そんなに製造キャパシティが足りないのなら、ラインを増やせばいいじゃないかと思うかもしれないが、実はそれは難しい相談だ。というのも、新しいラインを増やすためには、新しい工場を建設する必要があるからだ。
一般的にファウンドリーの工場は、最先端の技術に対応した工場を建て、次の新しい製造技術が登場すると、その最先端の工場をアップグレードするか、別の工場を建てて新しい製造技術で製造を行なう。そして減価償却が終わった古い工場は、数世代前の製造技術の製品を低コストで製造するという仕組みで成り立っている。このため、自動車メーカーが必要とするような数世代前の製造技術のラインを増やすというのはかなり無理をしないと難しいというのが現実なのだ。
では、どんどん最先端の製造技術の工場を作れば良いだろうと思うかもしれないが、今度はファウンドリーの費用対効果が問題になる。
半導体の工場は、小さいものでも数百億円からの建設費がかかり、大きいメガファブと呼ばれるものでは1兆円近いコストがかかる。しかも、製造を開始するには数年という単位で時間を必要とする。それまで今のような強い需要が続く保証はどこにもなく、数年後工場が完成して製造を開始したときには需要が弱くなっていたというのでは、そのイニシャルコストを回収するのは難しくなり、下手すれば会社が傾くことになるのだ。
自動車メーカーはこれまで、カンバン方式と呼ばれる部品メーカーのジャストインタイムでの納入に慣れきってきた。しかし、今回は自動車メーカーから見て遠いところにいたティアスリーのファウンドリーのラインが逼迫していることが問題だったことが、問題の本質がどこにあるのか理解が遅れてしまった、と考えられる。
その意味では今回の問題は、自動車メーカーにとってこれまでティアスリーで直接は見えない存在だった、ファウンドリーの重要性を浮かび上がらせたと言えるだろう。
今後は自動車メーカーが直接ラインを押さえに行くなどの対策が加速されるものと見られる。いずれにせよ、今後自動車の製造に半導体の重要性が高まることはあっても、低くなることはないと考えられるため、自動車メーカーにとっては半導体の安定供給を、どのようにサプライチェーンに組み込んでいくのか、それが今後の課題となる。
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