Googleは3月9日、2011年の登場から間もなく10周年となる「Chrome OS」および「Chromebook」についてオンライン発表会を開催。プロジェクト開始当初の理念、10年間で起きた変化、今後の方向性などを説明した。3月10日より順次提供される最新版「Chrome OS M89」の新機能の概要にも触れた。
GoogleのChrome OS製品開発およびUX統括を務めるJohn Maletis氏によると、10年前のPCは「複雑怪奇で、起動に時間がかかり、古くさいハードウェアを採用していました。(OSなどの)アップデートはやりにくいものでした」という。これがモダンなOSであるChrome OS、そしてChromebookの出発点になった。
Chrome OSはWebのパワーを中心にデザインされ、高速なこと、セキュリティが高いこと、簡単に使えること、という3つのビジョンが掲げられた。たとえば、暗号化ストレージの採用により、デバイスが盗まれてもデータ漏えいの心配がなくなった。ウイルス対策ソフトをユーザーが管理する必要もない。
なかでも力を入れたのが、ソフトウェアを最新状態で保つこと。Chromebookは最新かどうか確認し、必要に応じてバックグラウンドでアップデートを実行する。そのため、より優れた、より高速な状態へ自動的に進化していく。開発当初から、数週間に1回の頻度でChrome OSをアップデートする方針であったそうだ。
Chrome OSのそうした特徴が評価されたのか、販売を始めたころは2台目のマシンとして使われる補助的デバイスだったChromebookが、このところシェアが拡大し、1台目の主デバイスになってきた。この背景には、Webの標準化が進んだことと、デバイス上のアプリよりもクラウドサービスやWebアプリを多用するようになったこと、という10年間の変化もある。
現在、Chromebookは仕事や勉強、遊びに使われるデバイスであり、職場だけでなく家庭の学生や消費者にも利用されている。最近では、販売されるデスクトップ・デバイスのうちChrome OS搭載を搭載しているものは、世界全体で10台に1台、米国だと5台に1台にもなるとした。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響もあり、PCやその他デバイスに求められる機能が変化してきたという。外出先など、どこからでもネットワーク接続して使うことや、多種多様なデバイスのあいだを行き来して作業する機会が増えている。
また、1人のユーザーがその時々の立場や場面で使い方を変えるマルチモーダルも求められる。Maletis氏だと、「Googleで働きながら、家庭では子供のリモート学習用IT環境で管理者を担当しますし、ホームパーティではダンスのDJも務めます」といった具合だ。
最新版のChrome OS M89には、こうした要求に応える機能拡張や機能追加が施されている。
GoogleのChrome OSプロダクトマネージメント ディレクター、Alexander Kuscher氏は、Chromebookとその他デバイスとの連携を強化することで、ユーザーの生産性を高めると説明。具体的には、以下の機能を紹介した。
ChromebookとAndroidスマートフォンを連携させ、Chromebookからスマートフォンのバッテリ残量や電波受信状況などのステータス確認、テザリング機能のオン/オフ切り替えなどを可能にする。最近使ったアプリにアクセスしたり、通知からメッセージを読んで返信したり、といった操作もできる。
Chrome OSとAndroid OSのあいだでテキストや写真、ファイルなどを簡単に共有できる機能。「メールより安全で、USBより高速で、オフラインでも機能する」そうだ。安全性に配慮しており、誰からの送信を許可するかの設定が可能。現時点では、WindowsやMac OS、iOSなどに対応する予定はない。
Wi-Fiログイン情報を共有する「Wi-Fi Sync」機能を拡張し、Chromebook間だけでなく、ChromebookからAndroidスマートフォン、AndroidスマートフォンからChromebookへの情報共有もできるようにした。この機能を利用すると、Chromebookで接続しているWi-Fiネットワークにスマートフォンも接続したい場合、同じGoogleアカウントを使っていれば、ネットワークやログイン用パスワードなどの情報を再入力せず自動接続できてしまう。
Chromebook自体も使いやすくなる。こちらについては、GoogleのChrome OSプリンシパル デザイナーであるJenn Chen氏が解説した。
スクリーンキャプチャ機能。画面をキャプチャして画像データを取得するだけでなく、操作のようすを録画できる。
よく使うファイルや、最近使ったファイルが1カ所にまとめられる場所。ファイルやスクリーンショット、ダウンロードしたものなどにすぐアクセスし、簡単に再利用やシェアができる。
クリップボード機能が強化され、直近5つのアイテムにアクセス可能となる。コピー&ペーストを繰り返す際、ウィンドウやタブ、ドキュメントのあいだを繰り返し行き来する必要がなくなり、操作性が向上する。
仮想的なデスクトップ機能。オーバービューモードでは、ウィンドウを動かしやすくなるという。
検索を素早く行う機能。表示されているテキストを選択してハイライト表示させると、その場で検索や単位変換、翻訳などが実行できる。検索用のタブやウィンドウをわざわざ開く必要がない。
テキスト読み上げ機能。改良され、速度調整、読み上げの一時停止、読む場所の変更がリアルタイムに実行できる。
Chromebookの製品構成は、多種多様なユーザーの要求に対応できるよう選択肢を増やす。2021年には、世界で50種類以上のChromebookがさまざまなメーカーから発売される予定だそうだ。
さらに、Googleは機能や仕様に対する地域ごとに異なる要望も重視している。たとえば、日本では教育現場で縦書き機能が求められるにもかかわらず、Chromebookのすべてのアプリが対応している状況ではない。こうした要望を吸い上げ、場合によっては対応しようと、社内でローカライズチームが活動しており、特に重視している日本では調査チームを設けたという。
今後のChrome OSおよびChromebookが目指す方向について、Maletis氏は以下の4つが鍵だとした。
ユーザーが使っている状況、つまりコンテキストに応じて賢く動作を変える。
LTE対応Chromebookを拡充してどこでもネットワーク接続できるようにする。そして、オフラインでメールやファイルにアクセスできる機能も拡充していく。
デバイス間の行き来をシームレスにして、仕事に集中しやすく、生産性を高められるようにする。
これから重要度が増す一方のセキュリティに注力していく。
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