ハイクラス人材の転職支援サービス「ビズリーチ」などを手がけるビジョナルが、4月22日に東証マザーズに上場した。2009年にビズリーチを創業してから12年、2020年のグループ経営体制への移行からは1年という節目。コロナ禍で人材の流動性が低下したとされる中でも、テクノロジーを活用して人と企業を結びつけるHRテック領域に積極的に取り組んでいることなどが評価され、上場初日の時価総額は約2500億円(2491億円)を記録した。
現在はHRテック以外にも、物流やサイバーセキュリティといった新たな分野に次々とチャレンジしているビジョナル。新型コロナウィルスによって、人材領域だけでなく、それらの新領域にも少なからず影響があったはずだが、この1年どのように舵を取り、そして上場に至ったのか。今後の事業戦略も含め、ビジョナル代表取締役社長の南壮一郎氏に話を聞いた。
——4月22日にマザーズに上場しましたが、事業規模を考えるともっと早く上場する選択肢もあったかと思います。このタイミングになった理由を教えてください。
5年前にシリーズAの資金調達をしたときから、2021年春に上場することをターゲットにしていました。ビジョナルグループとして中長期的に目標設定し、逆算して要素分解しながら、何をすべきかをきっちり要件定義していくことが、われわれの事業、組織において必要なことだったんです。
2020年2月にグループ経営体制へ移行しましたが、あれはその先の上場を見据えたものでもありました。ここまでは準備体操や練習試合みたいなもので、ようやくスタートラインですよね。ビズリーチ単体での上場も、もしかすると5年前にできたかもしれません。ただ、上場した後に会社としてどうなっていきたいのか。中長期的に、どのように事業運営、会社運営していきたいのかがポイントです。
インターネットやテクノロジーの力で「社会にインパクトを与え続ける」事業を作ることがミッションですから、それを実現するにはビズリーチに次ぐ事業が大きく育たなければなりません。HRテックの領域で言えば、人財活用プラットフォームの「HRMOS(ハーモス)」、若手向け転職サイトの「キャリトレ」、OB/OG訪問ネットワークの「ビズリーチキャンパス」などがこの5年間で生まれましたが、それと同時に事業作りのノウハウや経験、スキルを生かしてHRテック以外のところでも種植えをしていかなきゃいけない。
しかし、これらを上場後にやろうとすると難しいんですよね。ですので、この5年間は事業を作り続けて、社会にインパクトを与え続ける、ということの実現に向けた準備期間だと思っていました。
——上場初日の時価総額は約2500億円(2491億円)を記録しました。マーケットからの期待値はかなり高いですね。
感謝しかないですよね。(時価総額は)われわれが何を実現できるのかを提示したうえで、証券会社のみなさんや、新しく株主になっていただく投資家のみなさんとの対話の中で生まれていくものだと思っていますので。そこで期待していただけているという意味では、本当に感謝しかありません。
われわれとしては、公開企業のお約束として、企業価値向上に向けてできることを1つずつ丁寧に、短期的のみならず中長期的にやっていくしかありません。この「中長期的に」というところは、今回のIPOに際して9割近い配分を海外の投資家に割り当てさせていただいた部分にも表れているんじゃないかなと思います。
しかしながら、原理原則は「Visional Way」という企業ミッション、バリューがありますので、事業の根幹は変わりません。息を吸うように事業を作って、自然体で事業を成長させていけたらと思っています。公開企業として責任は非常に大きく増すことになりますが、それによってわれわれが何か変わることはないですね。なので、見守っていてください、3年後に「話が違うよ」ということにならないように(笑)。
——南さんにとって「上場」が意味することは何でしょうか。
創業から12年間ずっと言ってきましたが、会社経営って「願いと約束」だと思うんです。これまでは一緒に働く仲間たちやお客様に対して、その「願いと約束」を共有してきたつもりですが、上場するということは、社会全体に対してこれをオープンにして共有するということ。ですので、本当にここがスタートラインですよね。
正確には不特定多数の方々が会社の所有者になるわけですので、われわれがお会いしたこともない、そして有機的に変わっていく株主、所有者に対して、きっちり「願いと約束」を果たしていくという意味では、これまで以上に難しさが増すと思います。ただ、先ほど言った「社会にインパクトを与え続ける」というのは、社会に対するコミットメントでもありますから、われわれのミッションに沿ったものでもあるんですよね。
——ビズリーチという事業からスタートし、ダイレクトリクルーティングやハイキャリア人材にフォーカスしたマーケットなど、新たなトレンドやマーケットを作り上げてきました。改めて、創業から上場までを振り返っていただけますか。
やっぱり課題設定が良かったんだと思います。われわれの事業作りの根幹は、常に「課題」なんですよね。もちろんタイミングも重要ですが、その時代における解決されるべき課題が何なのかを丁寧に磨き上げて、定めることが事業において大事で、そのうえでスタートできたことが良かったじゃないかなと思います。
前職の楽天イーグルスでも学んだことですが、事業というものは、その社会の課題を解決するためにあるものなんだと。課題解決の先によりよい社会が生まれることを信じて地道に前進してきたのが、この12年間の歩みのすべてだと思っています。
ビズリーチは大きく成長しましたが、働き方というのはある日突然変わるものではありません。働き手のみなさん、企業のみなさん自身が変わらなければいけないものですから、そのための仕組みやシステムをわれわれが提供してきたつもりです。そうやって信じた未来に、みなさんが賛同し始めてくださっている。この12年で、働き手が「働くとはどういうことなのか」を考え始めて、企業も従業員の活用についてちゃんと向き合い、「自ら変わらなきゃいけないんだ」と感じ始めてくれたのが、一番嬉しいことですね。
10年後にこのコロナ禍を振り返ったら、日本の社会や企業が前に歩み始めるきっかけだった、と感じるだろうと個人的には思っています。今後の日本経済についてよく聞かれますが、僕は伸びしろしか感じない。今までDXできなかったのに、コロナ禍で顕著に結果として出ている。日本の会社にとって、DXを進めるチャンスが生まれたわけで、明るさしか感じないですよね。
——今後の日本における人材採用や働き方はどうあるべきだと考えていますか。それに対してビジョナルはどう貢献していけると考えているのでしょう。
そもそも働き手はその会社で「活躍したい」と思って入社し、採用する企業もその人に「活躍してもらいたい」と思って採用するわけです。ですので、データとシステムに基づいて「活躍」を要素分解し、「働く」の本質を要件定義して、企業と従業員のあり方を模索していくべきだと思うんです。
生産性の低さも日本が抱えている大きな課題の1つですが、やっぱりみんな生産性を上げたいと思っているはずなんです。生産性を下げたいと思っている会社、従業員、社会はないでしょうし、より良い環境でより良い活躍をみんながしたいと願っている。ですので、働き手のみなさんと企業のみなさんがより明るい未来に向けて、毎日生産的に働けることを実現できるようなエコシステムを、データとテクノロジーを使って支えていきたい、というのがビジョナルの一番大きな中長期的なミッションでもあります。
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