コロナ禍で在宅時間が増えて1年以上が経つ。この状況で国内ユーザー数を前年比で1.6倍伸ばしたサービスが、ビジュアル探索ツール「Pinterest(ピンタレスト)」だ。
Pinterestは画像をメインとしたサービスであることから、画像共有SNS「Instagram」と比較されることが多い。しかし、「Pin(画像や動画)」を介して「Interest(興味関心)」とつながるという名の通り、ユーザー同士が交流するSNSではなく、画像からアイデアを検索するツールと捉えるべきサービスだ。
なぜ、Pinterestはコロナ禍で急成長を遂げたのか。その理由と今後の可能性について、Pinterest Japanのグロース・オペレーションズ日本代表の舩越貴之氏に話を聞いた。
——なぜ、コロナ禍でPinterestが急成長しているのでしょうか。
Pinterestは、世界で4億5000万人以上にご利用いただいています。そのうちの75%は米国以外のユーザーです。2020年は過去最高のエンゲージメントを達成し、グローバルで検索数が前年比で60%増加、保存数が40%増加しています。
日本国内の月間利用者数は前年比で1.6倍となる870万人です(2020年12月ニールセン調べ)。新規ユーザーの特性としては、Z世代と呼ばれるユーザーが前年比で50%増加しました。また、男性が48%、ミレニアム世代が36%増加しています。日本国内でも、この1年間で検索数が2.5倍増加しまして、ボード作成数も2倍増加しました。これからやってみたいこと、欲しいもの、アイデアなどが、毎日300万件保存されていることになります。
コロナ禍で皆さんの生活は一変しました。特にステイホームの時間は増加しています。家で過ごすにあたって、暮らしををより良くするための実用的なアイデアや新しいインスピレーションを求めている方が増えたことが、Pinterestのユーザー数の成長にもつながっていると考えています。
——ユーザーが家で過ごすアイデアを探すとき、具体的にどういったキーワードで検索されているのでしょうか
在宅勤務をしている人だと思いますが、オフィスを充実させるアイデアとして「ホームオフィス」、あとは健康面に関して「セルフケア」や「マインドフルネス」、そして家で料理をする人が増えているので「レシピ」の検索回数はすごく増えています。特に簡単でヘルシーなレシピが検索されています。
レシピ動画も非常に強いジャンルとして現れてきています。Pinterestでは最大15分までの動画をアップロードできますが、動画の再生数が100万回以上というレシピ動画もあります。インテリアのレイアウトに関する検索数は24倍になっています。日本ならではの「8畳インテリア」や小さなキッチンの整理といったジャンルに関しての検索数も伸びています。
Z世代の方たちの間では、あらゆる体型を祝福する「ボディーポジティブ」の検索数が9倍、「メンタルヘルス」に関しては5倍増加しており、自分の心身を良い状態に保つことに対して関心をはらう人も増えていることが見てとれます。そして、ちょっと意外に思われるかもしれませんが、男性ユーザーによるスキンケアの検索は9倍増加しています。
また新規ユーザーは、検索エンジンからの流入だけでなく、アプリからもきています。Pinterestで見つけたアイデアを友人や家族と共有したり、一緒に何かプロジェクトをする際に使われたりといった、クチコミのような拡がり方もあるかと思います。
われわれはユーザーの皆さまがよりアイデアを見つけやすくするために、2020年3月に「ピックアップタブ」機能をローンチしました。日本国内でキュレーションしたトピックや新しいインスピレーションを日替わりでご紹介しています。まさにコロナ禍と同時期ですね。
——レシピの検索が増加しているとのことでしたが、クックパッドやクラシルといったレシピサービスではなく、あえてPinterestで検索されるのはなぜでしょう。
Pinterestの特徴はさまざまなアイデアに出会えることです。たとえば、キッチンのレイアウトのアイデアを探しているうちに、料理のレシピを見たり、この食器でこの料理を作ってみようというインスピレーションもあるかと思います。何かピンポイントで見つけるというよりは、いろいろなアイデアやサイトの情報を横断的にビジュアル検索できることがPinterestの強みだと考えています。
検索するといろいろなアイデアが出てくると思います。気になったら保存をして、「ボード」に整理をして貯めていきます。すると、PinterestのAIが皆さんの好みや興味関心というものを分析してレコメンドしてくれるようになります。
また、さまざまな新機能も追加しています。2020年12月にはボードの機能も拡充しました。計画を立てる、あるいは他の方とコラボレーションするときのために自分用メモを入れたり、ボードやサブボードを整理したりといった機能を追加しました。この機能を使って婚約者と2人で結婚式の準備をしているユーザーもいます。そのほか、2021年2月にはiOS 14のウィジェット機能を公開しました。興味があるジャンルや自分のボードをiPhoneのホーム画面上に表示できます。
Pinterestはアイデアの閲覧だけでなく、発信もできます。2020年7月には、すべてのビジネスアカウントがPinterestに動画をアップロードできるようになりました。直接Pinterestに保存することで、画面内で自動再生されるようになります。ビジネスアカウントは無料で作成でき、個人アカウントと併用できます。インプレッション数やエンゲージメント数などは「アナリティクス」で確認できます。
広告については日本は準備中なので、オーガニックでインプレッションなどを検証する最適なタイミングだと思います。ぜひこの機会にビジネスアカウントをお試しいただければと思います。また、クリエイターやブロガーの方にもコンテンツや情報を発信していただき、新しいファンと出会う体験をしてもらえると嬉しく思います。
——コロナ禍でPinterestが注目されたことに対して、率直にどう感じていますか。
われわれのミッションは、「暮らしをさらに豊かにするインスピレーションの発見と実現をもたらすこと」です。Pinterestは皆さまの生活のあらゆるシーンを彩るアイデアを、画像や動画で発見できるビジュアル探索ツールなのです。コロナ禍でいろいろと制約があって厳しいけれど、暮らしを豊かにしたい、何かもっと楽しいことや新しいことにチャレンジしたいといった気持ちを持つ人たちが増えていて、そこをわれわれが上手くお手伝いすることができたと考えています。
この機会にPinterestのことを知っていただき、新しく使い始めていただいた方には、生活がより良いものになるためのアイデア探しの場所としてPinterestを有効に活用していただきたいと思っています。そしてアイデアが見つかったら、ぜひそのアイデアを実現、実行するために材料を買いに出かけたり、キッチンで料理してみたりといった体験をしていただきたいと考えています。
——この1年でECを使う人も増えました。PinterestとECの相性はどうですか。
Pinterestのビジネスアカウントには、ECサイトの方々がたくさんいらっしゃいます。Pinterestは、未来の計画のために見ているユーザーが多いので、前向きにアイデアを探してる人に効果的にリーチできる場所としてお使いいただいています。
Pinterestでは、ウィンドウショッピングに近いような体験ができます。セレンディピティですね。いろいろ見ている間にコートも靴も欲しくなっちゃったというように、皆さんが街に出てお買い物をされていたときによくあった行動に近い体験が、オンラインで実現できます。
何か欲しいと思っているけれど、どこのブランドの何を買うかは決まっていないとか、新しい洋服が欲しいけれどコートが欲しいのか、スカートが欲しいのかも決まってないケースもあると思います。
マーケティングファネルで言えば上位の人たちに対して、興味関心をフックに、欲しそうなものや興味がありそうなものを見せていく。目的の商品が見つかると、投稿からリンク先に飛べます。他のプラットフォームと比較すると、Pinterest経由の購入はインクリメンタル率(購入増加率)は25%高いことがわかっています。
——Instagramもショッピングに力を入れてきています。Pinterestはどのように差別化していきますか。
Pinterestのユニークなところは、2つあると思っています。ひとつは、使う方のマインドセットですね、Pinterestを使っている方は、他者の評価ではなく、主観的に自分が欲しい物、自分がやりたいことのアイデアをポジティブな気持ちで探している方が多いです。
もうひとつの特徴は、機能面です。機械学習に基づいて一人ひとりにパーソナライズされたものをお届けすることができます。Pinterestの上位検索の97%が非指名検索です。ブランド名で探すのではなく、「赤いコート」や「冬アウター」といった自然言語で検索されています。
Pinterestを効果的にお使いいただける事業形態を挙げるとすれば、D2Cだと考えています。ブランド名で指名検索されるほど認知度やプレゼンスが高くない場合でも、ビジュアルやソリューションのアイデアで見つけていただくことができます。
——Pinterestユーザーの中には、アニメや漫画などの無断転載も見つかります。著作権侵害への対策はどうしていますか。
われわれは、コンテンツホルダーの方やクリエイターの方など、皆さんの権利を非常に大切に考えて、尊重しています。彼らの作品をより多くのオーディエンスと結びつけ、トラフィックを元のクリエイターに戻すことで、権利保持者に価値を提供するように設計されています。もし、ご自身の著作権が侵害されていると思われるコンテンツがあった場合には、私どもの著作権センターの方にご報告をいただければ、適切に対処いたします。
——最後に今後の展望を聞かせてください。
今は日本のユーザーの皆さまに、Pinterestを使い続けたいと感じてもらえるユーザー体験を提供することを重視しています。プロダクトをより良くすると同時に、より多くの方に使っていただけるように、Pinterestの魅力を知っていただく活動を展開していきたいと考えています。
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