半導体を利用する製品が増えているのと同時に、1つの製品が利用する半導体の数も加速度的に増えている。たとえば、最初の例として出した自動車で考えてみよう。
昔の自動車にも半導体は利用されてきたが、主にECU(Electronic Control UnitないしはEngine Control Unit、電子制御装置/エンジン制御装置)と呼ばれるエンジンの電子系を制御するコンピュータユニットに内蔵されるマイコン(マイクロコントローラ)が使われている程度だった。
自動車のマイコンは、さほど高い性能も必要としないため、製造技術も最先端のモノではなく、熟成の進んだ低コストの数世代前の製造技術で製造されるのが一般的だった。しかし、現代の自動車はそれが一変している。
たとえば、センターコンソールにあるIVI(In-Vehicle Infotainment system、車載情報システム)はその代表で、かつてはカーナビと呼ばれて地図を指し示すだけの端末だったこの機器は、今やスマートフォンと同じような機能を備えつつあり、メーカーによってはスマートフォンと同じようにアプリで機能の拡張ができるようになっている。このため、IVIにはハイエンドのスマートフォンと同じような半導体を採用するのが一般的。
また、ドライバーの安全運転をアシストするADAS(先進運転支援システム)は、既に普及価格帯の車にも標準搭載されるようになっており、今後はそれが発展して自動運転になっていく。そうしたADASは、AIを利用した衝突回避やレーンキープ、さらには渋滞時の追随運転などの機能が実装されており、それにも最先端の半導体が必要とされている。
そうした最先端の半導体は、PCやスマートフォンに採用されている処理能力が高い半導体と同等の製品で、いずれも最先端ないしは最先端に近い製造技術で製造される。言ってみれば、自動車の中に、いくつもの高性能なコンピュータが搭載されている、そういう状況になりつつあるのだ。
これまで自動車メーカーは、こうした半導体の設計、製造、納入を、彼らがティアツーと呼ぶ2段階目の下請けに任せてきた。自動車産業ではティアワン(Teir 1)、ティアツー(Teir 2)、ティアスリー(Teir 3)……とサプライヤーを階層化して、サプライチェーン(部品供給の仕組みのこと)を構築してきた。
デンソーやロバート・ボッシュのような部品を組み立てて自動車メーカーに納入する最終部品メーカーがティアワンで、そのティアワンに部品を納入するのがティアツーで、半導体メーカーはここに相当する。
ところが、今回問題になったのは、そのティアツーの半導体メーカーに製造した半導体を納入する、自動車メーカーから見ればティアスリーに該当する半導体受託製造メーカーだった。
現代の半導体メーカーは、半導体の設計を行なうが、製造はファウンドリー(Foundry)と呼ばれる受託製造メーカーに委託して行うのが一般的。台湾のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング、Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)やSamsung Electronics(サムスン電子、以下Samsung)などの台湾や韓国の企業がよく知られており、特に最先端の製造技術ではこの2社が他社を大きくリードしている現状だ。
半導体メーカーはこのTSMCやSamsungなどの製造ラインを予約して自社の半導体を製造している。半導体の需要が世界的に高まっているため、そうしたファウンドリーの製造ラインはほぼ「売約済み」となっており、今から予約を入れても、1年先や下手すると2年先という状況が常態化してしまっているのだ。
このため、半導体メーカーは先を争ってラインを押さえに行っている状況で、特に最先端の製造技術のラインは奪い合いという状況が続いている。
そうなると需要と供給に従って、売手市場となるのはご想像の通りで、iPhone用の半導体を製造するためにTSMCを利用しているAppleのような、より資本に余裕がある企業が競り勝つという状況になっている。
自動車メーカーに半導体を納入する半導体メーカーは、そうしたPCやスマートフォン向けの半導体が利用する最先端の製造技術からは数世代前の製造技術を使っているのだが、最先端がそういう状況なので、そうした数世代前の製造技術のラインも需要が高まっており、すでに製造ラインの予約で一杯の状況なのだ。CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
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