれは元々テレワークができる体制を整えていましたが、新規商談などを全部フルリモートで行うのは初めてだったので、それも心配でした。こちらが対応できたとしても、すべてのお客様がリモートで対応できるとは限りません。どう営業活動していくべきかが大きな課題になりました。
——自社もクライアントも大きな影響を受けていたと。
そこで、まずは3月頃から、お取り引きいただいているすべてのお客様のところで何が起きているか、何に困っているかを全部丁寧に拾っていくことに徹しました。そして、コロナ禍に関連して大きく5つの課題があると分析しました。
1つ目は対面営業で、直接訪問することが難しくなっていたこと。2つ目はコールセンターです。コールセンターって三密なんですよね。席の間隔を空ける必要があり、しかも感染者が発生するとフロアごと閉鎖しなければならず、全国的に受電率が低下する現象が起きていました。コールセンターで対応すべき業務とは何か、コールセンターの生産性をどう上げるのか、電話する時間をどれだけ短くするか、といったところが課題になっていました。
3つ目はカタログやパンフレットの配布です。店頭にカタログやパンフレットが置いてあっても持ち帰る人がいないんです。誰が触ったかわからないものを受け取るのは怖い、というところもあったようです。4つ目が採用活動です。これまでの採用活動は、就職希望者を集めて説明会を実施することが多かったと思いますが、これが困難になってしまいました。最後の5つ目が、展示会などのイベント開催も中止せざるを得なくなったことです。
当社のお客様のなかでは、主にそういった5つの課題があることが分かりましたので、これらを解決できるようなサービスや、われわれがお手伝いできることはないかを整理していきました。
そんな中で、鍵になったのが「動画」です。たとえば1つ目の対面営業については、ウェブ会議ツールなどを使って非対面で実施することになります。そうすると、これまで紙のカタログを見せながら説明していたのを、動画で説明できる状態になるわけです。それもあって営業資料を動画化するメニューを作りました。
コールセンターについてはマニュアルなども全部動画にしていきました。さらにコールセンターの方が顧客に説明する際に、最初に動画コンテンツを案内して、それでも不明なところがあれば再度お電話を、という手順にして応対時間を短くできるようにしました。あらかじめその動画をQ&Aページなどに掲載しておけば、そもそも問い合わせ電話も減るということで、一段と動画化が進みましたね。さらにカタログ・パンフレットも動画に変わり、採用活動における会社紹介や事業説明も動画化していきました。
展示会・イベントについては、特に2つの領域で大きな変化がありました。1つは学校です。大学や専門学校がこれまで実施していた、学生に関心をもってもらうためのオープンキャンパスが開催できなくなったので、キャンパスツアーやカリキュラム紹介がすべて動画になりました。
それからBtoBの営業活動の領域。BtoBでは、実は新規リードの大半が飛び込み営業か、展示会・イベントのどちらかで獲得しているんですね。対面営業もできず、展示会も開催できず、ということで非常に大きな影響があり、全員がデジタルマーケティングに取り組む必要が出てきた。
われわれとしては、そうやってお客様の声を拾っていくことで解決の手助けができることが多くあることに気付きました。旅行関連のお客様は減ってしまったものの、代わりに新しい業界からのニーズが増えて、業績としてはいい形で推移してきたと思います。
——サイト改善の事業よりは動画の事業に対して大きな追い風になったということになりますか。
実はサイト改善にも追い風になっています。金融機関、通信キャリア、ガス・水道・電気などのインフラ系の会社は、これまで店頭が主要な手続き窓口になっていましたが、できるだけオンラインで対応できるようにする必要が出てきました。既存のスマートフォン向けウェブサイトはどうしても使いにくいので、それを改善したいというお客様が増えましたね。
キーワードとしては非対面・非接触です。人との接触を減らしてビジネスを伸ばそうとすると、ECで販売するか、あるいは対面になっていた部分を非対面化するか、大きく2つに分かれます。われわれとしては、ECについてはサイト改善の事業でお手伝いできますし、非対面化は動画の事業でお手伝いできます。
——動画のトレンドはこの1年、2年で変わってきましたか。
大きく変わってきていますね。この2年間で当たり前になったのは、TikTokのような短尺の動画が増えてきたことです。さきほどお話した通り、営業資料の動画化や媒体資料の動画化などもわれわれは手がけていますが、それらも再生時間はMAXで1分です。データを見ても、それ以上は視聴してもらえないことがわかっています。
また、社員研修用の動画も作っています。たとえば、コールセンターのスタッフ研修に使う動画や、営業スタッフ向けにその企業の新商品の販売方法をガイダンスする動画などがありますが、そういうものもMAXで90秒です。(担当者は)どうしても伝えたいことがたくさんあるので、3~5分の長い動画にしたいという要望を受けますが、それでは最後まで見てもらえません。なので、どうしても長くなる場合はチャプターに分けて、いずれにしても最長90秒ずつの動画にします。
このほか、若年層のトレンドとして、早送りで見る人がすごく増えています。YouTubeを2倍速で見るのが当たり前。Netflixは1.5倍までしか早送りできないので、それだと遅いという人もいるようです。大量消費の時代と言えばいいのでしょうか。動画に速度調節機能があるかどうかも大事な要素になってきていますね。
——そのほかで動画市場における変化を感じていることはありますか。
最近、YouTubeでは「ルームツアー」が注目されています。新築・中古の物件を不動産会社がスマートフォンで撮影してYouTubeで公開している。それがものすごく見られていて、実際に家を借りる人も増えているんですよね。たしかに内見に行くのは面倒だからその気持ちはわかるんです。僕もそれこそ倍速で見ていて、楽しい(笑)。
今までは「こうじゃないとできないよね」と思われていたことも、「意外とできるよね」なんですよね。動画を倍速で見るとか、Netflixは遅いみたいな、これらははっきり言ってジェネレーションギャップみたいなものですけど、全然違う価値観の人たちが現れてきている。そういうことを考えると、ルームツアー動画を見て家を買う人もこれからすごく増えていくと思うんですよね。ホテルも部屋の中を動画で撮ってくれるとわかりやすいでしょうし。
ちなみに今、ある企業の採用コンテンツ用に、社員インタビューの動画をみなさんのスマートフォンで撮って送ってもらって、それをこちらで編集しているのですが、もうそれで十分だなと。今までの感覚だと、それは不親切だし、こちらとしても気が引けるみたいなところがありましたが、そんな動画が20万再生されていたりする。そういうのを見ると、「これでいい、十分だよね」と思うんですよね。
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