パナソニック新CTOが話す弱点と強み--「総合力と言うときは中身がない時」

 4月1日付で、パナソニックのCTOに就任した執行役員の小川立夫氏が、報道関係者を対象に、技術分野から見たパナソニックが提供する価値などについて説明した。

パナソニック 執行役員 CTOの小川立夫氏
パナソニック 執行役員 CTOの小川立夫氏

 小川CTOは、「パナソニックは、コングロマリットディスカウントと呼ばれるように、家電やデバイス、家、サービスなど、さまざまな事業分野において、さまざまな顧客と接点を持っており、その多様性を価値に転換できるユニークなポジションにある企業である」と位置づけ、「これまでのプロダクトデザインからプロセスデザイン、コンテクストデザインへと変化し、顧客の手元に届いてからも成長していくようなアップデート型の商品、サービスを提供することに加えて、自社ですべてのことをやり遂げる垂直統合だけでなく、水平分業への取り組みや、ネットワーク型プロジェクトによって素早く組成し、目的とする社会貢献にあわせて展開することを目指していく。そこでは、パナソニックが持つ多様性や信頼、信用が武器になる。エネルギーや物質、サービスが持続可能な形で循環する新しい社会や地域コミュニティのプラットフォーマーになることを考えている」とした。

 また、「パナソニックは、家電のDNAを持っており、3~5年をかけて、積み上げていくモノづくりが得意な会社である。開発、生産も、その仕組みに特化している。10年、20年という長期にわたるインフラ系のビジネスに対して我慢できる仕組みになっていないこと、逆に、今日や明日といったスパンで投資してくれる企業を探して、ネットワークを最大限に活用し、すぐにビジネスを立ち上げるというスピード感もない。周波数の低いビジネス、高周波のビジネスへの対応力が、パナソニックにとって足りない能力である。パートナーとの連携で補完していく必要がある」と問題点を指摘。「自らが持っているものを認識し、パートナーと価値を作るところにシフトしなくてはならない。すべてを自分だけでやるとか、自分の技術がいいということを言っているだけでは生き残れない」とした。

 さらに、「総合力という言葉を使っているときは、中身がない時だといえる。多様性という言葉も、同じような状況にならないようにしなくてはならない。社長の津賀(=津賀一宏氏、6月から会長に就任)が、クロスバリューイノベーションという言葉を使ってきたのも、事業部制のなかでは、それが自然には起こりにくいから言い続けてきたと理解している。今後、その役割を担うのが、パナソニックホールディングスの技術部門である」とも述べた。

「たくさんの上司、同僚、部下と一緒に仕事をしたのが財産」

 パナソニックは、2022年4月1日に、持株会社のパナソニックホールディングスを発足し、その傘下に、8つの事業会社を置く新体制へと移行することになる。技術部門は、ホールディングスとともに、各事業会社のなかにも設置される。

 小川CTOは、「事業会社による体制は、各事業領域での『専鋭化』が進み、活力が生まれる仕組みであるが、中長期での視点で捉えたり、本格化するかどうかわからない技術については、ホールディングス側に一定の責任がある。ホールディングスでは、事業会社で担保できない将来の技術の仕込みや、共通基盤技術として持った方がいい資産、効率的に活用できる技術資産といったものに取り組む必要がある。また、事業会社が新たなビジネスを起こす際に、技術の視点から支援することも、ホールディングスの技術部門としての役割がある。『専鋭化』すると事業収支を厳しく見ることにつながる。その結果、新たな技術や取り組みに動きにくいという状況を生む可能性がある。そこをカバーするのがホールディングスの技術部門の役割である」などとした。

 また、知財戦略については、「パナソニックは、携帯電話事業を止めたが、5Gは、将来のビジネスに必要である。事業としてやっているところの直接的な知財を守るというだけでなく、将来必要とする技術に対して、先行して投資し、知財で攻めていくことも必要である。攻めと守り、そして新規分親での上積みにも取り組んでいくことになる」と述べた。

 小川CTOは、1964年12月、神戸市出身。高校、大学で合唱の指揮者を務め、「そのときの経験がいまの仕事に役立っている」とする。1989年に松下電子部品に入社し、電子部品研究所に配属。デバイスや材料、プロセスなどの研究開発に携わる一方、米ジョージア工科大学への留学のほか、さまざまな技術部門や企画部門などを担当。「たくさんの上司、同僚、部下と一緒に仕事をしたのが財産」と語る。

 技術者としては、樹脂多層基板である「ALIVH」の開発に初期段階から携わり、93gの軽量化を実現した携帯電話「P201」に採用。「自ら開発したものが世に出て行く嬉しさを経験する一方で、不良によって、顧客に多大な迷惑をかけることを反省した」という。

ロボティクスは人間の100倍、1000倍の能力を発揮してこそ意味がある

 直近まで、オートモーティブ社車載システムズ事業部において、安心、安全、省エネ、モノづくり、物流を担当していた。

 「学生時代は実験するためにお金を払っていたが、社会人になると実験をして給料がもらえる。どのように、まわりまわって、お金が貰えるのかを常に意識している」と語る。

 そこで一例としてあげたのがロボティクスだ。「ロボティクスをやろうとすると、技術者は精密に動く手を作りたいということになる。研究開発のテーマとしてはいいが、それを使って水を運ぶだけというのであれば、時給800円の人と戦うだけの用途である。それでは事業にはならない。人間の100倍、1000倍の能力を発揮しなくてはいけない」などとした。

 現在は、構造構成主義や現象学などの哲学と、身体の声に耳を傾け、人と人との関係を追求する身体性について、高い関心を持っているという。

 「構造構成主義では、方法の有効性は、目的と状況で決まる『方法の原理』と、価値は関心や欲望に相関して立ち現われる『価値の原理』の2つの原理で成り立つ。プロジェクトを推進していると、やっていることそのものが目的化しそうになるが、本当のお役立ち、本当の価値、本当の目的はなにかということに照らしながら、最善のものを選択したいということを毎日自戒している」とした。

 また、「パナソニックは、多様な顧客と接点を持っているが、顧客の理解が不十分であったという反省もある。物理や化学の法則や尺度だけでなく、心理学という観点からも踏み込んで、人の理解を深めていくことも研究開発の分野から取り組まなくてはならない。老人や身体の不自由な人は、機械がなんでもしてくれることを求めているのではなく、人がやりたいことをいつまでもできるように支援することを求めている。自分の足で歩いて、自分でごはんを食べて、社会の役に立つということでQoLが高まる。そのために技術がどう寄り添うことができるのか。そこを出発点にして考えていきたい」と述べた。

 さらに、小川CTOは、「会社として成長する分野を見定めて、重点的に投資をしていくことは変わらないが、右肩あがりの成長から定常社会へと移行していくことへの構えも大切である。都市と地方の関係が見直され、大量生産や大量廃棄から、循環型社会への移行といった動きがあり、ESG経営の観点から、技術開発プロジェクトのポートフォリオを変えていく必要がある」とした。

 加えて「社会課題からバックキャストをすると、各社とも同じようなビジョンになる。そこに、パナソニックらしさのある仮説をどうつくるかが大切である。コロナ禍において、改めて、生きていくために不可欠なものはなにかということが問われている。そこでは、素早くスマートに答えるといった競争から、良質の問いを抱え続けられる能力が重要な時代になっていくだろう。『知的な肺活量』がどれぐらいあるかが求められる時代になる。人が生きるために本質的に必要なものを大切にしたい」とコメント。「そのためには、考え方について、とことんまで考える営みである哲学と、判断の規矩となるものとして身体が重要になる。脳が考えているのは、身体のセンシングの結果である。最後の判断は、身体が喜ぶかどうかである」などと述べた。

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