京大発ベンチャーと創業99年の老舗企業が新事業--環境を考えた太陽光発電施設

 電力事業などを手掛けるETS ホールディングスと京都大学発のベンチャー企業であるサンリット・シードリングスは6月16日、太陽光発電所における「生態系リデザイン」事業を開始したと発表した。太陽光発電施設敷地内の生態系を構築し、施設がなくなった後にはきちんと自然に戻せるような土壌づくりを推進する。

太陽光発電所敷地
太陽光発電所敷地

 ETS ホールディングスは、1922年に創業。電力事業とともに発展を遂げ、送電網や鉄塔の設備事業で知られる。昨今は再生可能エネルギー事業にも力を入れ、太陽光発電所なども手掛けている。

 ETS ホールディングス 代表取締役社長の加藤慎章氏は「太陽光発電はエコなエネルギーとして注目されているが、設備を導入する時には、森林伐採や土地造成などが必要になり、それが本当に環境いいいことなのかという懸念があった。また地形、地質、生態系の特性に合わない開発をすすめると、自然破壊や土砂崩れを起こす場合もあり、その土地の価値を見極めながら開発を進める必要がある。一方、蓄電技術が進んだり、宇宙で発電して地球に送電する技術が出てくる中、太陽光発電施設はいつまで必要かという問題もある。いずれは施設の敷地を自然に戻す必要がある」と太陽光発電に関する課題を話す。

 生態系リデザイン事業は、こうした課題を微生物や菌を使って解決する新しい仕組み。生態学、菌類学、ネットワーク科学という異なる科学領域を融合したサービスを提供するサンリット・シードリングスが、太陽光発電建設候補地を調査、分析し、候補地の生態系を多角的に評価。採取した試料から太陽光発電所での未来の生態系づくりに活用できる微生物を活用して土づくりや植物の育成促進することで、発電事業終了後を見据えた生態系の構築、管理ができるというもの。

「生態系リデザイン」サービス提供フロー
「生態系リデザイン」サービス提供フロー

 これにより、希少な動植物や生態系の地盤となる微生物を生育、維持を可能とする生態系の構築が可能。パネル下の農作物栽培を促したり、発電所敷地に適した植物で地表を覆うことで、降雨時の土砂の流出を抑え、保水力も高められる。

 加藤氏は「現状の太陽光発電施設の事業者は、発電事業終了後の敷地を自然な形で回帰する方法がわからない。そのために今すべきことは何か。その最初の事業が、発電事業と生態系づくりを一緒に考える、生態系リデザイン事業だと思っている」とコメントする。

 サンリット・シードリングスは、2020年1月に設立したばかりの京大発ベンチャー。創業者は京都大学准教授の東樹宏和氏で、生物群集と生態系の診断に基づくコンサルティング事業を手掛ける。代表取締役CEOの小野曜氏は「1年生企業の私たちと100年という伝統あるETS ホールディングスと次の100年を創っていきたい」とコメントした。

 今後は、生態系リデザイン事業を自治体や太陽光発電施設を持つ企業などに提案していく方針。新設のほか、既設にも取り込め、2021年中に1件の導入を目標にしている。導入する際のコストについては「長丁場な事業になるので、イニシャルは抑えた状態で、マネジメント費用がランニングコストとしてかかる形を想定している」(加藤氏)とした。

 
左から、サンリット・シードリングス代表の小野曜氏とETS ホールディングス代表の加藤慎章氏
左から、サンリット・シードリングス代表の小野曜氏とETS ホールディングス代表の加藤慎章氏

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