有料会員制のコミュニティ型ファンクラブ「Fanicon(ファニコン)」を運営するTHECOOは、オンラインライブ配信や収録に特化した新スタジオ「BLACKBOX3(ブラックボックス)」を東京都の新宿御苑に4月にグランドオープンした。4面LEDパネルとメディアサーバー「disguise vx2(ディスガイズ)」のスタジオ常設は国内初で、その“視覚効果”の可能性は大きな反響を呼んでいるという。
スタジオ新設の目的は、アーティストやクリエイターたちと一緒に「オンラインライブの最適解を見つけること」。だからこそ、一般へのハコ貸しはせず、Faniconやチケット制ライブ配信サービスを利用するクリエイターのみに提供するという。もともとFaniconはサービスの一部としてイベントスペースを提供しており、BLACKBOX3は その“ハイスペック版”という位置づけになるそうだが、なんとマイクなどの機材も含めて無償で提供するというから驚きだ。
「コロナ禍でオンラインライブは進んだが、さまざまな問題が顕在化しており、チケットが売れにくくなるなど踊り場にきている。BLACKBOX3を活用いただき、『リアルライブに近づける』『パッケージ化する』以外の“第3の選択肢”を見出すことで、オンラインライブのユーザー体験を作り出したい」。そう語るTHECOO代表取締役CEOの平良真人氏に、BLACKBOX3を新設した背景やこだわりを聞いた。
チケット制ライブ配信などを手がけるTHECOOが4月にグランドオープンした、音楽ライブ配信専用スタジオを取材しました!複数のカメラで空間を認識することで、まるでCGのような映像演出を可能にしています。すでに、いきものがかりなど超人気アーティストに使われていて、6月まで埋まっているそうです。 pic.twitter.com/pQsdehB6Ef
— 藤井 涼 / CNET Japan編集長 (@ryo_fujii1986) April 21, 2021
BLACKBOX3を作ろうと思ったきっかけは、2020年3月のコロナ禍にFaniconが立ち上げた「#ライブを止めるな」プロジェクトだった。ライブハウスの協力を得てライブ配信のサポートを行い、SNSでも大きな反響があったが、オンラインライブのさまざまな課題が浮き彫りになったという。
「一部のアーティストを除いて、チケットは売れにくかった。しかも、チケット単価はリアルライブの3分の2、大きな収益源だったグッズ販売もゼロ。一方で、収録や配信のコストが追加でかかり、拘束時間も長くなる。オンラインライブという“ネットビジネス”をスケールさせるためには、配信できる環境を自ら作ったほうがいいと思った」(平良氏)
すぐに物件を探し始め、2カ月かけて見つけたのが、以前はスタジオグリーンバードという有名なレコーディングスタジオだった場所。廃業のため居抜き物件で、演出上絶対条件だった天井の高さや、防音遮音工事、大容量電力確保など、さまざまな観点から申し分ない空間だったと振り返る「BLACKBOX3(ブラックボックス)」という名称は、ここがもともと真っ黒な“ハコ”だったことにも由来する。
まずは躯体そのままでスケルトン化し、年をまたいで4カ月かけて、内装工事を実施。アーティストが音と演出の両方にこだわれるよう、「レコーディングスタジオとライブハウスの中間」のような、いいとこ取りをした配信スタジオを目指したという。
BLACKBOX3は、地下1〜2階のフロア構成だ。まず、地下1階にはアンティーク調の「BRICKスタジオ」がある。アコースティックやトークイベントもできるよう、白と赤を基調色にしつつレンガを使うなどビンテージ感にこだわった。もちろん完全防音で、飛び跳ねても問題ない。
そして、地下2階にあるのが、4面LEDパネル(W9000mm×D4000mm×H4000mm)とメディアサーバーdisguise vx2を常設した「BOXスタジオ」。最新テクノロジーを活用したクールな雰囲気で、基調色は黒と緑。代官山Unitと同等の広さと照明、ミラーボールがあり、スモークをたく、LEDに映像を映し出すなどの演出効果も抜群だ。
BLACKBOX3最大の特徴である、BOXスタジオの“視覚効果の妙”については後述するが、映像、音響、照明、ライブ配信を集中管理するコントロールルームが隣接し、スタジオを一望できる6席限定のVIPルームまで用意された空間は、まるで演者とファンそしてFaniconが一体となって新たなクリエイティブをともに企むことを象徴しているかのようだ。
2つの楽屋はスタジオと同じトーンの内装のため、アーティストがリラックスモードでインタビューなどを収録できる。また、BRICKスタジオでトークしたあと、階下のBOXスタジオに移動して演奏する、といった“Mステ”的な音楽番組の生配信にも活用できそうだ。
ほかにも、使い勝手への配慮は随所に見られた。機材運搬用エレベーターや、階段の踊り場にはスタジオ内の様子を映し出すモニターが設置されているほか、マイクやケーブルなどの機材使用も無償。また、壁面アートや廊下のソファなど細部までこだわりが見られた。「クリエイターのWeWorkみたいにしたかった。そのために全体のトーンも統一した」(平良氏)
BLACKBOX3の最大の特徴は、BOXスタジオで配信する際の特殊な視覚効果だ。演者の動きに関わらず、常にLEDが正対しているように撮影できるため、まるで遠近感のない四角いCG空間で生身の人間が動き回っているような、リアルではあり得ない映像を楽しむことができる。
たとえば、いきものがかりは4月10日、最新アルバム「WHO?」のCD購入者限定配信ライブ「THE“特典”LIVE」をBLACKBOX3で開催。ヴォーカルの吉岡聖恵さんが「LEDに吸い込まれそうになったよ」「CGじゃないんですよ」とコメントすると、ファンからも「LEDすごい」とリアクションが続出したそうだ。
では、どのようにこれを実現しているのか。同社によれば、天井に1台と床に4台設置されたリモートカメラによって、LED空間を位置情報として認識。これをメディアサーバーdisguise vx2に送信して位置情報を連携し、トラッキングによって必ずLEDが正対するように撮影、そのデータをdisguiseが処理してリアルタイム配信するという。さらに、たとえば雨を降らせるなどのAR演出も、サーバーにあらかじめ素材を入れておけば容易にできるとのこと。
「disguiseは、もともとはU2のクリエイティブチームが映像の視覚効果として使っていたメディアサーバーで、ステージデザイン、映像や照明演出などのリアルタイムの3Dシミュレーションから、本番の出力までできる機材。海外では映画のプロダクションスタジオで常設されているようだが、日本ではBLACKBOX3が初めてだと思う」(平良氏)
ちなみに、BLACKBOX3で使用する映像データは、Touch Designer(タッチデザイナー)やUnreal Engine(アンリアルエンジン)で製作された16:9サイズであればOK。現在はデモ用に製作した映像のみだが、いずれは「自分の表現を試したい」というクリエイターとのコラボやレベニューシェアなども前向きに検討中だという。
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