欧州のシリコンバレーと呼ばれるに相応しい国エストニア。人口約132万人という小国にもかかわらず、スタートアップそのものをこの国の第一産業のように盛り上げ、すでにユニコーン企業を5社も輩出している。そして、2020年後半に「Pipedrive」がユニコーンとなったばかりにも関わらず、新たなユニコーン企業がエストニアから誕生しようとしている。いま最も注目を浴びるエストニアスタートアップ、それが「Veriff」だ。
5年前から同国に移住し、現地のタリン工科大学を卒業した筆者(28歳)が、Veriffについてご紹介しよう。ただし、あくまでも筆者の実体験に基づく内容であることをご理解いただきたい。
オンラインで本人確認を求められる際、最後の「本人確認書類のコピーを送付」という作業に煩わしさを感じる人は多いのではないだろうか。オンラインで完結させたいのに、最後の一歩である本人確認のためにわざわざ足を運ばなければならないことは、日本においてもよく見られる光景だ。その需要にいち早く目をつけ、世界中の中小企業を相手にエストニアからビジネスを展開しているのがVeriffだ。
Veriffは、2015年に当時まだ20歳のKaarel Kotkas氏によって設立された。その若さにしてVeriffが3社目の起業というから、同氏は生まれながらにしての起業家だ。創業後にすぐに世界的な注目を集め、2018年の春には米国のシードスタートアップアクセラレータであるY Combinatorに加わる。
同社は現在に至るまで、230人以上の従業員を雇用し、190カ国以上でオンラインID検証のゴールドスタンダードとしてサービスを提供している。エストニアを拠点とする同社は、仮想ID検証サービスの大手プロバイダーであり、2016年以来、国際的なクライアントと協力してプロジェクトを進めている。
Veriffは、企業がオンラインID チェックに対応できていない問題を解決するという目標から始まった。年齢確認認証が求められるあるサービスをKaarel氏が利用しようとした際、写真を少し編集しただけでセキュリティを突破できてしまった。その経験から、彼はオンラインで他人になりすますのがいかに簡単であるかを考えた。大企業が詐欺に対してこれほど脆弱であるならば、中小企業はよりチャンスが少ない。彼の過去の経験が、現在のVeriffを成長させるきっかけとなった。
人口がわずか132万人のエストニアは、オンラインで税金の支払いや選挙の投票、医療記録、オンラインで金融サービスにアクセスできるようにする国民IDシステムを備えている。顧客はスマートフォンなどのカメラで顔とIDカード(パスポートや運転免許証など)を写すことで、画像分析し、本人確認をAIが行うという仕組みである。銀行やFinTechなどKYCが必須とされている企業はもちろん、オンライン詐欺に悩まされている企業も活用できる。
VeriffのVideo-first AI技術は、基本的なデータ抽出、静止画像、または生体認証では見逃しがちなID詐欺の特徴抽出、高度なデータクロスリンク要素が組み合わされている。顧客自身が詐欺を防ぎ、サイバー犯罪の一歩先を行くために必要なテクノロジーを進化させているのである。
同社のテクノロジーは、1000を超えるデータポイントを活用してビジネスにセキュリティと信頼を提供する。この分野において他の企業でよく見られる方法では、ドキュメントデータの抽出と検証に重点を置いているが、Veriffは正確なオンラインID検証(IDV)サービスをVideo-firstアプローチで提供し、セクターやユースケース全体でサービス機能の範囲を拡大している。客観的なAI搭載の意思決定エンジンは、機械学習を活用しており、190カ国以上から36の異なる言語で発行された9000を超える政府発行のIDを分析できる。
Veriffのvideo-firstアプローチにより、より確実性、セキュリティ、客観性が高まる。Veriffの ID文書のチェックは98%が自動化されているため、検証が非常に迅速になり、自動化された決定が明確になる。ID検証は、さまざまな業界の企業にとって必須の要件だ。Veriffは、AIの技術を用いて、コンプライアンス、不正防止、グローバルなスケーラビリティを提供している。
現在、世界のユニコーン企業のうち欧州のスタートアップは全体の12%である。「DIGITALEUROPEでは、世界で最も急速に成長している最も革新的なスタートアップの少なくとも4分の1が欧州企業であるべきだ」とDIGITALEUROPEのセシリア・ボネフェルト・ダール局長は述べている。
Kaarel Kotkas氏は「Veriff は、以前は対面での会議が必要だったさまざまなサービスにインターネット経由でアクセスできるようにする。Veriffにより、あらゆるウェブサイトやモバイルアプリが政府発行のIDを持つ個人を照合できるようにサービスを構築し、オンラインでも本人であることを証明できるようにする」と述べる。
Veirffは、人工知能のテクノロジーを活用し、数千の技術的変数と行動変数を数秒で分析し、190カ国以上の人々を検証している。同社はオンラインのID認証の世界を確実に変えていくだろう。正確な本人確認を追求することに留まらず、革新的なアプローチとオープンな思想により、製品をユーザーのニーズに適応させ、ユーザーために機能し、改善し続ける検証の構築を支援している。
近年では金融サービスを扱うFinTechスタートアップが日本においても数多く登場しているため、Veriffのような、中小企業が手軽に導入できるオンライン本人確認テクノロジーの需要は今後高まっていくかもしれない。
齊藤大将
Estify Consultants OÜ 代表
テニスコーチを辞め、エストニアのタリン工科大学へ入学。在学中に現地案内・コンサルで起業。エストニアでのハッカソンでの受賞歴や、登壇多数。大学院での研究テーマは文学の数値解析と小型人工衛星研究開発。現在、フリーランスのクリエーターチーム(nurumayulabs.com)で、DXコンサル、アプリやIoT、データサイエンスなどの開発業務を行いつつ、VR学習アプリやバーチャル×芸術の創作を行っている。
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