新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、多くの企業・ビジネスパーソンが働き方についての見直しをしている。ウェブ会議やテレワークを積極的に導入することで、在宅勤務やリモートワークを前提とした働き方に移行を姿勢を見せる企業だけでなく、新しい働き方を見据えたオフィス設計に着手する動きが見られる。
Zoomなどのビデオ電話サービスを使ったウェブ会議が日本にも浸透し始め、インターネットに接続さえしていれば、場所や参加人数を選ぶことなく相手の顔を見ながら会議を進めることができ、PC上の資料を共有することも可能になった。この仕組みやツールに慣れてしまえば、もう出社という概念すらそのうち無くなるのではないかと思わされる。
しかし、現状はそんな簡単な話ではなく、現在使われているウェブ会議システムは、アナログで行われる対面会議の完全な置き換えにはなっていない。例えば、Lightblue Technologyが2020年4月に行ったリモートワークに関する調査では「ウェブ会議の方が対面会議よりも気をつかう」と回答した割合は53%、「ウェブ会議のほうが疲れる」と回答した割合は55%だった。ウェブ会議ではノンバーバルコミュニケーションが取りずらく、発言のしにくさや相手の反応がわかりにくいというのが問題である。特に、日本人は「空気を読む」という言葉があるように、非言語コミュニケーションへの比重が大きいため、ウェブ会議に慣れない人も多いのだろう。
そのような点から、ウェブ会議は対面会議の置き換えという考えはなく、対面会議のアップデート、あるいは全く新しい会議の方法のひとつでしかないということで、場面に応じて使い分けるべきであると感じる。
そこで注目を集めているのが、VR会議である。VR会議では、アバターを通して、相手がまるで目の前にいるかのように話すことができるため、ウェブ会議よりもより対面式に近い形での会議が実施できると期待されている。
数々のVR会議の中でも最近話題に上がっているのが、Facebookが推進しているソーシャルVRの「Horizon Workrooms」(ベータ版)。通信環境が整っているなら、どこからも参加できる。VR HMD(ヘッドマウントディスプレー)を持っていない人も、デスクトップがあればウェブ会議と同じように参加すること自体は可能である。
イケてる企業のオフィスのような空間内で話し合い、ホワイトボードに図を描いたり、画像や資料を共有することもできる。個人のネット環境にもよるが、喋ったり動いたときの遅延はあまり感じない。またこれまでのウェブ会議と大きく違うと感じるのが、声に方向と距離が反映されており、聴こえてくる方向や話す方向がリアルにほぼ一致しているということだ。誰かが話し始めると、みんな自然とそちらに顔を向けるのはフィジカルの対面会議をしている感覚と変わらない。また、ウェブ会議では、一人が話してしまうと、それ以外の人は全員聞き手に回らないといけない形になってしまっていたが、VR会議では、近くの人同士で会話が始まったり、グループごとで会話が生まれやすい。ウェブ会議では雑談をどうデザインするか、という点がひとつ課題と感じていたが、VR会議ではこの辺りが解決されているように思う。臨場感があり、まるで隣にいるかのような感覚だ。また、リアルに日本語を喋っているようにアバターの口元が同期して動くため、同じ部屋に集まった人とコミュニケーションしているという感覚が濃厚だ。つまり、「会議は対面でなくてはだめ」という人が求めるものが揃っていた。
Horizon Workroomsは「会議」というものの本質が再現されているように感じられた。もちろん、Horizon Workroomsではアバター化された自分として会議に参加することになるため、そのときのリアルの視覚情報は抜け落ちてしまうが、逆いえばその部分がVR会議の特有の価値になっていくような気がする。
Horizon Workroomsは、空間オーディオの採用をうたっているが、ノイズキャンセリングがかかっており、音声は非常にクリアである。
もうひとつ感動したのは、「ホワイトボード」の機能である。VR会議室の目の前には、巨大なホワイトボードがあり、ボタンを押してホワイトボードの目の前に移動して書いたり、移動しなくても、手元の机の上にホワイトボードと同期されたボードが設置されており、ペンタブレットのように書くこともできる。ここでひとつ、コントローラーを逆手に持ち、グリップをペンに見立てて書くというデザインに、「おっ!」となった。VRアプリ全般に言えることだが、なにかVR空間に描く際、これまで通常のコントローラーの持ち方では、ペンを持っている感覚が薄かった。普段、人間が日常で文字や絵を描く感覚とはどうしても別物だったが、このコントローラーを逆手し、ペンを握るようなUXデザインには素直にニヤけてしまった。
Horizon Workroomsについて、現在アカウントを登録してミーティングルームである「Workroom」を立てて他のメンバーを招待する仕組みになっている。この招待システムが少し煩雑に感じられた。Zoomを招待するように。WorkroomのURLが発行され、それを参加者に送るのだが、参加したい人がそのURLからアクセスしても、ビデオ通話でしかアクセスできず、肝心のQuest 2でアクセスすることは、初見では難しく感じられるところ。特に、あまりツールの扱いに慣れていない人にとっては、大きな壁になるだろう。 また、VRアプリ全般に言えることだが、長時間使い続けると目が疲れたり、HMDの重さが気になることは変わらない。全員が使えるようになるのに、時間がかかると思う。
まだまだなんでもかんでもVR会議が採用されるということにはならないが、相互理解を深めるためのワークショップや報告会など、社内や社外の懇親会などには特に最適だと感じた。そういったところから、VRがより社会や人々に浸透していくのが楽しみである。
齊藤大将
Steins Inc. CEO兼CTO
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。在学中に現地コーディネート事業で起業。大学院では文学の数値解析の研究と小型人工衛星研究開発に従事。エストニアでのハッカソンでの受賞歴や、登壇多数。 VR美術館をはじめするアートに関するVR・AIの事業に力を入れている。元テニスコーチ。
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