【事業開発の達人たち】虎ノ門で「大企業を進化させる」仕組みづくりに挑む--森ビル・飛松健太郎氏に聞く「ARCH」誕生秘話【前編】

角 勝(フィラメントCEO) 石田仁志2021年10月06日 09時00分
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 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。

 今回は、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」の企画運営室 室長として活躍される飛松健太郎さんにお話を伺いました。前編では、ARCHを立ち上げるまでのエピソードを中心にお届けします。

森ビル 企画運営室 室長の飛松健太郎さん(左)
森ビル 企画運営室 室長の飛松健太郎さん(左)

 ARCHは、コロナ禍の2020年4月に開設した、大企業の新規事業創出を支援することに特化したビジネスインキュベーションセンターです。虎ノ門エリアの新しい街づくりを目指す森ビルと、シリコンバレーを本拠地とするベンチャーキャピタル(VC)のWiLがタッグを組み、国の中枢に近い虎ノ門という地の利を生かし、場所とネットワーク、ノウハウを提供することで日本独自のイノベーション創出モデルの構築を目指しています。そのARCHで飛松さんは、“新規事業の創出を支援するという新規事業”に挑戦されています。

初めて目の当たりにした六本木ヒルズに衝撃

角氏:先日テレビ東京さんがARCHを舞台に制作、放映された番組の企画「生きづらいです2021〜LIVE PITCH」に参加させていただき、こちらを訪れたのですが、ここには面白い人がたくさんいると感じました。ARCHのコンセプトにも共感しましたし、新規事業を担当している人の「生きづらい」という感覚は、私自身感じてきたことでもあります。

 そこで、外部に応援する人がいるとやりやすくなるだろうということで、皆さまの取り組みを伺い、紹介していければとお声がけさせていただきました。入居している大企業の皆様の話も追々伺っていきたいのですが、まずはARCHという新規事業を立ち上げた飛松さんにお話を伺いたいと思います。最初にプロフィールと、なぜARCH事業を開始するに至ったのかを聞かせてください。

飛松氏:僕が森ビルに入社したのは2008年で、以前は積水ハウスにいました。資産家の方を相手に、不動産の有効活用を軸としたコンサルティング営業をしていまして、30歳の時に転職して森ビルに来ました。2003年に森ビルが六本木ヒルズを開業したのですが、実は当時、積水ハウスの人間として視察に来ていたんです。

角氏:なるほど。

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フィラメントCEOの角勝氏

飛松氏:積水ハウスは新宿に東京本社があって、自分の活動範囲は新宿と渋谷くらいだったんです。それで初めて六本木に来てヒルズを見て、当時の街の風景からヒルズ族といわれるような社会現象までを目の当たりにして、とにかく驚きました。IT企業躍進の象徴的存在だったヤフーや楽天、ライブドアが同じビルにいるほかに、外資金融、成長著しいスタートアップがそろって入居して、物凄い勢いで大きくなっていく様子を外から見ていて、「こんな街があってこんな会社があるんだ」と思いました。

 30歳まで営業という立場で積水ハウスにいたのですが、学生時代からBtoCの営業をしていたので、そこについてはある程度やり尽した感があったんです。それで次に何をするかと考えた時に、当時の六本木ヒルズの印象が凄くあって、「時代の寵児といわれるような方々を、誘致して街を使いながら世の中に発信して成長させていく、そういう仕事が面白い」と思って森ビルに入りました。

VCの支援を受けて有望なスタートアップを発掘

角氏:森ビルではこれまでどんなことを?

飛松氏:最初はオフィス事業部で、六本木ヒルズを始めとする当社のオフィスに企業を誘致する仕事をしていました。当時いわゆるライブドアショックでスタートアップが一旦沈んだ後、そこから携帯アプリの課金ビジネスが始まり、ぐっと上がってくるタイミングでグリーを六本木ヒルズに誘致することができました。その後も、Facebook、グノシー、メルカリ、UUUMといった新興企業を誘致しています。

角氏:凄い会社ばかりじゃないですか!そういうことは目利きの力がないとできませんよね?

飛松氏:そうなんです、と言いたいところですが、実はいろいろな方に紹介していただきました。僕が全部ゼロベースで探せていたら、多分VCを起こしてファンドマネージャーをやっていると思います(笑)

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角氏:確かに(笑)

飛松氏:そうではなくて、当時スタートアップ業界が盛り上がる中で、金融機関とか法人の中ではなく、個人でファンドを作って個人の判断で投資をする独立系VCが、急成長していたんですね。有名なところでいうと日本ベンチャーキャピタル協会会長でインキュベイトファンドの赤浦徹さん、ほかにもB Dash Ventures渡辺洋行さんやANRIの佐俣アンリさんなどのVCの皆さんとお付き合いさせていただいて、上場前のこれからIPOをする予備軍のスタートアップを教えていただき、会いにいって、「ヒルズに来てください」と口説いて回りました。率直にいうと、ほとんど皆さん赤字の状態でしたが。

角氏:IPO直前のスタートアップはだいたいそうですよね。

飛松氏:普通の審査基準でいくと、売上と利益に対して賃料はどれくらいと、いわゆる賃料負担能力はどれくらいあるかと数字で見るので、ビルオーナーとしてはチャレンジでした。

リスクを許容してくれた森ビルの社内文化

角氏:リスクが高いと言われなかったのですか?倒産すると大変なことになりますよね。

飛松氏:ええ。1度資産凍結という形になって、その区画は次のテナントに貸せなくなります。ただ、当時健在だった森稔元会長を筆頭に、経営層は六本木ヒルズでの経験を通じて、入居していただいた企業が街とともに成長していくことで街のバリューが上がるということを体感していましたし、森ビルという会社自体が街の機能すべてで企業成長を促していくという理念を掲げているので、そこは応援してもらえました。VCの皆さまにも、プレIPOや上場を見据えている旬なベンチャーを、六本木ヒルズという装置をうまく使って世の中に発信して、上昇気流に乗せていくということを共感していただき、コミットしていただいたので、そこは凄く助かりましたね。「そういうことだったらこの会社はいいよ、この経営者はいいよ」と教えていただけたのが大きかったです。

角氏:凄く面白い話ですね。でも、当時のVCのステータスは、今でこそ「VC凄い」となっていますが、その当時は「よくわからないな」という雰囲気だったのでは?

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飛松氏:凄く的確なご指摘で(笑)。これは確かに辛かったです。何がまず辛かったというと、僕が取り組み始めた2009〜2010年は、「ベンチャーキャピタル」「日本」「ランキング」などと検索しても、何も出てこなかったんです。今でこそForbesの「ミダスリスト」などがありますが、誰もそんな情報をまとめていなかったし、リストもなかった。なので、私も独立系VCが何社あるのかわからないわけです。

角氏:当時は「ジャフコがあるのに何でインキュベートファンドを作るの?」という認識でしたからね。

飛松氏:結局人づてに聞いていくしかないんです。いまは「赤浦さんが」「B DASHの渡辺さんが」「グロービスの仮屋薗さんが」と言えば、社内でも納得感を得られますが、失礼を承知で言いますと当時は……。

角氏:誰?という状態になりますよね。まだ実績が出ていない状態ですから。

飛松氏:そこで、当時の役員を巻き込んで一緒に草の根活動を展開していったんです。VCの人と食事をして、どんな人かをまず役員に理解してもらうところから始めて、関係性を築いてからは六本木や西麻布の飲み屋で、「いずれもう一度、スタートアップが盛り上がっていたようなあの頃のような時代にするんだ」と熱く語り合っていました。思いが共有できたので、当時の役員にも一緒になってリスクを取ってもらえました。

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