2021年春。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の猛威は収まる気配を見せていません。そんな中、2020年のゲーム業界は大きく拡大をしました。
世界のゲームコンテンツ市場規模は、20兆円を超えたとみています。(ファミ通ゲーム白書:f-ism/IDG)
実際、各社の決算報告を見てもその好調さが伺えます。任天堂の2021年3月期第3四半期(2020年4月1日~2020年12月31日)は、前年同期比で137.3%。同様にソニーのゲーム&ネットワークサービス部門は129.3%。マイクロソフトもMore Personal Computing部門で112.0%となっています。
任天堂は『あつまれどうぶつの森』をはじめとしたゲームタイトル販売がグローバル規模で好調に推移したこと。ソニーやマイクロソフトは、PS5やXbox Series X 等の次世代新ハードが投入されたことも大きいと言えます。
デジタル販売(店頭でのパッケージではなく、ダウンロードやサブスクリプションでの購入)の比率が上がり、コロナ禍で一層の加速をしています。
例えば、国内のコンシューマゲーム市場(ファミ通ゲーム白書編集部調べ)におけるデジタル販売は、19年度で約1000億円でしたが、20年度では約2000億円と予想しており、実に約2倍の伸長を果たすと予測しています。
デジタル販売の拡大は任天堂の決算を見ても明らかであり、同社のデジタル売上高前年同期比104.9%増という状況です。
モバイルやPCゲームは、既にほぼデジタル販売が主流なので、残るコンシューマのデジタル販売シフトで、ゲームマーケット全体のデジタルシフトは大きく加速したといって良いでしょう。
コンテンツのデジタル化が進むと、クラウドゲームへの移行が更に加速します。クラウドゲームの特徴として、まずビジネス的には「サブスクリプション」に大きく道を開くことが挙げられますが、別の側面では「ハードを選ばない」ということがあります。
移動中でもリビングでもどこでも同じゲームができる。サブスクリプションによって購入している映画や音楽が、リビングのTVやスマホで、本格オーディオやスマホヘッドホン、はては車の中でなど、様々な環境で楽しめるようなイメージです。
ここまでくると、ユーザーがどのクラウドプラトフォーマーを選ぶかは「強力なIPの有無」が重要な鍵となってきます。
逆に、プラットフォームホルダーの立場からすると、ユーザーの囲い込みの側面からより多くのIDを集めることが命題となり、IDを集めるためにも、より強力なIPを自分のプラットフォームにラインナップするようになっていきます。こうして“IPとIDの争奪戦”が始まっていくのです。
では、“IPとID争奪戦”を見ていく上でのさらなるキーワードとは一体何になるのでしょうか?それは、「利便性」と「コミュニティー」だと考えます。
「利便性」はプラットフォーム選択の上で大きな要素を占めます。ユーザーは、より「利便性」が高いプラットフォームへと行き着きます。
かつて、アップル社のiTunesが世界で台頭できたのは、この「利便性」の追求が同時代の他のサービスより抜きん出ていたことによります。アマゾン社の顧客満足追求も「利便性」の追求の例といえます。
また、“IPとID争奪戦”時代のキラーIPも、昔の強いIPとその意味合いを変えてきています。昔は良いゲームをパブリッシャーがちゃんと宣伝していけば、キラーIPになっていきました。
しかし、今は変わってきています。まず、従来の方法でパブリッシャーがお金をかけて宣伝しても必ずしも売れなくなってきました。
ゲームとしてのクオリティーが高いことは必須ですが、今では、コミュニティーを刺激できる要素がある、イベントや話題を生み出せる、スターインフルエンサーやスタープレイヤーを生み出せる、といったことが条件となってきたのです。
つまり、「コミュニティー」をおさえることできるというのが、キラーIPの条件となってきたのです。
巨大なマーケットである世界の自動車産業は、最近EVや脱ガソリン動力の話題で持ちきりです。脱炭素社会の実現という基軸で語られることが多いですが、ゲーム業界を見ている者からすると別の見方をしてしまいます。
EVはハード(車)そのものの競争というものから、ハードを動かすソフトと一体となったもので競争する時代に変わっていくのではと、イメージさせるのです。
ハードとソフトが一体となっていくEV。そこに乗っかるコンテンツは、エンタメ業界同様、「利便性」「コミュニティー」を念頭に置いた“IPとIDの争奪戦”になるはずです。
さらにこのコンテンツの世界は大きく広がっていくことが予想され、地図情報、レコメンドプレイス、自分の好きな店や買い物、ドライブスルー決済など、既存のデジタルサービスで実現されているものは、いつEVのコンテンツとして融合してもおかしくありません。そういった意味ではデジタル化したエンタメコンテンツだってしかりです。
やがて、こういったソフト的なアップデート目的で、車を選ぶ時代が到来するやもしれません。車は安く購入し(もしくはタダ)、年間サブスクリプション契約で高額課金という世界が来るかもしれません。
車を選ぶ理由がプラットフォームの様々な統合サービスになる、自分の様々な履歴が引き継げる「利便性」。この車を持つことで繋がる「コミュニティー」等々。
これらは、アップルの車やソニーの車など、ゲーム業界やエンタメ業界でのお馴染みのプレイヤーが自動車業界進出のニュースを見る度、頭をよぎることです。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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