企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発やリモートワークに通じた、各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」。今回はpopIn代表取締役社長の程 涛(テイ トウ)さんです。
世界初の照明一体型プロジェクター「popIn Aladdin」を販売するpopIn。同社は、もともと家電メーカーというわけではなく、ソフトウェアの会社で、iPhoneが最初期に文字列のコピー機能がなかったため、独自にコピー、そのまま検索できるようなプログラムを開発したことに始まります。程さんにメディア初公開となる起業時のスライドを紹介いただきつつ、当時のエピソードをお話いただきました。
程氏:僕は中国の河南省の生まれで、高校を卒業してから来日して、大阪の日本語学校に入りました。中国の大学入試は、「統一試験(普通高等学校招生全国統一考試「高考」)」といいまして、このテスト1回ですべてが決まります。僕はこのテストで得意な国語で失敗し、入りたい大学に入ることができませんでした。
その後、たまたま親戚の紹介で日本に来る機会があり、「日本に来たらチャンスがあるかもしれない」と考えて来日しました。大阪で2年間勉強してから、東京工業大学(以下、東工大)に進学しました。学部卒業後、そのまま修士に進学する場合の合格率は95%なのですが、実は僕は残りの5%で落ちてしまいました。
角氏:そうなんだ!?
程氏:過去問で唯一できない問題が試験に出てきて、それが解けず見事に落ちました。東工大の指導教員と、留年して再度チャレンジしましょうという話になっていましたが、留年手続きの当日に東京大学(以下、東大)の大学院の冬季入試の結果が発表され、結果は合格でした。急いで先生のところに行き手続きを止めてもらって、東大の大学院に行きました。運命だと思います、本当に。
角氏:すごい経歴ですよね。
程氏:落ちて、落ちて、落ちて、この人生。あらゆる試験に落ちたからこそ、今の僕があると思っています。
角氏:挫折の経験もおありだということが分かりました。では、そこからですよね。
程氏:東大で修士課程の在学中である2008年にpopInを設立しました。情報工学科の創造情報学専攻は当時新しい専攻で、専攻長が、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の未踏事業を担当されている竹内先生でした。未踏事業はITを駆使してイノベーションを創出する突出した人材を発掘・育成することを目的とした事業ですね。今の技術をどんなものに応用できるかという専攻に魅了されました。
この専攻に入ると、事前公募というプログラムがあります。自分のアイデアを申請して通ったら、1年間はメンターつきでアイデアを形にして、翌年にシリコンバレーに行って発表することができるプログラムです。
角氏:そんなプログラムがあるんだ!
程氏:そうです。当時の事前公募で考えたのがpopInの原型となるソフトウェアです。2007年にiPhoneが初めて発表されましたが、日本ではiPhoneがまだ発売されていませんでした。代わりにiPod touchが欲しくて、iPod touchのために提案しました。
App Storeはまだない時代でした。当時のブラウザはまだとても使いにくく、文字列のコピーもできなかったのです。インターネットで何かを調べようとしたらとても大変だったので、自分自身で40行程の簡単なJavaScriptを作ってみました。それを起動するとページ内のコピー、翻訳、検索などが可能になりました。
それをアメリカに持って行って、Microsoft、UCバークレーとスタンフォード大学、現在のサン・マイクロシステムズの4カ所に行ってプレゼンしたら、同じ時にプレゼンされた十数個のプロジェクトの中で、僕の作品が一番高評価をいただきました。サン・マイクロシステムズのシニアマネージャーの方から、唯一僕だけに名刺を渡され、「投資をしたい」という提案とプレゼンする機会をいただいたことですごく自信になりました。未踏のトップの竹内先生が推奨すれば間違いないだろうと思っていたのですが、そのあとサン・マイクロシステムズの方に連絡しても返信がこないという、エピソードの続きがあったんですけどね。
角氏:当時のインターネットサービスでコピペできないところに気付き、いち早くそのプログラムを自身でと作ってしまうところがまずすごいですね。
程氏:iPhoneの画面サイズが小さいため、ポップアップで表示するのではなく、周りの情報に邪魔されないインターフェイスで検索結果を表示する、これに由来して「ポップイン」を社名(popIn)にしました。
アメリカから帰ってきて、これはもしかしたら起業できるかもしれないと思い調べたところ、東大の中に「UTEC」という投資会社と「TLO」という特許の管理会社がありました。このアイデアで特許を申請して会社が作れるのではと思い、指導教員の田中久美子先生に相談したら、先生自らUTECの社長とTLOの社長を呼んでくださって、僕にプレゼンのチャンスを作ってくれました。このような2社の社長を呼んでいただけるのは大変貴重でした。
当時の資料もあります。
角氏:見たいです。それは初公開じゃないですか?
程氏:そうだと思います。こちらです。
程氏:TLOとUTECの社長から、「これは早めにやったほうがいい。これをまず東大に特許として譲渡し、東大が権利を持ち、産学連携の仕組みを使って投資を受けるよう会社を作ったほうがいいよ」というような具体的なアドバイスをいただきました。UTEC社長自ら投資契約の書類を作成してくださり1週間後には手元に届いていました。
角氏:すごいサポートだ。
程氏:でも当時、僕が取得していたビザは勉強のためのビザだったので、社長にはなれないということになり、別の人を社長にしました。つまり僕は、会社設立当初「アルバイト兼株主兼取締役」という妙な立ち位置だったのです。
角氏:ビザの関係でそういうことになったんですね。
程氏:そうですね。そのような経緯から約4000万円の投資を受けることができました。当時僕が50行ぐらいのこのプログラムは、僕の人生最高のプログラムだと思います。1行が80万円ですね。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」