英Virgin Groupを創業したことで知られるRichard Branson氏は、グループの宇宙旅行事業を手掛けるVirgin Galacticが所有する有人宇宙船「VSS Unity」に搭乗。VSS Unityは米国時間7月11日、高度86kmに到達した(今回は試験飛行という位置付けであり、本格的なビジネスではない)。
米国時間7月20日以降には、Amazon.comの創業者であるJeff Bezos氏が、同氏が代表を務めるBlue Originの有人宇宙船「New Shepard」に搭乗して宇宙空間に飛び出し、地上に帰還することが予定されている。
宇宙はこれまで、米航空宇宙局(NASA)や日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)など国が主体となって活動する場だった。しかし、Virgin GalacticやBlue Originの存在により、宇宙という空間は国家だけのものではなくなり、民間企業も活躍できる場所になりつつあるという時代の変わり目を象徴するものとして見られるようになっている。
それでは、国家が主体となって活躍する場である宇宙を行き来できる、専門の職業訓練を受けた宇宙飛行士には、現在の潮流はどのように映るのか。
2007年7月、2009年12月~2010年6月、2020年11月~2021年5月の合計3回、宇宙に飛び出し、国際宇宙ステーション(ISS)の滞在歴が335日17時間56分という日本の宇宙飛行士としては最長の記録を保持しているJAXA所属の宇宙飛行士である野口聡一氏は、2021年7月の帰国記者会見で以下のような見解を示した。
「プロの宇宙飛行士が乗らない新しい時代がやってきた」
例えば、野口氏も搭乗したスペースシャトルの乗組員は、宇宙飛行士の訓練を受けることが前提だ。Virgin GalacticやBlue Originのような宇宙観光ビジネスが本格的に事業として軌道に乗れば、訓練を受けたことがない人間だけが宇宙船に乗ることになる。こうした状況を踏まえて野口氏は宇宙という空間に対する「新しい時代」という表現を使った。
これまで歴代の宇宙飛行士は、「(宇宙空間で)何かあったときに手動で乗り越えられる」(野口氏)ように訓練を受けてはじめて宇宙船への切符を手にすることができる。
しかし、これからは訓練を受けなくても宇宙を行き来できる時代が到来しつつあり、宇宙観光が誰でも楽しめる時代はすでに始まっているのかもしれない(ちなみに、Virgin Galacticの場合、料金は2700万円だが、すでに600人が予約している)。ちなみに今回のVSS Unityには専門の訓練を受けたパイロットが搭乗している。
「宇宙の民営化、宇宙観光の時代と言えるかもしれない。プロの宇宙飛行士のあり方も変わってくる。これまで飛行機乗りに求められるものは時代によって変わってきた。(ISSで行われているような無重力を生かした)実験のオペレーターという役割もあった。今後は月や火星での探索に行く宇宙飛行士もあり得る。月を含めて民間利用をヘルプする宇宙飛行士もあり得る」(野口氏)
帰国記者会見で野口氏は、こうしたプロの宇宙飛行士の役割について「ゴルフでいえば、レッスンプロとツアープロ」と表現した。
ここでのレッスンプロは、宇宙を希望する人間の裾野を広げ、底上げするプロの宇宙飛行士だ。対するツアープロは、宇宙という場所の「てっぺんを目指す人」であり、月や火星などを目指す宇宙飛行士になる。
CNET Japanの取材でも野口氏は、レッスンプロの重要性を強調した。
「宇宙観光や宇宙ホテルなど、より多くの人に宇宙に行ってもらいたい。宇宙を理解してもらうには、宇宙に実際に行ってもらうのが一番」。宇宙に対する裾野を広げ、底上げをするには、レッスンプロとしての宇宙飛行士が必要と強調する。
かつて、宇宙に打ち上げるには重さ1kgあたり100万円かかると言われていた。そう考えるとVirgin Galacticの1人あたり2700万円というのは格安かもしれない。CNET Japanの取材に対して野口氏はこう答えた。
「(Virgin Galacticは)数分の弾道飛行であり、(ISSのような)地球を周回するのとは異なる。Blue Origin(のNew Shepardの座席)はオークションで30億円となった。これは(旧ソ連やロシアの有人宇宙船である)Soyuzの20億円に近い」
(この続きは「UchuBiz」で読めます)
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」