ソニーとパナソニックが新体制へ--その中身から読み解く電機大手2社の今後

電機業界初の最終利益1兆円突破に王手をかけるソニー

 ソニーとパナソニックが、4月1日付で、新たな体制をスタートした。ソニーは、ソニーグループに社名を変更。グループ本社機能に特化した会社とする一方、ソニーの社名は、祖業であるエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業が継承した。

 新たなソニーでは、エレクトロニクス事業の中間持株会社であるソニーエレクトロニクスと、その傘下にあったデジタルカメラなどを担当するソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、テレビやオーディオを担当するソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ、スマートフォンなどを担当するソニーモバイルコミュニケーションズを統合し、本社が担っていたエレクトロニクス事業の間接機能の一部も統合。これまでに比べて独立性を高めた体制を敷くことになる。

 社長兼CEOには、デジカメ事業やスマホ事業を担当してきた槙公雄氏が就任した。ここ数年、ソニーのエレクトロニクス事業の顔だった石塚茂樹氏、高木一郎氏からバトンを引き継ぎ、槙社長兼CEOを中心に50代半ばの役員が経営を引っ張ることになる。

 これにより、ソニーグループを頂点とした新体制では、エレトクロニクス事業を担うソニーのほか、ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、金融、デバイスといった主要事業における事業会社を傘下に置く形で構成。ソニーグループは、長期視点でグループ全体の価値向上に向けて、事業ポートフォリオ管理とそれに基づくキャピタルアロケーション、グループシナジーと事業インキュベーションによる価値創出、イノベーションの基盤である人材と技術への投資を行うことになる。

 ソニーグループ 代表執行役会長兼社長兼CEOの吉田憲一郎氏は、「各事業の進化を促進し、ポートフォリオの多様性を強みにしていくためのグループ経営施策」と位置づける。

 歴史を持つソニーの商号をエレクロニクス事業が継承したことから、外から見ると「エレキのソニー」という看板を改めて重視したように見えるが、実態は大きく異なる。むしろ、ソニーグループの経営では、エレクトロニクス事業を中心にしていたかつてのソニーからの決別を明確にしたといってもいい。

 ソニーは、2020年度通期業績見通しとして、売上高で8兆8000億円、営業利益では9400億円、当期純利益は1兆850億円と掲げている。過去最高益の達成を目指しており、最終利益では、電機業界初の1兆円突破に王手をかけている。環境変化が激しいコロナ禍においても力強い成長を続ける、同社の強い経営体質を示すものだ。

ソニーの好調な業績を牽引するゲームビジネス

 この好調な業績を牽引しているのが、2020年11月に発売した「PS5」を含むゲーム&ネットワークサービス(G&NS)である。2020年度第3四半期累計では、売上高の3割、営業利益では3分の1以上を稼ぎ出している。営業利益額では、この事業だけで、パナソニック全体を上回っている。

 しかも、特筆すべきは新たなコンソールを発売した年にこれだけの利益を計上している点だ。プレイステーションの事業は、もともとハードウェアで稼ぐのではなく、ソフトウェアなどによって稼ぎ出す長期的なサイクルでビジネスを行ってきた。自らプレイステーション向け半導体を開発していたときには、利益を出すのに4年かかったこともあった。

 ソニーグループ 取締役代表執行役副社長兼CFOの十時裕樹氏も、「PS5単体では逆ザヤ。ハードウェアの戦略的価格設定による損失計上はあった」とコメントしているが、「ネットワークサービスの増加によって、ゲーム事業の収益構造は大きく変化している。実際、ハードウェアの世代交代期である2020年度に過去最高水準の利益を見込むことができている」と発言。ゲーム&ネットワークサービス事業の体質を大きく強化していることを示してみせる。

2020年11月に発売した「PS5」
2020年11月に発売した「PS5」

 さらに、ストリーミングの売上げが引き続き高い成長を遂げている音楽事業、保険ビジネスが順調に拡大している金融事業に加えて、ファーウェイ向けの出荷停止によりマイナス影響を受けていたイメージング&センシング・ソリューション(I&SS)も出荷の一部再開と、別の顧客からの受注増により、通期見通しを上方修正したところだ。

 唯一の懸念事項が、映画事業であるが、アニメ専門配信サービスを提供する「クランチロール(Crunchyroll)」や、インディーズ向け音楽制作および配信プラットフォーム事業を行う「AWAL」などの買収により、新たな収益確保に挑んでいる。

 そしてこれらのビジネスに共通しているのが、かつてのエレクトロニクス事業にはなかったリカーリングビジネスをベースにしているという点だ。それが長期的な好業績を下支えする要因になっている。

 ソニーグループによる新たな体制での成長の柱は、エレトクロニクス事業以外のところに比重が置かれている。体制の再編は、エレクトロニクス事業を、横並びに位置づけられるひとつの事業に再定義したと捉えた方がよさそうだ。

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