楽天グループは8月11日、2021年12月期第2四半期の決算を発表。売上高は前年同期比16.9%増の7936億円、営業損失は1009億円と、引き続きの赤字決算となった。赤字要因も引き続き先行投資によるところが大きく、とりわけ大きいのはやはり楽天モバイルに対する先行投資だ。
その楽天モバイルを含むモバイルセグメントの四半期業績は、売上高が前年同期比17%増の515億円、営業損失は997億円と、前年同期比で459億円もの損失拡大となっている。楽天モバイルの代表取締役社長である山田善久氏によると、4月まで実施していた1年間無料キャンペーンが終了したことで徐々に売上を計上しつつあるという。一方で、MVNOとして展開していた楽天モバイルのサービス利用者に対し、自社回線に移行すると3カ月無料になるキャンペーンを実施していることから、その流入が増えた影響でMVNOサービスの売上が減少しているという。
また利益に関しては、基地局整備を前倒しで進めていることに加え、ユーザーが増えたことでKDDIへのローミング費用が増えたことなどが損失拡大の主な要因になっているとのこと。なお、楽天モバイルの累計申込数は、6月末時点で442万に達しているそうで、1年無料キャンペーン終了による反動はあったというが、その後も順調に申込数を伸ばしているとのことだ。
ただ、楽天グループの代表取締役会長兼社長である三木谷浩史氏は、「新規加入者数はいつでも加速可能だが、ビジネスモデルとコストをしっかりしないといけない」と話し、現在は新規契約をコントロールしている段階だと話す。その理由はやはり、契約が増えるに従ってローミング費用が大幅にかさんでいることにあり、人口カバー率96%を達成し、ローミングで賄っているエリアを大幅に減らすまでは現在の状況が続く見込みだとしている。
そうしたことから三木谷氏は、人口カバー率96%の達成を機として加入者獲得を加速する考えを示しており、2022年3月頃からはローミング費用が大幅に削減されるとの見通しを示している。だが、楽天モバイルはそのエリア整備に関して、当初計画を前倒しして2021年夏頃までに4Gの人口カバー率96%を達成するとしていたのが、半導体不足の影響でその計画を2021年内へと後ろ倒ししたことを7月に明らかにしている。
この点について三木谷氏は「予想外で申し訳ない」と釈明。「私も直談判で交渉し、(調達が)早くなっているがそれでも3カ月は遅くなる」と話し、人口カバー率96%の達成は冬頃になるとの見通しを示している。ちなみに6月末時点での4G人口カバー率は90%超とのことだ。
一方で、楽天モバイルに関してはプラスの材料もいくつか出てきているという。1つ目は番号ポータビリティ(MNP)で楽天モバイルに乗り換える顧客が増加傾向にあることで、そうした顧客はARPUが高く解約率も低い傾向にあるという。山田氏によるとMNPの転出元は携帯大手3社が圧倒的に多いとのことで、その比率は「極端に市場シェアと異なるということはない。皆さんから満遍なく入ってきてもらっている」とのことだ。
2つ目は楽天エコシステムへの貢献だ。楽天モバイル契約者楽天の新規ユーザーである比率が約19%に達しており、楽天モバイル契約者が他の楽天グループのサービスを利用するクロスユース率も、平均で2.4個に達するとのこと。その数は契約期間が長くなるごとに伸びる傾向にあるようで、「凄いシナジー効果がある」と三木谷氏は高く評価しているようだ。
そして3つ目は、仮想化・オープン化の技術を取り入れた楽天モバイルのシステム基盤となっているRCP(Rakuten Communications Platform)の海外での販売拡大だ。8月4日には基地局など無線アクセスネットワークの仮想化技術を持つ米アルティオスターを完全子会社化し、通信プラットフォーム事業を集約した「Rakuten Symphony」を立ち上げた。さらにドイツの新興携帯電話事業者である1&1に、RCPによるモバイルネットワークを包括提供することを明らかにしている。
1&1との契約は保守なども含め10年におよぶとのことだが、楽天グループ側はあくまでソフトウェアとノウハウを提供し、実際のネットワーク整備などは現地のパートナー企業が手がけるとのこと。三木谷氏は仮想化モバイルネットワークに関連する事業が「15兆円くらいのマーケットになる」と話すなどRCPの海外展開に強い期待を示しており、その展開状況によっては、当初予定していたモバイル事業の2023年度の単月黒字目標を「1年早めるのは難しいが、少し前倒しすることは可能になってくると思う」とも話している。
一方で、先行投資の楽天モバイルなどによる損益を除いた四半期での営業利益は、前年同期比35.6%増の4690億円と順調に伸びており、引き続きコア事業が堅調に推移しているという。
そのコア事業の1つとなる国内Eコマース事業に関しては、2020年のコロナ禍による巣ごもり需要が一巡した後も、流通総額が前年同期比12.2%増の1.2兆円となるなど2桁成長を記録し、好調を維持。2020年に「楽天市場」を利用したユーザーが2021年にも継続して利用する率が76%に上るなど定着が進んでいるのに加え、一時は落ち込んでいた「楽天トラベル」の事業も回復基調にあるとのことだ。
また先行投資を進めている物流事業に関しても、日本郵便と合弁で設立した「JP楽天ロジスティクス」を7月1日に立ち上げており、楽天の物流拠点を合弁会社に移管し日本郵政の配送網を活用することで効率化が進められると期待を示している。三木谷氏は物流網の構築について「10年くらいかかると思っていたのが、2025年くらいにはいけるのでは」と、日本郵便との提携に大きな意味があったと話す。
もう1つの主力事業であるFinTech事業も増収増益を維持、「楽天カード」をハブとして金融や決済サービスの利用を拡大するクロスユースを進めていく考えを示した。6月からは楽天カードの2枚目発行が可能になったことから、異なる国際ブランドのカードを発行できるメリットを生かして今後他社カードからのシェア獲得に取り組むとしている。
一方で電子マネーの「楽天Edy」に関しては、競合の「nanaco」「WAON」が前日の8月10日にApple Payへの対応を打ち出したことから、FeliCaベースの主要電子マネーサービスとして唯一、「Apple Pay」への対応目途が立っていないこととなってしまった。この点について楽天側は明確な回答を避けているが、大きな課題の1つとなっていた楽天モバイルでのiPhone販売にこぎつけ「ブランディングで大きな信頼を得た」(山田氏)タイミングでもあるだけに、今後に向けた課題の1つとなりそうだ。
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