照明一体型プロジェクター「popIn Aladdin」がヒット商品になりえた理由--popIn程涛社長【後編】 - (page 2)

永井公成(フィラメント)2021年03月26日 09時00分

リスクを承知でハードウェアに進出できた理由

角氏:意思決定についてもお聞きしたいです。程さんが扱ってこられたソフトウェア的なものに対して、ハードウェアを作るとなると、在庫を持つとかさまざまなリスクが発生すると思うんです。こうしたリスクがあると分かっていたにも関わらずなぜやると決断できているのかを知りたいです。

程氏:自分が最大損失を負えるか、ということだけです。この事業は、試算上は最悪億単位の損失になります。しかし、それは本業の基盤があるからこそ実現できたことです。仮に100億だったら、おそらくゴーサインを出せないでしょう。さらにバックグラウンドにBaidu Japanがあるということが大きいです。

 よく他のソフトウェアベンチャーの社長に「ハードウェアを考えていますが、どう思いますか?」と聞かれることがありますが、「おすすめしません」と答えています。会社が本業で億単位で利益が出ていれば、挑戦できるかもしれませんが、万が一軌道に乗らなかった場合、会社が倒産してしまうかもしれません。popInは幸い2011年から黒字で、毎年約50%ほど成長しているので、最大損失を抱えても自らで背負いきれるかどうかを、きちんと判断しています。

角氏:程さんは「ユーザーにはこれが必要だ」という仮説を立てて、実際に少しずつ仮説を検証し、存在しなかったマーケットも少しずつ大きくしていくという、デジタルで経験されてきたやり方をうまく使いながら歩まれているようにも見えます。

程氏:それはおっしゃる通りです。大企業がイノベーションを起こすには、「アイデアがあるので、クラウドファンディングで少し検証していいですか?」、もしクラウドファンディングに成功したら「ちょっとつくってみませんか?」と、少しずつ上層部への信頼を獲得する方法がよいのではないでしょうか。さらに、テストマーケティングを実施し、実績を作りながら実現していく。つまり、ベンチャーならではの初期の方法を大企業にも導入して、イノベーションを起こすこと、そしてそれを実績として目にみえる形にすることが、結果的には上層部からの信頼につながると考えています。

キャプション

角氏:なるほど。その上層部の信頼を得るために、ほかに気をつけられていることって何かありますか。

程氏:適切な表現で伝えることです。Baidu本社で会長に話す際にも、大きく表現しすぎると信頼を得ることは難しいですし、小さすぎる表現では可能性を感じられないため、ちょうどいい表現で伝えることがとても難しかったです。そのため、数字ではなく「可能性」で表現しました。

 人はそれぞれ経験したことが違うので、popIn Aladdinの5年後の事業規模を想定する際にもそれぞれ異なります。だから僕のできることは、このデバイスの可能性を感じてもらうことだと考えました。これもできる、あれもできると想像力を膨らませることが僕の役割だと思います。自分の描いている未来が本当に実現性があることか、製品化したら本当にその先に可能性があるのか、という点をきちんと自分の言葉で説明します。僕の場合は、「リアルである」ことを前提にしているので、会長に説明する際に見せたビデオでは、僕自身や僕の家族が出演しています。

角氏:すごいですね。未来の可能性をリアリティをもって示すことが大事なんだということですかね。

程氏:そうですね。トップになる方って皆さんとても素晴らしです。いかに確信してもらうかが重要で、そのためには数字ではなく「プロダクト」が大事です。プロダクトがあるから粗利があり、粗利があるからマーケティングがあり、マーケティングがあるからセールスがあり、セールスがあるからアフターサービスがある。それらをすべてサポートするファンクションとして、財務があると思っています。

 つまりプロダクトがいいかどうかが根幹なので、それをいかに想像力を膨らませて表現できるかが大事です。プレゼン能力ですね。CEOや事業責任者に最も求められる競争能力だと思っています。この能力により、得られるリソースが変わってくるのではないでしょうか。

角氏:なるほど。素晴らしい。ありがとうございます。最後に、事業開発されている方に対してアドバイスをすることがあるとしたら、何かありますか。

程氏:「今の事業の本質は何か、お客様は何を買いたいのか」をもう一度考えてみる、ということをお伝えしたいです。事業をやっていくうちに、数字に追われることも増えようになり、本来自分がやりたいことを見失ってしまいがちです。目の前のKPIに追われて、それに対応していくので精一杯になりますが、ちょっと一息とって、本当に自分のやりたいことかを、もう1回考える時間があったほうがいいと思います。それは僕も同じです。その中でも現状が目指す未来に向かっているかどうかを確認し、修正するようにしていきたいと思っています。

角氏:自分が提供したい価値、世の中をどうやってに良くしていきたいのかということ。そこをブレずに見つめなおす時間が大事ということですね。ありがとうございました。

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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