虎ノ門で「大企業を進化させる」仕組みづくりに挑む--森ビル・飛松健太郎氏に聞く「ARCH」誕生秘話【前編】 - (page 2)

角 勝(フィラメントCEO) 石田仁志2021年10月06日 09時00分

それぞれの持ち出しで与信力を高めあう

角氏:リスクを取ってもらったケースとは?

飛松氏:さまざまありますが、たとえばFacebookを誘致した時も、当時は「それって何ができるの?」とか言われましたからね。「メルカリと質屋は何が違うの?」とか、会社に話すときには毎回そんな感じでした(笑)。出だしの3〜4年くらいは最悪でしたが、会社にはリスクを取ってもらえて、グリーを筆頭に当時の企業がJカーブで成長していって、ヒルズのフロアを多く借りていただけるようになっていって。そうなると社内での説得力が出てきて、うまく回っていきました。他方ではVCさん達もどんどん業界の中心になっていき、メディアにも記事にしてもらって、活動も日経新聞やワールドビジネスサテライト、ネットメディアなどを通じて外部に展開していけて、結果として大きな流れに乗ったと感じました。

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角氏:当時の六本木ヒルズ自体が、今までの不動産ビジネスの在り方をガラッと変えるような、新しい街づくりの仕方をしていたということですね。

飛松氏:周囲から支持してもらえましたし、そのビジョンに共感した皆さまに街をうまく利用していただき、スタートアップシーンにもブーストを掛けていただけたのはありがたかったですね。

角氏:お互いに与信力を高めあう感じですか?

飛松氏:まさにそういう感じです。あとは、僕たちデベロッパーとメディア、官僚、VCと当時のいろんな立場の人間が六本木や西麻布の飲み屋に集まって、「ああしようこうしよう」と、寄合で何とかしようとみんなで協力して挑戦していったんですね。

 たとえば、当時スタートアップのイベントを開こうとしても、みんな払うお金がないんです。そういった時に、「僕らは場所を持っているから提供します」とか、「経産省の石井(芳明)さんの頼みなら登壇しますよ」とか。持っているものをうまく都合つけながら形を作っていったわけです。

 メディアの方にも表面的な情報ではなく、中の生々しい部分も良い形でしっかり伝えてもらえたことも大きかったですね。90年代後半から2000年代初頭の、ヒルズ族という言葉に代表される、ちょっと表面的な富裕層になったところを変に取り上げられてしまった時期があったと思うのですが……。

角氏:ありましたね。芸能人みたいになっちゃってと。

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飛松氏:スタートアップの起業家の方たちは今も昔も変わらず真剣に事業に取り組んでいらっしゃるわけで、周りがしっかりそれを理解してちゃんと押し出すようになりました。その部分に対するメディアの認識はその頃から変わってきたと思います。

六本木ヒルズから20年、虎ノ門にARCHを作った理由とは

角氏:みんながちょっとずつ持ち寄って、一両損みたいな、それによって三方良しができていくような感じですね。その場にいらっしゃって、エコシステムができていく状況を中で見ていた、成功体験を得たというのは、その後のビジネスの作り方には影響していますか?

飛松氏:それはARCHができる大きな理由になりました。僕は2009年からずっとこの世界にいて、スタートアップ業界にデベロッパーという立場で関与し、業界自体は暖まってきたと実感しています。徐々にイノベーションの領域がスマートフォン完結型になり参入障壁が飛躍的に下がることで、事業はより広範囲に深くなり、スタートアップだけで起業するというよりは、大企業と組んだり色んな領域の方と組んだり、規制緩和をしてもらわなければならないという形に状況が変化してきました。

 そうなると、スタートアップだけが暖まっていてもだめで、上場だけでなく、大企業に買収されたり、アライアンスだったりという出口戦略が必要になってくるわけです。そして大企業といえば、日本では圧倒的に大企業にリソースが集まっているなかで、ずっとクローズドイノベーションが美談とされる状況のまま2010年代後半、「これでいいんだっけ?」と。社内でも話題になっていました。

角氏:今まで見ていなかった部分を見たら、新たな疑問を感じたのですね。

飛松氏:はい。私たちは六本木ヒルズ開業から20年後の2023年を目指して、総事業費5800億円で六本木ヒルズの倍くらいのヒルズの未来形ともいうべき「虎ノ門・麻布台プロジェクト」を進めています。そこで2023年をターゲットにしたとき、虎ノ門でも20年前と同様にスタートアップを盛り上げる活動をしているだけでいいのか?という疑問が出てきたわけです。

 森ビルはそれまで、どちらかというとスタートアップと外資系企業の誘致を得意としていましたが、虎ノ門では大企業をアクティベートする活動をして街づくりをしていったらどうだろうかと。僕らは外資系やスタートアップとのコネクションはあるので、大企業とつなぐ役を丸の内や新宿、品川でやっている皆さまにお任せするのではなく、「われわれがやろう」となったのです。

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角氏:なるほど。

飛松氏:そこで、2015年にわれわれと同じ危機感を持っていたWiLの伊佐山元さんたちと、大企業の新規事業部署特化型の施設を作るという構想を固めました。伊佐山さんとの共通のビジョンとしてあったのが、「日本流のイノベーション創出の枠組みを作ろう」ということでした。「米国はスタートアップにお金が流れていくが、日本は大企業にお金があり、研究部門もあるので、お金も人材もそちらに流れる。日本には日本流がある、その中で大企業を革新していくことが重要だよね」と。

 そこで、あえてスタートアップは対象にせず、大企業の新規事業部署を変化・進化させる施設を作って日本型イノベーション創出モデルを作ろうと。そのような趣旨で2020年にARCHが誕生したのです。

角氏:社会的意義を踏まえたうえでのARCHなんですね。

飛松氏:そういうことですね。森ビルは一民間デベロッパーではあるのですが、街づくりを通して東京の都市力を向上させ、世界一の都市にするんだと常々発信しています。“日本の課題”“東京がやるべきこと”を街の機能に落としこんでいく過程で、大企業の新規事業部署を変化・進化させることが課題として浮きあがってきたので、この虎ノ門でトライすることが決まったというのがARCH誕生の経緯です。

 後編では、ARCHがオープンしてからの展開や、入居している大企業の新規事業担当者が抱えている悩みなどについてお届けします。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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