「東方ダンマクカグラ」アンノウンXに聞く--同人サークルと大手企業はいかにして連合軍を組んだか - (page 2)

一番大きなすれ違いとなる「時間」と「お金」

――そもそもJYUNYAさんと田中さんは、どのようなきっかけでお会いしたのでしょうか。

田中氏: 「殺戮の天使」というフリーゲームがありまして、テレビアニメ化する際にDeNAが参画して、僕も関わったんです。その原作チームのプロデューサーが、実は大学の先輩だったんです。その方とお話しているなかで、「AQUASTYLEというサークルがあって、代表のJYUNYAさんが東方のゲームを作ろうとしているけど、困っているようなので会ってほしい」と。それでJYUNYAさんと焼き鳥屋で飲んだんです。まだこのときは、新型コロナの流行前で気兼ねなく飲みに行けたころでしたね。

JYUNYA氏:一昔前の流行っていたギャルゲーとかアニメの話しをして、もはやインターネット老人会のような感じで盛り上がったのですが、そのまま僕が用件も話さず帰ったという……。

田中氏: 3、4時間ぐらい延々とお話して。「いつ相談があるのかな……」と思っていたら、雑談だけで終わって。

JYUNYA氏: ダンカグは、もととなる企画が4年前ぐらいからあって、別の会社と取り組みつつ、開発ができる会社もあわせて探していたんです。でもうまく見つからなくて。コンシューマーであれば自分たちで開発が進められるのですけど、スマートフォンはある程度慣れたところにお任せしたいと考えていました。

 いろいろと思案しているなかで、東方Projectを盛り上げたいと取り組まれている方がいて。その方に相談したところ、「最近DeNAと仕事したので、紹介する」と。ただ、僕から見たらDeNAは大手すぎる会社なので、話しは聞いてくれないだろう……と勝手に思って、何も言わずに帰ったんです。

田中氏: 確か切羽詰まってて大変そうと伺っていたので、あのあとメールで「うちでできることがありましたらお話ください」と送ったんです。

JYUNYA氏: それで、「あ、聞いていただけるんだ」と思って。改めてゲーム制作について相談しました。

田中氏: AQUASTYLEが手掛けてきた作品とか、東方Projectそのものも面白いと感じていましたので。そして相談を受けて、ゲーム担当の執行役員にJYUNYAさんと会っていただくことにして。

JYUNYA氏: すごく早く話しも進めていただいて。3、4時間ぐらい焼き鳥食べてお酒飲んでオタク話しをしただけで、よくここまで進んだな……と。本当に恩人です。

田中氏: ゲームを作っているもの同士であれば、制作の大変さはわかります。あと面白いゲームを作っていて、AQUASTYLEであれば東方Projectの界隈で認められているパートナーであるということは、プレイステーションアワードでの受賞や、ゲーム雑誌などにも取り上げられていましたから、自信を持って社内に説明できると。作っているものが面白いという確信もあったので、それはどんなチームであれひとつのチャンスとして、DeNAのしかるべきメンバーに紹介しなければいけないという、謎の使命感は持ってました。

――企画自体は4年前とのことですが、時間がかかったのは、なにか制作でネックになっていたところがあったからでしょうか。

JYUNYA氏: スマートフォンという端末で、リズムゲームを作ることが難しかったです。プロトタイプ自体は比較的早くできたんです。それで、初めは自分たちで作りたいという気持ちがあって、2年ぐらい勉強しながら制作を進めていました。ただ端末によって動かないとか、たまにしか起動しないとかがあって。あとリズムゲームで大切な、気持ちよくタップするタイミングを調整するのが難しいかったです。

 これがコンシューマー向けであれば、基本的に1機種なので、それで調整すればなんとかいけるんです。でもスマートフォンはさまざまなスペックの端末があって、特にAndroidはバラバラですから。「iPhoneだけでリリースする」という意見も出たぐらいで。実際に作ってみたからからこそ、制作の弱点はここだとわかりましたし、これがクリアできる会社と組まないとダメだなと。東方Projectを理解してもらった上で、スマホゲームの経験が豊富でリズムゲームの制作経験がある会社になかなかマッチしなかったんです。

 かといって、DeNAのような大きい会社が、いきなり話しを聞いてくれるとも思ってなくて。ただ、今思うとプロトタイプがすでにあったので、DeNAでも話しが通しやすかったところはあったのかなと思います。

田中氏: 最初に見せていただいたプロトタイプの面白さ、そしてAQUASTYLEが作ってきたタイトルの面白さにブレはないと直感しました。東方Projectがテーマだからこそリズムゲームに弾幕の要素が盛り込まれているという、AQUASTYLEが生み出そうとしているゲームにブレがなく素晴らしいものがあると感じましたね。

一部の楽曲に用いられている「Danmakuステージ」。ボスアタックパートがシューティングゲーム風の画面に変化し、ボスの弾幕を回避しつつ「点」や「P」を獲得する内容。東方Projectらしさを取り入れたステージとなっている
一部の楽曲に用いられている「Danmakuステージ」。ボスアタックパートがシューティングゲーム風の画面に変化し、ボスの弾幕を回避しつつ「点」や「P」を獲得する内容。東方Projectらしさを取り入れたステージとなっている

――AQUASTYLEとDeNAでは、ゲーム制作といっても明らかに文化が違うと思えるのですが、そのことを感じたことはありますか。

田中氏: 大きな溝みたいなものはありました。一番大きなすれ違いになるであろうと思ったのは「時間」と「お金」ですね。これはもう全く違うもので、ここがAQUASTYLEからすると大変だったところだと思います。

JYUNYA氏: 現実的なところだけではなく、感覚的なところでも大きな違いがあって。最初田中さんに相談したとき「半年後にリリースしませんか?」とお話するぐらいで。今考えるととんでもないことを言ったと思いますが、当時はそれぐらい違うというか、知らないことが多すぎましたね。

田中氏: ただ、その差やすれ違いの度合いは高いに決まっていると。それはわかっていたので、開発メンバーにつなぎこむまでに、どれだけなめらかにしておくか。そのコミュニケーションに力を注ぎました。

JYUNYA氏: しばらくは田中さんからしっかり教育をしてもらって。それから上田さんとお会いする流れでした。

田中氏: DeNAにおけるゲームビジネスとしてのロジックや、守らなければいけないビジネスとしてのルールと、AQUASTYLEが大切にしているものを100%理解したうえで、それをすり合わせていくこと。その期間をすごく大事にしましたね。その途中から上田が入ってくれて、より開発の話しも深まっていきました。

上田氏: 私も初めてお話したときでも、まだ時間とお金の話しにギャップがありましたね。今はもうすり合ってると思います。

JYUNYA氏: 上田さんは素人にも遠慮なく、目を見て正論をハッキリ言ってくるのでめっちゃ怖くて。お会いして半年ぐらいほとんど喋ってなかったぐらいです。今はもう、つるつるになるまで研磨されたので(笑)。

上田氏: 田中はすごくソフトなコミュニケーションを取るタイプですけど、私はDeNAとしての建前をいう役割でもあったので、強く当たっていたようにも聞こえたところはあったと思います。コミュニケーションを取るなかで仲良くなってからは、言うべきところは言いつつも、ちゃんとリスペクトしあえる関係性になってます。

田中氏: お互いに違う文化があって、それぞれに見ている物差しがあるというなかで、いかに同じ方向を向くパートナーにしていくかを、僕と上田で役割を分けてたり、上田は上田で守るべきルールみたいなものを整えてAQUASTYLEに提示したりと、いい形で始められたかなと思います。

いいプロジェクトにするために、結婚式も活用するぐらい何でもした

――田中さんに伺いますが、以前からも東方Projectに着目していたようですけど、関連ゲームについて独自に手掛けることを考えたことはあったのでしょうか。

田中氏: 我々としても、東方Projectをテーマにしたゲームを作りたいという意向は昔からありましたし、実際に試みたこともあったんです。でもどう作るべきかとか、愛されるものになるかということを検討して、やはりパートナー無しにはできないのではないかと。自社単独で頑張るという選択肢もありますけど、本当にいいパートナーなり、いいメンバーが集まらない限りは、触れないで凍結するという議論があったぐらい、伝統と人気のある作品群であるという認識でした。

 そしてAQUASTYLE、JYUNYAさんというパートナーになりうる候補の方が現れて、これだけ長く東方Projectに携わってきたAQUASTYLEと上手くやれないなら、この先DeNAが東方Projectのゲームを作ることは無理であろうと。なので、双方のすり合わせに気を使ったところはありますし、AQUASTYLEとDeNAという、違う文化の会社でいいプロジェクトにするために、何でもやってました。

 そのなかのエピソードとして、ちょうどプロジェクトの立ち上げ期が僕の結婚式と重なっていたので、AQUASTYLEとDeNAをもっと近づけたいと思って、主賓テーブルにAQUASTYLEの方をお招きしたんです。そしてDeNAの執行役員やマネージャーも呼んで、うちの結婚式でAQUASTYLEと仲良くしていってね、と(笑)。

JYUNYA氏: 田中翔太という人間をネタに、ワインを飲みながら3時間ずっとお話をして、コミュニケーションを図ってました。あれはすごかったですね。

田中氏: 人生において1回しか使えないカードを切ったわけですけど、そのカードを切るにはいい機会でしたし、結果として3時間もお酒を飲んでればお互いの理解度もあがります。なんでもするというなかで実施した出来事としては印象深いですね。

――JYUNYAさんに伺いますが、東方Projectは二次創作の盛り上がりを含めて、ユーザーと一緒に作り上げてきた世界という印象があります。一方で、大きすぎる会社と表現されていたDeNAと組むことに対して、不安を感じたことはありますか。

JYUNYA氏: 東方ProjectのIPは特殊なところがあって、それはファンやユーザーもわかっています。さらに、大企業が作る力強い作品というのも期待はしているんです。でも、どこか怖さも感じているんですよ。違う勝手な解釈で作られたりとか、乗っ取りを図るのではないかとか。望んでもいないものを、さも良さそうな感じで提供されるのではとも思ったり。自分もユーザー歴が長かったので、そのあたりの恐れも感じていたところもありました。

 さらに、一緒に組む先でIPやゲーム作りの思想や解釈が気にくわないので解消しましょうともいかないので、最終的には運命共同体となれるかどうか。これから大変な思いをしたとしても、この人たちだったらしょうがないと思えるかどうかはすごく気にしていましたけど、結果からいうととてもいいチームが組めました。

 そして、ユーザー感情にもいろんな配慮をしていただいて、反応もすごくよかったんです。最初は「正体不明のスポンサーX」という名前で、東方関連のイベント協賛や配信番組を行っていて。後に名義はアンノウンXに変わったんですけど、そういう存在でいるということにも理解してくれたんですよね。本来であれば、DeNAという名前を大きく出すべきで、その脇に小さく企画原案のAQUASTYLEがあるべきなのです。にもかかわらず、アンノウンXとしてユーザーとのコミュニケーションをしっかりと図ってくれたおかげで反応もよく、成果も出していて。理解のある会社、理解のあるチームで感銘を受けました。

「東方Project 25年記念サイト」の「アンノウンXとは?」より。なぜこのようなプロモーション施策をしたのかは、後に触れている
東方Project 25年記念サイト」の「アンノウンXとは?」より。なぜこのようなプロモーション施策をしたのかは、後に触れている

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