【事業開発の達人たち】大企業の新規事業担当者がこぞって参加する「ARCH」の仕掛けとは--森ビル・飛松健太郎氏【後編】

角 勝(フィラメントCEO) 石田仁志2021年10月07日 09時00分
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 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。

 前編に続き、森ビルが東京・虎ノ門で展開するインキュベーション施設「ARCH(アーチ)」の企画運営室 室長として活躍される飛松健太郎さんとの対談後編をお届けします。今回は、ARCHを立ち上げてからのお話を伺います。

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森ビル 企画運営室 室長の飛松健太郎さん

大企業の新規事業担当者が抱える共通の悩み

角氏:2020年4月にARCHをオープンされましたが、そこから今までにご苦労はありませんでしたか?

飛松氏:苦労というより想定外なことはいろいろありましたが、最も大きかったのはコロナ禍でのスタートだったことです。リアルの場で何かをしようということで商品企画やサービス設計をしてきたのに、いざ開業したときに「家から出るな」という状況になったわけですから。実際にオープン時からの入居企業でも、ここを訪れたのは2回目という人もいらっしゃいますし。

角氏:会員企業に対してはどんなサービスを提供されているのですか?また、皆さまの反応は?

飛松氏:いろいろと価値提供をしているのですが、新規事業担当者部署ができてあまり間もない企業や、担当になって間もない方の入居が多く、僕らが思っている以上に大企業の新規事業の担当者同士でつながりたいというニーズが強いですね。というのも、日本の大企業の新規事業部署、特にこの2〜3年の間にできた部署は、ほぼ既存事業の危機感から経営層が作った新規事業の組織であって、本人の希望ではなく、先に箱ができて辞令で異動させられるので、ここに来られた皆さまはどうしたらいいか戸惑われているんです。

角氏:ああ、なるほど。

飛松氏:経営層には、既存事業を乗り越えるくらいのビジネスを作って欲しいという物凄い期待値があります。大企業の既存事業は場合によっては“兆円”クラスです。しかし実際の新規事業の規模感はご存知の通りですので経営層が何百億、何兆円という数字を見ている中で、「1億円の売上です」と成果を報告しても、「何それ?」と言われかねない。担当者はスタートアップ以上の重い期待を背負わされて動かなければならなくなっているんです。

必要なのはトップの危機感と挑戦のカルチャー

角氏:それはしんどいですね。トップが危機感を持つだけでなく、会社全体に新しいことに挑戦していくカルチャーの醸成やマインドセットを広げていく動きを同時にしないと、どうしても小手先の取り組みになってしまうんですよね。そういう意味でフィラメントでも、みんなが共感をもって新規事業部に挑戦していくように、部門間の垣根を取り払ったり、文化を醸成したりするための動脈作りをおこなう支援をしています。

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飛松氏:会員である新規事業部門の皆さまがそういう状況に置かれているので、結果的にこの数カ月は会員同士の繋ぎこみやノウハウ提供を目的としたワークショップの企画が主軸になっています。そういう意味で角さんが取り組まれているようなカリキュラムはしっかり作りこまれていて満足度が高そうだなと、興味があります。

角氏:ありがとうございます!是非ご活用ください(笑)。ちなみに今は何社くらい入居されているのですか?

飛松氏:開業時43社で始まりましたが、今は約80社です。コロナ禍で施設に来られない中でも月に3〜5社くらい増えています。

実は知らなかった“大企業の集め方”

角氏:大企業の新規事業部門がそんなに集まっているんですね。目算、勝算はあったのですか?

飛松氏:今だから言えることですが、ものすごく怖かったです。企画をしているときは「できるのか?」と言われたら「任せてください」と言いますが、スタートアップ100社集めてこいという話ならともかく、ターゲットは大企業。私自身あまり大企業に営業に行ったこともなかったし、内心ではどうしようかと(笑)

角氏:ですよね。意思決定プロセスも大企業はスタートアップのように明快ではないですしね。

飛松氏:そもそも魚群がどれだけいるのかが不安でした。いわゆる大企業、東証一部上場企業とそれに準ずる会社も含めて、ターゲットになる会社が日本に約3000社あるのですが、そのなかで100社入会と想定すると怖くなるんですよ。3000社を総当たりすることも覚悟しました。そこで救いとなったのがWiLの存在です。

角氏:伊佐山(元)さんですね。

飛松氏:はい。WiLが運営するファンドに投資をしているLP(リミテッド・パートナーシップ)の核の企業が手を挙げてくださって。実はARCHを開設する前に近場でARCHの小型版を作って2年半ほど実証実験をやっている時期があったのですが、その時に入居していた企業の中に「できたら行くよ」という企業がすでにいてコアメンバーになってくれたんです。また、森ビルはファーストペンギン的なプロジェクトを尊ぶ気風があり、社内の様々な部署の社員や役員が新規事業創出に熱心な企業の担当を紹介してくれるなど周囲からの後押しも多くあったことが救いになりました。

角氏:そうですよね、六本木ヒルズ自体が壮大な新規事業みたいな感じですし。

飛松氏:オンリーワンへのリスペクト感が強いんですよね。僕はどうしても現場を見てしまうので迷いがちですが、そんな時は「フルスイングして振り切れ」とみんなが助けてくれました。

角氏:周囲や他のメンバーとどのような連携プレーを?

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飛松氏:場ができる前にコミュニティを作ろうということで、ARCHを一緒に立ち上げたメンバーが中心となって「HIP」という森ビルのオウンドメディアを2016年に立ち上げ、そこで大企業で新規事業を立ち上げている人たちを紹介してきました。カンファレンスは開業までに20回以上開催しましたし、記事は今も更新を続けて200記事くらい蓄積しています。

 あとはスクールですね。新規事業創出のメソッドを教えるという趣旨で、ドラッカースクールの学長だった山脇秀樹氏や失敗学で有名なバブソン大学の山川恭弘先生などを講師陣にお招きし、アントレプレナーシップの教育を2016年からやってきました。

角氏:結構地道に取り組まれていたのですね。

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