NTT ドコモ・ベンチャーズは3月9日、オンラインイベント「NTT DOCOMO VENTURES DAY 2021」を開催した。2021年のテーマは「Adapt To The Future」。コロナ禍ということもあり、初となるオンライン開催となった。
ここでは、スペースマーケット代表取締役社長の重松大輔氏と、RevComm代表取締役の會田武史氏が対談したFuture Session「スタートアップ変革最前線」をレポートする。いま最も注目を集めるスタートアップ2社が、日々変わる社会情勢をどのように捉え、いかに対応してきたのか。モデレーターはシニフィアン共同代表の朝倉祐介氏が務めた。
スペースマーケットは2014年に創業して2019年に上場した、スペースシェアリングプラットフォーム「スペースマーケット」を手がける企業だ。会議、オンラインミーティング、面接、少人数の女子会、テレビ局やYouTuberの撮影、パーソナルトレーニングなど、活用の幅はとても広い。
一方のRevCommは2017年創業。今年で4年目のスタートアップで「MiiTel(ミーテル)」という、電話営業やコールセンター向けのAIによる会話分析サービスを提供している。担当者によるパフォーマンスのバラつき、顧客満足度のバラつきなどの「ブラックボックス化問題」を可視化して生産性向上を図っている。
モデレーターの朝倉氏は両社の事業概要を聞いた後、本題へと入った。
朝倉氏:2020年は大激動の1年でした。まずは重松さん、上場直後のコロナ禍でしたが、事業への影響やその対応についてお聞かせください。
重松氏:スペースマーケットは、コロナ前は飲み会やパーティ、イベントなどの用途が多かったので、2020年4月から5月、緊急事態宣言が初めて出たときには、売上が昨対比で3分の1まで落ち込み、「ずっと続いたらどうなっちゃうんだろう」と、非常に危機感を覚えました。数カ月ズレていたら、上場もできていなかったと思います。
朝倉氏:とはいえ、年間通しては、業績は上がっています。
重松氏:はい。一方で、新しい使い方がどんどん生まれてきたのです。これまでも、“日々使い”のワークスペースとしてご利用いただきたいと考え「テレワーク・デイズ」など総務省が推進する施策への参画などもしておりましたが、コロナ禍で期せずして新しい働き方の需要が増え、ワークスペース利用が伸びました。
朝倉氏:コロナ禍で生まれた新しい利用は、ほかにもありますか。
重松氏:はい、2〜3人などの少人数利用も増えました。これまでは飲食店に行っていたけれど、不特定多数との接触が気になるということで、仲間内で女子会をしたり、映画鑑賞やゲームをするといったパーソナルスペースとしての需要が生まれました。
朝倉氏:2020年はハンコ(印鑑)が象徴的ですが、本来こういう未来に進むのではないかという方向へ、世の中が一気に加速度的に進んだという側面もありました。
重松氏:そうですよね。クラウドでの署名もかなり進みましたし、特に必ず対面だった金融機関とのやり取りも「オンラインでいいよ」となって。生産性はかなり変わったし、スタートアップとしても一気にチャンスになったと思います。
朝倉氏:同じ質問で、コロナの事業への影響と対応について、會田さんお願いします。
會田氏:私は起業した2017年当時、ティール組織やホラクラシー経営が出てきてマネジメントからエンゲージメントへと組織のあり方が大きく変わる、しかもこの変化は不可逆であり加速すると考えていました。決済領域でも中央集権からピアへという同じような動きがあって、組織の在り方もトップマネジメントによる中央集権型から、ピアである従業員中心のエンゲージメント型にシフトすると考えています。
そんななか、労働集約的な営業にメスを入れるべく、リモートセールスやリモートコールセンターを実現するようなサービスを手がけてきたのですが、「今後10年でそちらの方向にシフトする」と考えていたものがこの数カ月や1年で一気にパライムシフトが起きました。
朝倉氏:そうした変化に適応するために何をしましたか。
會田氏:「今後、世の中の流れはこうなる」ということに即して、組織を作っていこうと考えていたので、弊社は創業以来、リモートOKにしていて、そうした基本方針は全く変えずにいました。ただ、2020年は組織の人数がものすごく増えたので、どうやってカルチャーを作っていくかは難しかったですね。
朝倉氏:スペースマーケットさんもリモート中心ですよね。コロナ禍でリアルで自然なコミュニケーションを取れなくなったなか、新たに入社した人をいかに組織に溶け込ませるかにおいて、何か良い方法はありますか。
重松氏:うちは新卒がいないので中途主体の話になりますが、入社した方の自己紹介ビデオを作ってみんなに見てもらったり、Slackで趣味のチャンネルを作ったり、雑談をチームで意欲的に取り入れるなどしています。とはいえ、オンラインでは限界もあるので、5拠点くらいに分散して集まりオンラインで社員会を開催したり。でも、全然足りないかなという感じです。
會田氏:雑談の施策って、たとえばどんなことですか。
重松氏:チームによって異なりますが、朝10時に始業するときにチェックインということで集まって、昨日あった良いことやシェアしたいことを各人がばーっと喋るとか。これは結構いいみたいですね。あとはClubhouseを使って、自社の企画会議にゲストとしてパートナーをお呼びして公開で行うなど。意外といろいろな気づきがあって、そこから商談が生まれたり、面白かったです。
朝倉氏:RevCommさんは、コロナ禍の働き方を先取りしていた会社ですが、カルチャー形成において創業当時から意識してきたことはありますか。
會田氏:レブコムカルチャーブックという、カルチャーを言語化したものを作って、入社される方に説明しています。「誰と、どんな手段で、何をやろうとしているのか」を説明して定着させてきましたが、1on1をしていたときに「これって全て會田さんの言葉ですよね」と言われたのです。「前職の時にカルチャーブックをみんなで作ったら、みんながそれにコミットした。だからカルチャーができたんだ」という話をしていて、それはいいねということで、各部署にカルチャーリーダーというのを置いていままさにリビルディングしています。
重松氏:うちも社員8人くらいの時に、ビジョン、ミッション、バリューを作りましたが、定期的にそれをリビルドして、いまのものになっていますね。人がどんどん増えていくとビジョン、ミッション、バリューが薄れていくこともあるので、採用の段階から共有し、入社のタイミングで改めて伝えるようにしています。
會田氏:新卒採用をするとカルチャーが強くなるとよく聞くのですが、スペースマーケットさんでは新卒採用されていますか。
重松氏:採用公募の中に入ってきた方がたまたま新卒だった、ということはあります。
會田氏:アダプトしやすいのは新卒なのか中途なのか……?
重松氏:やっぱり、新卒がアダプトしやすいのではないでしょうか。ただ一方で、これからの社会を考えると、ダイバーシティ的な観点でもいろいろな経験を持った人が集まるなか、そのうちの1人がたまたま新卒だったくらいがよいのではないかと思っています。まあ、経営者の考えはすぐに変わりますから、来年は違うことを言っているかもしれませんが(笑)。
朝倉氏:何を求心力として人を集めているかによっても違いますよね。とある既存事業が強かった会社が行き詰まって、新規事業にスライドしていくとき、何が起きたかというと、古参社員のほうが抵抗感を示すのかと思いきや、最近入った方がなかなかついていけなかったという話があります。
古参の方は、会社の歴史を通じて事業が変わってきたのを体験しているので、「こんなこともあるよね」と新しいことをキャッチアップできるのだけど、既存事業が求心力になって集まった方はそれに注力できなくなると、「聞いていた話を違う」となってしまう。1つの事業が未来永劫続くことはないわけなので、組織の目指していることや組織のカルチャーが非常に重要になるのではないかと思います。
重松氏:そうですね。採用については、「本当に優秀で柔軟性のある人材を獲得すれば適応できるから、入社するまであえて事業の話はしない」というBtoBの会社さんもありますし、僕らのビジネスはCtoCのシェアリングビジネスを実際に面白いと思ってくれている方がよく応募してくださるし、「どこで握るのか」というのは会社やビジネスによってだいぶ違うのではないかと思います。
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